2001年からスタートし、今年は来たる12月19日に迫った『M-1グランプリ2021』。若手漫才師が目指す頂であり、今では日本中のお笑いファンが注目する年末の恒例行事となっている。そんな同大会で「9年連続決勝進出」という金字塔を打ち立て、2010年の10回大会で悲願の優勝を果たし、「M-1の申し子」とも言われるのが、お笑いコンビ・笑い飯だ。

互いにボケを連発し続ける「Wボケ漫才」で、お笑い界に旋風を巻き起こした彼ら。結成21年目を迎えた今もスタンスを変えることなく、テレビや舞台、YouTubeなど形には執着せず、ひたすらに「おもろいこと」を追求し続けている2人に話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ

後輩と同じ舞台に立って、「スベってられへんな」って(西田)

──先日の結成20周年の全国ツアーの記者会見で、西田さんが「後輩が『M-1』に出ているのを見ると刺激をもらう」とおっしゃっていましたね。やはりそれが笑い飯としての活動の原動力になっているのでしょうか。

西田:後輩が一生懸命やっているところを見ると、同じ舞台に立ったとき「スベってられへんな」という気持ちになりますね。過去に優勝しているとは言え、『M-1』のチャンピオンは大会ごとに年々増えていくわけですし。

哲夫:僕は2011年に気まずさを感じたことがあったんです。2010年に『M-1』が一度終わって、『THE MANZAI』が始まった。自分のなかではそのとき「もう『M-1』で優勝したから」という雰囲気があって、『THE MANZAI』も後輩たちと酒を飲みながら観ていたんです。

でも千鳥、学天即、テンダラーさんとか身近な人たちが頑張っているところを観て、仮病を使って体育の授業を休んでいる気分になりました。そのとき思ったんが「2012年は『THE MANZAI』に出たい」。今でも『M-1』を観ていると、仮病を使って休んでいる感覚があります。

西田:僕はどんな場でも後輩に譲ってあげたい気持ちはないですけど、ただ『M-1』もずっと出ていたし、いろいろ見慣れてしまったところがある。若いときにあった何かが失われてきている感覚は間違いなくあります。もしも今『M-1』に出たとしても若手に敵わないはず。懸ける想いやエネルギー的なものでしょうね。

──笑い飯としては『M-1』みたいな刺激的な場所を欲してはいるんですか?

西田:それは劇場だろうが、テレビだろうがどこでもありますね。今『M-1』に出たら敵わないかもしれないけど、後輩に負けたくない気持ちも当然あります。いつまでも「あの人はおもろい」と言われたいですから。

哲夫:僕は漫才を闘いとは思っていないからやりあう気持ちはないけど、お客さんや視聴者をとにかく笑かしたい。よくインタビューで聞かれるんですよ、「ライバルは誰ですか?」と。でもライバルとかの意識がないんですよね。誰かを笑わせたいだけなんで。

──どうしても戦い合うイメージで語られがちですよね。

哲夫:そうそう。だからランキングとかも、おもしろみでそうなってるだけで・・・漫才番組としてやるなら、『漫才Lovers』(読売テレビ系)みたいな感じでランキングをつけずに、ただ普通に漫才を見るっていう。だから今の漫才は、そうやって闘い合う形式を見せる嗜好品にもなっているとは思いますね。あまり誰かに勝ちたいとかはなくて、それは結果論ですし。

叩かれてもおもしろいやり方で、SNSをやれたら(哲夫)

──今って『M-1』後に、何かとSNSで評論家になる人がたくさん出てくると思うんですけど、それについてはどう思われますか。

西田:みんなが『M-1』を観たあとでいろんなことを言い合う風潮に気持ち悪さは感じるんですけど、そういう現象で大会は盛り上がるものですよね。すこぶる気持ち悪いですけど(笑)。マヂカルラブリーのことを「漫才か、漫才じゃないか」で議論するのは、盛り上がっている証拠ですよね。

哲夫:あの番組のなかでオンエアされたワードもトレンドにあがるし、テレビはSNSと密接な関係になってしまった。演じ手がその感想を読んで喜ぶこともあれば、ヘコむことだって当然ある。そういうものだし、深くは考えないようにしています。

