生痕化石は「そこに生物がいた」重要な記録

ズーフィコスは、岩の表面にまるで枯山水のような放射状の模様が描かれている生痕化石です。

現在の深海にも存在しており、日本でも房総半島や屋久島などで見つかっています。これは深海に住む無脊椎動物(むせきついどうぶつ)ユムシの仲間が摂食(せっしょく)や排泄(はいせつ)行動をした痕跡だと考えられていて、いわばトイレの化石といえるでしょう。

このように古生物の体ではなく、生活していた痕跡が保存されている化石を生痕化石といいます。生痕化石には足跡、はった跡、巣穴、糞(ふん)などがあり、生物の種類までははっきりわからないものの、そこに何らかの生物がいたことを知る有力な情報になるのです。

たとえば恐竜化石の近くにあった糞の化石の内容物を分析し、骨が含まれていれば肉食だったと推理することもできます。

ズーフィコスでいえば、ユムシの仲間のような硬い部分をもたない生物は、化石になることは滅多にありません。

しかし、生痕化石を使うことで、その時代、その場所に古生物がいたことはわかるのです。とはいえ、こうした生痕化石をつくった古生物の種を特定することは難しいのが現状です。

そのため生痕分類群という独自のカテゴリーが設けられており、生痕化石の形状などから特定の生痕分類群に分類されます。したがってズーフィコスは生痕分類群の名称で、生痕化石のおもな生物の種名ではありません。

生痕化石は、体化石の少ない先カンブリア時代や深海生物など、生態系の未知領域を知る重要な手がかりでもあります。これからますます活用されていくのは間違いないでしょう。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 古生物の話』
著者:大橋智之  日本文芸社刊

執筆者プロフィール
大橋智之(おおはし・ともゆき) 北九州市立自然史・歴史博物館 学芸員。古脊椎動物担当。1976年、福島県生まれ。東北大学理学部卒。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。日本古生物学会会員。