あなたは夜勤(夜間勤務)の経験はありますか? 実は今日も夜勤だった、という方も少なくないでしょう。7月13日に創刊されたまぐまぐの新メルマガ「精神科医・西多昌規が明かすメンタルヘルスの深層」の著者で精神科医の西多昌規さんは、先日NHKで放送された「夜勤の健康被害」を特集した番組にふれ、夜勤のもたらす健康被害について持論を展開しています。西多さんの「夜勤のもたらす健康被害に解決策はない」という言葉が問題の深刻さを物語っています。

夜勤に関する睡眠問題への処方箋はない 専門家もコメントに困る「夜勤」の睡眠問題

6月18日の日曜日夜9時から放送されたNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」、ご覧になったかたはいるだろうか。睡眠不足の危険性をきちんと啓発するという意味で、同局「ためしてガッテン」に雰囲気は似ていつつも内容はトンデモではなく、エビデンスに基づいた情報を提供した良番組だったようだ。

日本睡眠学会でも重鎮でテレビでもよく見かける先生がたが、コメンテーターで出演されていた。こういった番組でのコメントは手慣れたものだと思う人も多いだろう。

ただ、ツィッターの関連タイムラインを見ていると、このようなツィートが見られる。

夜勤組の解決案→夜に眠ろうね♪って…そんな…当たり前のことゅゎれてもぉ…

夜勤の人に夜の眠りを取るように とか何言ってんだおっさん

録画してたのを見たのだが… 夜勤の人はどうしたらいいですか? って聞いてるのに 夜の睡眠を見直して昼間のパフォーマンス上げるように、みたいな答えした人…ケンカ売ってんのかと思ったわww。

夜勤で夜眠れない人へのアドバイスが酷すぎる。

夜勤の人はどうすればいいか?の問に対して全然答えになってなくて「は?」ってなった。→RT

コメンテーターとしての対応は、以下のようなものだった。

夜勤、泊まり勤務の人はどうしたらいいか 総じて日本は昼間のパフォーマンスを上げることが一番大事と考えられている。夜勤帰りに眠るより、まずは夜の眠りがきちっととれるように自分の生活を見直していくのが一番大事。

たしかに、答えになっておらず、突き放しているととられても仕方がない。

しかし、わたしが出演していたとしても、「さすが、先生」とホメられるようなコメントはできなかっただろう。それだけ、難しい問題なのである。とはいえ、論文や一般書、ネットに書けないような解決策ならば、ないこともない。

夜勤・シフトワークはがんをはじめ万病のもと

その前に、夜勤をしている交代勤務者いわゆる「シフトワーカー」は、どれくらいいるのだろうか。コンビニ店員、警備員、深夜まで営業しているファミレスや居酒屋の店員。看護師や介護職員も、もちろん忘れてはいけない。

産業医科大学・公衆衛生学の久保達彦講師が、厚生労働省と総務省の両省のデータをもとに、交代勤務者数の推計を行った調査がある。深夜業に従事する人の割合は平成14年17.8%、平成19年17.9%、平成24年21.8%と増える一方であり、平成24年においては1,200万人の労働者が深夜業に従事しているという。

まさに、24時間社会であり、日が昇ったら起きて沈んだら眠るという原始生活からは大きくかけ離れている。上記に挙げた職種以外にも、わたしたちの想像できない職種の人が、夜勤に従事しているのだろう。わたしの患者でも、外国と取引している証券トラーダーがいたが、不眠の原因はストレスと「夜勤」であった。

夜勤がつらく健康に悪そうなことは感覚的にはわかるが、健康被害が合併することは一般の人には意外に知られていない。交代勤務開始10年ほどで、高血圧と心臓病が起こりやすくなる。うつ病など精神障害とも関連も大きいとされる。

さらに最近では、発がん性も注目されている。乳がん、前立腺がん、子宮がん、直腸がんが、交代勤務と関連性を指摘されている悪性腫瘍である。2007年には、国際がん研究機関が、交代勤務で睡眠障害(正確には、睡眠覚醒リズム障害)のある人を、発がん性のある曝露状況にあると分類したことでも、事態の重大性がわかるだろう。