──笑い飯さんが優勝した頃にはSNSってそんなに普及されていなかったと思うんですが、もし当時あったらどうなっていたんでしょう。

哲夫:もしSNSが当時発達していたら、間違いなく「こんなん漫才じゃない」と言われていたんでしょうね。「片っぽがボケるんやったら片っぽがツッコまんかい。それが漫才や」と。で、僕はテレビで「あんなこと書いてあったけど、昔の漫才を知らんのやろうね。昔はボケとツッコミが入れ替わる漫才はいっぱいあったからね」と叩きをして、また炎上する。

たとえば、武智(スーパーマラドーナ)と久保田(とろサーモン)が『M-1』の審査についていろいろ言って炎上したことがあったじゃないですか。だから僕はラジオで「ギャロップの林もゴニョゴニョと言っていたんだから、ちゃんと叩いてあげてください」って言ったんです。それがSNSで盛り上がって、林が気付いてないフリをしていたのがまたおもしろくて。そういう風に、叩かれてもおもしろく使えるやり方でやれたら良いんでしょうね。

お笑い系のYouTubeはあまり観ない(西田)

──SNS関連でいうと、現在は多くの芸人さんがYouTubeのチャンネルを持って、いろんなことをやっていますよね。それこそお2人がカジサックさんの番組に出演された際「笑い飯さんにYouTubeをやって欲しい」と言われていましたが。コンビとしてYouTubeのチャンネルをやるつもりはないんですか。

哲夫:自分らが主導ではやりたくないですね。やっぱりテレビや舞台を観て笑わせてもらっていたから、そっちに出たい。もちろん、YouTubeを否定しているわけでは全然ありません。ただ、例えば昔のテレビって家族みんなで鑑賞していたし、舞台も大勢で観ますよね。個人的な考えとしては、ひとりで観るコンテンツでお笑いをやることにそこまで興味が持てないというか。

──西田さんは自然の生き物を探索などする『いきいきチューブ』をスタートさせましたね。

西田:カジサックからしたら「いや、そういうことじゃないんですよ」と言いたいんじゃないですか(笑)。もちろんそれは承知の上です。「YouTubeの番組をやりませんか」と言われて、提案したのが「趣味でやっていたら職務質問を受けそうなこと」でした。川とか入ってウロウロしていたら「何をしてるんや」と怪しまれますよね。そこで「いや、YouTubeの撮影なんで」と言い張れば堂々と好きなことができますから。

──ハハハ(笑)。たとえばドッキリなどお笑い的な企画をやろうという気持ちは?

西田:そういう気持ちはさらさらなかったですね。それだったらライブでやれば良いですから。それに自分自身、お笑い系のYouTube番組をあまり観ないんです。「錆び付いた機械をピカピカにする」とか、そういったチャンネルの方が好きなんで。

芸人は裏を見せない環境で育って、それを実践している(哲夫)

──哲夫さんはいかがですか。

哲夫:「お寺めぐりの番組とかやらないんですか」とかよく聞かれるんですけど、そういうチャンネルって多いじゃないですか。企画を盗み取りしている気になるから、それはやりたくないんです。テレビでもお寺さんに関する企画は多いし、そもそもそういう内容のフォーマットを作った人がいらっしゃるなかで、自分の名前を出してYouTubeでやるのは違う気がするんです。でも基本的に、YouTubeに対してのこだわりはゼロですよ。

──YouTubeってその人の裏側や素顔が覗けたりもしますよね。そこがおもしろかったりする。だけど笑い飯は『M-1』出演時も密着映像や舞台裏インタビューでは必ずふざけていましたし、そもそも裏を見せるのが好きじゃないのかなって。

西田:それはそれでおもしろいものはたくさんありますよね。それにYouTubeなんかで知られざる裏側を見せると、話題になったり、再生回数も上がったりするでしょうし。つまり人の裏側って、多かれ少なかれお金にはなるんじゃないですか。だけど厳密に言うとそういう手法は、僕の好みではないですね。見せるか見せないかは、それぞれが考える品性の話なのかなって。

哲夫:『M-1』の裏側に密着した『アナザーストーリー』とかあるじゃないですか。あれは大好きでよく観ているんです。ミルクボーイやマヂカルラブリーの回はめっちゃ泣きました。でも基本的には僕も、「芸人は裏を見せない」という環境で育ったのでそれを実践しています。

1980年代に萩本欽一さんの『TVプレイバック』(フジテレビ系)という番組があったんですけど、ドリフターズのメンバーがいつも出演していて。そこでは、普段のコントでは観ることがないメガネ姿や、おっちゃんっぽいセーターを着た姿で登場していたんです。そういうところにドリフの素顔をちょっと覗けた気になっていた。芸事が表側だとしたら、裏側の分量としてはメガネとセーターくらいがちょうど良いですね。

