沈み込みは重力とうまく付き合う最高の方法

●松尾衛/理論物理学者

「打つときは、基本、沈み込む」という話を聞いたとき、「これだ!」と思いました。

武術の達人が、筋力に左右されないで力強い演武を行なう核となっているものです。重心をうまく操作する、という言葉は聞いたことがあると思いますが、その核となっているのが沈み込みなのです。

我々人間は、重力に逆らって立っています。物を離せば下に落ちますよね。「位置エネルギー」という言葉があって、それが「運動エネルギー」に変わるという話です。重力に逆らって立つのは、不安定きわまりない。そこで安定させるために、地面に沈み込むようにすると安定感が増すわけです。

これが、最も効率よく回転するエネルギー源に変わるわけです。股関節を畳込めば、それだけでビュンと回転が起こるのです。なにも力を入れていないのに。これが本当の「脱力」という、達人の動きとなります。

力の出し方、出どころが全然違うんですね。先ほどのボール投げですが、メートル投げられる人と、30メートルしか投げられない人の差はどこにあるかといえば、まっすぐにしか身体を動かさない人が30メートル、ギュンと身体を回す投げ方、竹とんぼがギュンと回って飛ぶような身体の使い方をする人は50メートル投げるのです。

物理学をプロとしてやっていても、とても理解しにくいのが「回転運動」です。直感が利きにくい運動なのです。人間、直線的なものは理解しやすい。でも、身体は回して、ボールはまっすぐ飛ばすなんて、かなり理解に苦しみます。

実際、田中プロは、どうやって回転運動で打てるように教えるのか、とても気になるところでした。

『新装版 勝てる!理系なテニス 物理で証明する9割のプレイヤーが間違えている〝その常識〟!』
著者:元オリンピック&日本代表コーチ 田中信弥
理論物理学者 松尾衛

元オリンピック&日本代表テニスコーチと気鋭の物理学者による常識を覆すテニス理論、指南書。5万人超のウィークエンドプレーヤーが納得した現場理論を、理論物理学で証明した、すべてのプレーヤーのテニスを躍進させる書。「サービズは上から下に打つのは間違い」「テニスは不等式でできている」「身体は動かさずに打つ」など、常識破り、型破りな指導法で結果を出し続ける田中コーチの独自のテニス理論を、理学博士の松尾氏が自ら体験で得たプレーを「物理屋」の観点で解説・証明する―――まったく新しいテニスの本!