モダニズム建築に伝統美を融合させた丹下健三

国立代々木競技場や香川県庁舎を設計したことで知られる丹下健三は、戦後の日本建築を世界レベルに押し上げたモダニズム建築の巨匠です。1920年代にうまれたモダニズム建築は、伝統や無駄な装飾を排除し、工業製品である鉄、コンクリート、ガラスを用いて、機能性や合理性を追求する新しい建築でした。

しかし、丹下はここに日本の伝統美を取り入れ、融合させることに成功したのです。たとえば国立代々木競技場の屋内には柱が1本もありません。選手と観客を一体にするこの開放感を可能にしているのは、橋などにつかわれる吊り構造です。

そこで個人商店の店主たちが考えたのが、建物の正面(ファサード)だけを西洋風に化粧するという方法でした。画家や大工さんたちに、家がかぶる洋風お面をつくらせ、店の正面を看板にしたのです。

2本の支柱と2本のケーブルで屋根を支える構造で、これがそのまま外観になっています。棟屋根の印象的な反りは、縄だるみ曲線です。縄やひもの両端を持ち上げたときにできる曲線で、力学的に安定した形として知られています。

この反りは城の石垣や寺の屋根にも見られるもので、単調になりがちな競技場の外観をダイナミックで美しく、しかも伝統的な形で表現しているのです。

香川県庁舎もシンプルなコンクリート打ち放しですが、縦軸と横軸を交差させる外観は、清水寺の舞台を支える木組み(懸造)を思わせます。

また外壁面を前面に出さず、庇と縁(バルコニー)を張り出させるデザインも、日本の寺院建築が得意とする手法です。さらに等間隔に並んだ縦長の断面をしたバルコニーの小梁は、五重塔の深い軒を支える垂木のような印象を加えています。このように、丹下はモダニズム建築に日本の伝統美を取り入れ、まったく新しいデザインを完成させたのです。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク