筋肉の記憶は脳の指令に勝る

もちろん角速度を覚えないことには根本的な解決はありませんから、インパクト直前のタメを作って打ってもらいますが、このときスピードを極端に落とします。「そんなんじゃ打てないよ」という人に対して「ヘッドスピード30m/sでいいからやってみてください」ととにかくトライしてもらうのです。

実際にやってもらうと「ムリムリ」と言っていた人が「あれッ!」と叫びます。球は100ヤードしか飛んでいないのですが、当たり方が明らかに違うからです。

今まで感じたことがなかった心地良いインパクトを経験することによって、私の言っていることを信じてもらえるようになります。

「マジで!? こんなことってあるんだ。もっと話を聞かせてください!」なんて言うその目は輝いていて、世界一小さな宗教法人の誕生ですね(笑)。この瞬間に私と生徒さんの関係性がぐっと変わって、ペットボトルの水が6000円で売れるようになります。もちろんそんなことはしませんけど。

ただ、ここからヘッドスピードを35m/sまで上げていくとまたスライスに戻るんですよ。これは筋肉の記憶というものがあるからで、ヘッドスピードを25m/sぐらいにまで極端に落とすと、筋肉の記憶よりも脳の指令が勝てますが、一定のスピードを超えるところまで上げると勝てないんです。いつもの動作反応が「タメを作れ」という脳の指令に勝ってしまうので「わかっているんだけど、できない」という状態になります。

この状態になった場合は、ルーティーンを含めたスイングの前後の映像を10秒ほど撮って見てもらうようにしています。こうだよな、とか言いながら一生懸命タメを作ることを確認しているんですけど、いざ打つと思いっ切りアーリーリリースしますから、ほとんどコントです。

この映像を見せると、体に染みついた筋肉の記憶というものを理解してもらえますね。

それまで打ってきた球数が、多ければ多いほど筋肉の記憶は深く刻まれていて、これを取り除いて、かつ正しい記憶をインストールするには時間がかかります。

球数を打ってきた人は当てるのが上手いからやっかいなんです。練習場でチョロを打っているとカッコ悪いじゃないですか。だからとにかく当てようとするんです。

自己流だとほぼアウトサイドアタックのオープンフェースになってしまうんですけど、それでも当てたいと思うがゆえに、アーリーリリースやシャットフェースを自分で開発するんです。本当は周りの人はまったく見ていないんだけど、そこにいる全員から見られていると思ってしまうのがゴルファー心理なんですね。その結果、5万発、10万発と経験を積んで、立派なスライサーが誕生するのです。

こうした負のスパイラルから抜け出すには、インサイドアタックを身に付ける以外ありませんが、それには2つの方法があります。

すなわち、
・切り返し時の上半身の向きが開かないようにする
・ダウンスイングでグリップエンドの位置を体の近くに入れてくる

という2つで、大抵の場合はどちらかの選択肢でインサイドアタックができるようになります。どちらで直るかは個人差があり、実際にスイングを見てみないとわかりませんが、体の開きを抑える、あるいは、グリップエンドを体に引き付ける、というテーマで練習することで、スライスの根本的な原因は取り除くことができるわけです。もちろんやるかやらないかはその人次第ですけどね。

【書誌情報】
『100を切れない7つの理由・10の上達法 劇的に上手くなるスイングの作り方』
著者:阿河徹

なかなか上手くならないアマチュアゴルファーのスイングには、致命的な欠陥がある。そこで本書では、アマチュアのスイングの悪いクセを7つを解説。さらに、著者が「スイングの設計図」と呼ぶ、正しいスイングの動きをイラストでわかりやすく紹介する。そして、その基本の動きが身につき、上達に役立つ10のスイング・ドリルも公開する。スイングに悩んでいる人をはじめ、これからスイングを学ぶ人、基本を再度見直したい人も活用できる一冊である。