明治末から昭和戦前期にかけて活躍し、近代大阪画壇のリーダー的存在だった北野恒富。彼の画業を展観する回顧展が、「あべのハルカス美術館」(大阪市阿倍野区)で7月17日までおこなわれています。

展覧会は全6章で構成。そのうち前半の第1章から第3章は、北野の画業を初期から晩年まで追ったものです。大正時代の作品《道行》や《鏡の前》は耽美的、退廃的な作風で、「画壇の悪魔派」と呼ばれるほどでした。また大坂夏の陣をテーマにした《淀君》も、深い情念がにじみ出ています。しかし、昭和に入ると彼の作風は徐々に変化します。《いとさんとこいさん》や《星(夕空)》に代表される清澄かつモダンな作風、いわゆる「はんなり」の境地に達するのです。その過程を丹念にたどれるのが、本展の特徴であり見どころと言えるでしょう。

後半では、百貨店や酒造会社のポスターなど、北野が手掛けたグラフィックデザインの仕事が大きく取り上げられ(第4章)、スケッチ類(第5章)や、画塾「白耀社」で彼が育てた後進の画家たち(第6章)が紹介されています。「グラフィックデザインに大きなスペースを割いているのは、過去の北野展にはない本展ならではの特徴です」と担当学芸員の北川博子さん。また、現代美術作家・森村泰昌が北野作品を元に制作した作品《北野恒富・考/壱(恒富調桃山風アールデコ柄)》と、北野の原画及びポスター(複製)を並置しているのも、遊び心が感じられる粋な演出です。

北川さんは「北野の作品を通して、戦前までの大阪が持っていた豊かな文化に思いを馳せてほしい」とも。当時の大阪は「大大阪」と呼ばれる繁栄期で、経済のみならず文化面でも充実の時代を迎えていました。今では地元の浪速っ子ですら忘れがちな「古きよき大阪」。北野の作品にはそのエッセンスがギュッと詰まっているのです。

取材・文・写真/小吹隆文(美術ライター)