情報のアリナシで違う

 どちらも1回で登り切ったことを意味しますが、大きな違いは登る以前に、登った人の動画をみる・手順を聞く・ホールドを触るなど、何か登るためのヒントとなる情報を得た後に1回で登れたら「フラッシュ」。これらの情報を全く得ることなく1回で登れたら「オンサイト」言います。

 スポーツクライミングの大会において、スピードクライミングは「フラッシュ方式」といい自分の順番以前の選手の登りを見ることができますが、ボルダリングやリードは「オンサイト方式」といい前の選手の登りを見ることはできません。なぜなら、ほかの選手の登りがヒントになってしまうからです。 

どこまでの情報がOK?

 私はこのマンガのエピソード経験で、日本とアメリカなどの海外では「情報」の定義が違うということを知りました。日本では人の登りを見ることや、手順を聞かなければ「オンサイト」という認識でした。しかし、海外ではもっと厳しく定義されていたのです。

 今では日本でも、オンサイトという言葉は死語になりつつあります。誰も触ったことのない新しい岩が発見されたとしても、登る前には苔を払い落とすことや、凹みにある砂をブラシで掃除します。彼の言うように完全にオンサイトは存在しないのかもしれません。ただし、スポーツクライミングの大会では「オンサイト方式」だとしても、登る前にブラシでホールドのクリーニング作業を選手自身が行うのはOKなのです。

登りきるまでの回数で価値がきまる

 ボルダリング種目のルールにおいて、完登数とボーナス獲得数が同じ場合より、少ない回数で登れた選手のほうが順位として上になります。ロッククライミングの世界においても、同じ岩を少ない回数で登ると価値があるとされています。

 クライミングの世界では、オンサイト、フラッシュという言葉があるように、1回で登りきるということに重きを置いてチャレンジすることがよくあります。そのためにクライマーたちは事前のシミュレーションを何度も何度も行い攻略していくのです。その事前に行うシミュレーションを「オブザベーション」といいます。 

尾川とも子

宇宙飛行士を目指して進学した早稲田大学理工学部物理学科を卒業。在学時の2000年、国体山岳競技に誘われたことがきっかけで、クライマーの道へ。競技歴わずか3年でアジアのトップクライマーに。その後はチャレンジの舞台を自然界の岩場へ移し、2008年4月に日本人女性初となる難度V12を達成。2012年に世界女性初の難度V14を達成。2012年には「Golden Piton賞」、2014年には「Golden Climbing Shoes賞」を受賞した。現在は2児の母親として「学校にボルダリングウォールを」という夢を追いながら活動中。