前作『孤狼の血』(2018年)の続編となる映画『孤狼の血 LEVEL2』が、8月20日より公開された。前作で先輩刑事である大上(役所広司)を失い、その遺志を引き継いだ本作の主人公・日岡(松坂桃李)の前に立ちはだかるのが、凶悪なヤクザ・上林(鈴木亮平)だ。

自らの正義を信じて疑わず、非道の限りを尽くす上林のバックボーンには、幼少期の悲境やトラウマがあった。メガホンを取った白石和彌監督が「日本映画史に残る悪役」とも称した、同作のキーマンである「上林」に込めた思いを監督に訊いた。

取材・文/ミルクマン斉藤 写真/木村正史

「やりたい放題ですよね。(鈴木)亮平くんは罪悪感に苛まれてた」(白石和彌監督)

──本作は(原作者)柚月裕子さんの『孤狼』シリーズ2作目の小説『凶犬の眼』(角川文庫/KADOKAWA刊)の映画化かと思ったんですが、完全オリジナルストーリーですよね。

白石:前作で小説から結末を結構変えちゃったので、『凶犬の眼』に繋がりにくくなったんです。どうせだったらヤクザをいっぱい出した方が映画としては戦っていけるなと思って(笑)。オリジナルストーリーでいいか柚月先生に相談したら、あっさり「あ、いいですよ」って流れに。

──そもそも前作『孤狼の血』だって、映画的なキモとなる部分は全部オリジナルですもんね。

白石:小説だから成立してる部分がどうしてもあって、そこを映画的な手法に置き換えざるを得なかった。それがそういう風に見えるんだと思いますね。

──でも、そんな箇所こそが、こうしたジャンル映画のダイナミズムを作っている。今回もそれは受け継がれていて、まず人物の行動ありきですもんね。

白石:そうなんですよ、1作目は良くも悪くも浪花節的で。過去にこんなことがあった、というところから物語が進んでいくんですが、それを使い果たしちゃった。だから今回は、目の前で起こったことが崩れていったり連鎖していって、次に何が起こるんだろうっていうのでドキドキさせるのが、エンタテインメントとして1番正しいだろう、とやりながら思いました。

──まさに『LEVEL2』って感じでしたね。「PART2」というよりも、そのハードさがまさにレベルアップしてる。観たあと『仁義なき戦い』シリーズの第2作、「広島死闘篇」(1973年)みたいな立ち位置だと感じたんですが、意識されましたか?

※編集部注/『仁義なき戦い』:深作欣二監督による東映のヤクザ映画シリーズ、和製バイオレンスアクションの金字塔的作品

白石:撮ってるときはそんなに意識しなかったんですけど、結果「広島死闘篇」になってましたね(笑)。

──「広島死闘篇」って、主役の菅原文太は完全にサブキャラになっちゃって、北大路欣也と千葉真一の話にシフトして番外編みたいになってる。今回の作品はそこまでじゃないけれども、上林(鈴木)っていう最凶最悪なキャラクターが出てきてお株を奪っちゃう。しかものっけから残忍極まりない。

白石:あんなキャラは『仁義なき戦い』にはいないんですけどね(笑)。

──いたら大変ですよ。東映実録路線最悪のキャラである『仁義の墓場』(1975年)の石川力夫どころじゃない。石川以上に仁義もクソもない。

※編集部注/石川力夫:東京・新宿で勢力を築いた暴力団「和田組」に属していた実在のヤクザ ヤクザ社会の掟を守らない「狂犬」と呼ばれ、その半生を映画化した作品が『仁義の墓場』

白石:やりたい放題ですよね。亮平くんは、最初の筧(美和子)ちゃんを襲うシーンで「そこまでやるか。えらいことしてしまった」って、罪悪感に苛まれたと言ってました。普通オフショットで済ませるところを、ばっちり撮りましたからね。

「これくらいやらないと、日岡の相手として足り得ない」(白石和彌監督)

──そもそも、鈴木さんを上林役に選んだ理由は?

白石:上林って、脚本を作ってるときにはやりたい放題書けるけど、「こんなの誰が演るんだよ!?」ってずっと思っていて。あぁ、故・渡瀬恒彦さんしかいないよな、とか(笑)。でも、僕の過去作『ひとよ』(2019年)に出てもらったときの亮平くんの役者としての取り組みがすごかったんで、彼なら作りこんでくれる、任せられるなという安心感があった。

※編集部注/渡瀬恒彦:『仁義なき戦い』シリーズなど東映のヤクザ映画に多く出演した俳優 兄は2020年に亡くなった俳優の渡哲也さん

──作品資料を読んだら、上林という役について最初から「日本映画史に残る悪役にして欲しい」って、鈴木さんにオファーされてるのが可笑しいなと。

白石:造形としてやりすぎてる感はあるんですけど、それくらいやらないと日岡(松坂)の負け戦の相手として足り得ない。どうせなら思い切ったところまで作ってみて、そこから引き算していこうかなと考えたんですが、意外と周囲から評判良くて。そのままいくことになりました。

──間違いなく日本映画史に残る最悪キャラになった。やることが本当に無残極まりなくて、親に盾突くどころじゃない。でも、上林が抱えるトラウマ含め、過去を描くシーンがあります。美術セットや撮影含め非常に鮮烈に作られていると思うんですけど、その背後の赤い原爆ドームが巨大な怒りの意味を浮き上がらせる。

