厳しい修行が課せられるものと寛容なもの

ブッダは当初、主にインドの北部を中心に布教を行なっていましたが、しだいにインドの西部や南部にまでその範囲を拡大していきます。布教にあたって幸運だったのは、古代インドを統一した*アショーカ王という庇護者(ひごしゃ)を得たことでした。こうして紀元前3世紀ごろには、仏教はインド全体に広がっていきました。

しかし、その時代になると、戒律の解釈をめぐって内部での対立が生じてきました。いろいろな対立点があったとされますが、金銭によるお布施(ふせ)を認めるかどうかも、大きな論争を巻き起こしたようです。このような争いによって、教団内は二派に分裂していきます。

長老を中心として、ブッダ以来の戒律を守ろうとする「上座部(じょうざぶ)」と、戒律に寛容(かんよう)で進歩的な考えの「大衆部(だいしゅぶ)」の二つの派がそれで、これを「根本分裂」といいます。後者は、のちに「大乗仏教(だいじょうぶっきょう)」となっていきます。

この二つの違いはどこにあるのでしょうか。

まず、上座部仏教は出家主義(しゅっけしゅぎ)で、出家者個人が自らの悟りを開くことを目的としています。つまり、修行をして悟りを開いたものだけが救われるというわけです。

そのためには厳しい修行にも耐え、戒律を厳しく守る必要があります。

これに対して大乗仏教は、出家主義をとらず、在家でもブッダの教えを守っていれば、ふつうの生活を送ってよいとされました。

また大乗仏教は、仏(ほとけ)や菩薩(ぼさつ)の慈悲(じひ)による民衆の救済が強調されるのも、大きな特色です。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の宗教』
監修:星川啓慈 日本文芸社刊

執筆者プロフィール
1956年生まれ。1984年、筑波大学大学院哲学・思想研究科博士課程単位取得退学。1990年、日本宗教学会賞受賞。現在、大正大学文学部教授。博士(文学)。専門は宗教学・宗教哲学。主な著書に、『言語ゲームとしての宗教』(勁草書房、1997年)、『宗教と〈他〉なるもの』(春秋社、2011年)、『宗教哲学論考』(明石書店、2017年)、『増補 宗教者ウィトゲンシュタイン』(法藏館、2020年)など。