舞台だろうがテレビだろうが、場所はどこでも良い(西田)

──以前放送された『やすとものいたって真剣です』(ABCテレビ)のなかで、藤崎マーケット・トキさんが「笑い飯さんや千鳥さんがトップだったときのbaseよしもとの時代に戻りたくない。おもしろくなければ人にあらずんば、という空気が本当に怖かった」とおっしゃっていました。だからお2人のおっしゃっている「おもしろいと言われたいだけ」「笑わせたいだけ」という言葉がものすごくシビアに聞こえます。

西田:まあ、確かに藤崎マーケットの「ラララライ体操」のことを一度も褒めたことはないですからね(笑)。それに藤崎もあれが一番おもろいと思ってやっていたわけじゃないはず。だから、僕たちに対しては「きっとこの人らはおもしろくないと感じてはるんやろうな」と、どこかで後ろめたい気持ちがあったのかもしれませんね。

哲夫:トキは今「リズムネタ撲滅運動」の冊子を自分で作っているくらいやし。当時は「ララライ体操」を多くの人が求めていたけど、自分が本来やりたいスタイルとは違っていたかもしれませんしね。あと僕らの若手時代も、そういう怖い先輩はいましたから。特に中川家の礼二さんは怖かった。その恐ろしさをくぐり抜けているから、ある程度のことは耐えられる体になりました。

西田:全国ツアーだろうが、舞台やテレビだろうが、笑わせることができるなら場所はどこでも良い。そして、とにかくおもしろい人たちと仕事がしたい。もしおもしろい人たちがテレビの人気者になったら、そのテレビに出てずっと一緒に仕事がしたい。おもしろい人たちがいる場所に行きたいんです。

哲夫:個人的にはテレビに関しては、どんな形であっても大丈夫だから出させていただきたいんですが、コンビとしてはお任せで良いですね。ただ、千鳥があれだけテレビで売れてくれたのは自分にとってものすごく大きい。彼らはずっと一緒にやってきたし、おもしろいと思うものが似ていた。だから千鳥のふたりがテレビで何か話していると、何だか自分がそれを言っているような気持ちになるんです。リモートで僕の伝えたいことが言えている気になれるというか。

今回のツアーが、自分を代名する良い区切りに(哲夫)

──お話を聞けば聞くほど、改めて笑い飯は笑いに対してストイックですよね。それが今回の全国ツアー『漫才天国』というタイトルにもあらわれている気がします。ここまで10都市をまわってこられて、いかがですか。

西田:無事開催できていることが何よりで。いろんなところで漫才をやるのも久しぶりなんで、純粋に楽しいです。過去の『M-1』ネタもやったりして、ご挨拶ですよね。

哲夫:どの場所もたくさんのお客さんがいて、ゲストもいろんな方が来てくださって感謝ですね。昔は40後半にもなると師匠クラスにもなるって言われてましたけど、自分では、雰囲気的にはまだまだ若手という気持ちもあって。でもこんな風にツアーでいろんなところに回らせてもらってるので、自分で自分のことを中堅と代名しても良いという区切り感はありますね。

──ちなみにツアーではさまざまなネタを披露されていますが、おふたりにとって「これは笑い飯として会心のネタだ」というものはあるのでしょうか。

西田:はっきりこれというものはありません。自分のなかには「良さげ」「普通」「あんまり」という分け方はあるんですけど。「良さげ」というのは1軍みたいな感じで。ただ、どのネタもちゃんと楽しんでもらえると思います。

哲夫:全部100点ですね。だって包丁屋が「これは100点の包丁、これは10点の包丁」とか言っていたらおかしいですから。そのなかでも僕的には「ハッピーバースデー」のネタかな。「ハッピーバースデー」の歌って、みんな声が全然揃わへん。ずっと「あるある」で考えていたことで、誰もがきっと薄っすら思っていたはず。そういうことをいざネタにしてウケたときが1番気持ち良い。残りのツアーでもいろんなネタで笑ってもらいたいですね。

『笑い飯の漫才天国 〜結成20+1周年記念ツアー』 千秋楽の12月12日「なんばグランド花月」(大阪市中央区)での大阪公演は完売(配信なし)、同月4日「静岡市民文化会館」(静岡市葵区)で開催される静岡公演はチケット販売中。ツアー限定Tシャツ、記念LINEスタンプは公式サイトから購入可能。