美術家・横尾忠則の作品を収蔵する「横尾忠則現代美術館」(神戸市灘区)で、『Curators in Panic 〜横尾忠則展 学芸員危機一髪』が開催。「学芸員危機一髪」・・・なんじゃそりゃ? 首をかしげたくなる展覧会名だが、本展の経緯を知れば評価は逆転するはずだ。

背景は2021年から翌年にかけて愛知、東京、大分で開催する大規模な回顧展『GENKYO 横尾忠則展』。これに伴い、「横尾忠則現代美術館」の作品や資料、約140点が貸し出されることになった。そのため、主要作品がことごとく不在で、約1年間返ってこないうえ、コロナ禍のため横尾とのコミュニケーションも不足。従来通りの展覧会活動がおこなえない状況に陥った。
 
そこで学芸員たちは、この現状を展覧会にすることをひらめいた。貸し出されなかった所蔵品から、彼らの思い入れのある作品を選び、選出理由やエピソードをそれぞれに添えて展示。スポーツでいえばレギュラー不在で補欠が奮闘、お芝居でいえば主役が降板して脇役にチャンス到来・・・そんな感じである。

例えば、展示される『時代の肖像』は、湾岸戦争を契機に生まれた作品。流れ落ちる赤い水は戦争で流された血を連想させ、よく見ると浮かび上がるふたつの大きな顔は、イラクのサダム・フセイン大統領とアメリカのジョージ・ブッシュ大統領がモチーフになっている。横尾が政治的なテーマを描くのは珍しく、大きさも高さ2mを超える大作だ。

本展で問われるのは、展覧会を作るにあたり、学芸員の思いや味付けがどれだけ重要か、ということだ。作品数は約70点。横尾の芸術世界と学芸員の情熱、その両方を真正面から受け止めたい。3月27日より。一般700円。
 
文/小吹隆文(美術ライター)