白石:上林の原動力である「怒り」の表れですね。実録ヤクザ映画をずっと書いていた脚本家・笠原和夫さんが、ヤクザを掘れば掘るほど、在日と被差別部落に行き着くと。逆にそこを描かずヤクザは描けないから、(タブーに触れることを恐れて)みんなヤクザ描くのを辞めていくんですね。エンタテインメントとして面白いものを作るのは当たり前なんですけど、そこに1秒でもそうした問題意識を入れるのは、今の作り手としての誠意だと思ったんです。

──そこで上林が在日だってことが分かるし、日岡のスパイとして彼の懐に入りこむチンタ(村上虹郎)と、その姉の真緒(西野七瀬)も在日。同じ民族としての繋がりみたいなものと愛憎がしっかり描かれる。

白石:この映画のなかで何かしらの犠牲になっていく人たちは、「差別される側の人たち」ということが分かれば、何か感じてもらえるんじゃないかなって。

──それが日岡を代表とする公権力との戦いのなかで展開されるわけですね。一応『孤狼の血』ってヤクザ映画であると同時に刑事モノ、警察内部の戦いもしっかり描かれる。日岡の目上には前作にも登場した不穏な空気の滝藤賢一がいて、本作で新しくバディを組んだ中村梅雀も、さすがの存在感でした。

白石:前作でも、日岡対ヤクザ、対刑事の戦いがあって。続編では同じことは出来ないかなと思っていたんですけど、脚本の池上純哉さんと話してるうちに、敢えてもう1回入れることによっていろいろ見え方も固まってくるだろうと。すごく上手くいきました、キャスティングの妙も踏まえて。

「前作の役者が作った雰囲気を、追っかけて作ってくれた」(白石和彌監督)

──キャスティングといえば、斎藤工とか渋川清彦は前作にも出てたみたいな馴染みようで。白石監督にかかると、そういう面つきにしちゃうのが上手いなぁと。

白石:それは前作の役者さんが作ってくれた雰囲気を、みんな追っかけて作ってくれたんですよ。(前作で主演をつとめた)役所さんのことを桃李くんと亮平くんが話してるなと思ったら、翌日の芝居で「ちょっと役所さんの芝居入れてないか?」っていうことも結構あったり。

──桃李くんは役所さんの芝居入ってても全然おかしくないですよね。ああいう(役所演じる大上のような)刑事になろうと決心したんですから。

白石:日岡の場合は、父親みたいに思っている大上のようになろうとするのと、大上のようには終わらないぞっていうのが入り混じった複雑な感情じゃないですか。それで真似するのは悪くないと思ってたんですけど。でも上林まで入れる必要ないんだけど、役所さんの芝居が入ってたりするんですよ(笑)。

──あはは(笑)、それはシリーズの「血」ってことで。このシリーズは、役所さんというか、大上の血がどう受け継がれていくか、ってことがはっきりしたので。あと今回のキャストでいうと、村上虹郎さんがすごく良い!

白石:彼は元々、モノが違う感がありますね。両親は俳優・村上淳と歌手・UAということもあり、いろんな感性のなかで育ってきたって感じがものすごくして。フォトジェニックかつ、あんなに芝居が上手い・・・、感動しましたね。

──彼のお姉ちゃん・真緒役に西野七瀬を持ってくるっていうのは意外でした。

白石:西野さんのことは、乃木坂46のときから好きだったんです。真緒は両親がおらず1人で家を回してて、芯があって、でも弟のことを心配してる、必死な感じが西野さんに合うんじゃないかなと。一か八かでオファーしたら、「やります」って返事も早くて。でも西野さんに実際にお会いすると、「不安しかありません」みたいな感じでした。

──今まであんな役なかったでしょうしね。あと上林の舎弟には、白石監督の作品『止められるか、俺たちを』(2018年)に出ていた毎熊克哉さんがいて。その横でやたら気色ばってるのは、ダンスパフォーマンスユニットのs**t kingz(シットキングス)のOguri、小栗基裕だった。

白石:彼は映画出演は今回が初めてだそうです。オーディションに来てくれたんですよ。僕は失礼ながら、そんな有名人だって知らなくって。芝居見たら面白くて、すぐ決まりました。

──なんか前作の中村倫也みたいな勢いがあって良かった。

白石:そうそう、そんな感じ。暴力団のキャストでいうと彼のほかにも、早乙女太一ってヤバい天才がいる。彼は小さいときから旅回りをしていて、ヤバそうな人いっぱい見てるんですよ。

──佇まいがイイですもんね。そういえば、キャスティングの極めつけといったらやはりかたせ梨乃さん。

白石:そうなんです! キャスティングオファーしたら、「なんだと思ってるの」と怒られるかと思ったんですけど、すごく喜んでくれました。

──しかも役名が「環」(笑)。わざとでしょ?(『極道の妻たち』シリーズで岩下志麻演じる主人公の名が環、かたせはその妹・真琴を演じていた)

白石:わざとです(笑)。でも、この作品の設定が1991年あたりなんですよ。ファッションだとか、当時の様式とか、有り体に言えば極妻の時代。なので、何度も参考に見ました。それにしても、さすがかたせさんでしたね、レジェンド感ですよ。一瞬で空気をそこに持っていくし、とにかくすごかった。亮平くんは、1番怖かったのはかたせさんだって言ってました(笑)。