夜間分泌されるメラトニンは抗がん作用があり、交代勤務ではメラトニンが不十分になるためがんが生じるという仮説もあるが、まだ確認されたわけではない。わたしの考えでは、交代勤務ではほかにもさまざまな身体・精神・社会的ストレスが生じる。専門家は「因果関係を断定することはできない」「ほかにも要因がある」と慎重だが、病気の種類を問わずリスクが上がらないはずがないと思うのである。

解決策は・・・あってないようなもの

解決策は、果たしてあるのだろうか。いくつか手元にある交代勤務者に関する論文では、

睡眠や仮眠の取り方を工夫してみましょう スケジュールやシフトを再検討しましょう 夜勤中の仮眠やカフェイン 眠気防止のため、作業場を明るくしましょう 夜勤明けの運転には注意しましょう 薬剤(精神刺激薬であるモダフィニール)を使う場合もあります

前述のツィッタラーではないが、

「そんなこと、わかっとるわ!」

「それができんから、苦労しとるねん!」

「そんなことしかないか、ガッカリやな」

というような対策ばかりである。

しかしこれらが、現状では教科書的には適切な対策である。

個人での解決策は絶望的であることがわかってきたので、社会的に取り組むべきという意見もある。とはいえ、現代社会から夜勤を大幅に減少させることなど不可能である。代わりの意見としては、夜勤は健康に悪いと諦め、交代勤務者の健康リスク補償を、料金上乗せや税金で受益者が負担するという議論である。健康被害とお金とはイコールではないが、わたしも夜勤にはしかるべき対価が払われるべきだと思う。

今日の極論 夜勤をいつまでも続けるな!

わたしの結論は、「夜勤をいずれ卒業する」である。

夜勤に関係する睡眠問題に、良い方法はほとんどない。社会的な問題であるというしかないのである。しかし、雑誌やネット、テレビでは、こういっては身も蓋もないだろう。

かといって、現代社会は、だれかが夜勤をしなければ回らなくなっている。

看護師ならば、若いうちは病棟や救急で過酷な夜勤を経験する。しかしこういった夜勤の経験を経て、クリニックの外来勤務に移る人が多い。主に平日、9時から5時までの勤務なので、体力的にも余裕があり、家族といっしょの時間も過ごせる。

年齢とともに体内時計の調節機構も老化し、シフトワークへの柔軟性はなくなっていく。若い人には申し訳ないが、夜勤は若い人を主力とし、労働時間の遵守をしっかりするという

わたしも若手の頃は平日も週末も当直三昧であったが、30歳を超えた頃からさすがにしんどくなってきた。驚くべきは、老齢でも当直をしている元気な老医師が現実にいるのである。しかし、わたしは自分にはそこまでのタフさはないし、そういう人生は避けたいと思ったのも事実だ。

夜勤でしんどい思いをしている人は、すぐに卒業は無理でも、いずれは夜勤から抜ける人生を歩んでもらいたい。シフトワーク関連の睡眠障害を克服する科学的な術を、まだわたしたちは持っていない。今後も特効策は急には得られないだろう。

image by: Shitterstock

 

『精神科医・西多昌規が明かすメンタルヘルスの深層』

著者/西多昌規 記事一覧/メルマガ

精神科医の西多昌規です。一般書やブログ、SNSには書きづらい精神科医療とメンタルヘルスの裏の実情を紹介します。医学研究や医学部教育の問題点にも切り込みます。

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著者プロフィール: 精神科医、早稲田大学准教授。東京医科歯科大学卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員研究員などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授。精神科専門医、睡眠医療認定医など。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。著書に「『昨日の疲れ』が抜けなくなったら読む本」「休み技術」「『テンパらない』技術」「悪夢障害」「職場にいる不機嫌な人たち」など多数。

出典元:まぐまぐニュース!