電通社員・高橋まつりさんの過労自殺が社会問題にまで発展したにも関わらず、電通の系列会社で「隠れ残業」が判明し、非難の声が相次いでいます。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ−河合薫の『社会の窓』』では、米国育ちで元ANA国際線CAという経歴を持つ健康社会学者の河合薫さんが、高橋まつりさんのお母様が娘の命日であるクリスマスに公表した手記を紹介するとともに、残業削減に成功した企業の共通点を考えます。

電通系会社「隠れ残業」の罪

2017年が間もなく終わります。

あっという間なのに、いろいろあり過ぎて。ひとつひとつを思い出すと「え?それって今年だっけ?」と、遠い昔に思えるから不思議です。

今年は「働き方改革の年」と言われました。

誰もが「残業は本当に減るのだろうか?」と半信半疑だったと思います。

そんな中、2年前のクリスマスの朝、自ら命を絶った電通社員高橋まつりさんのお母様が手記を公表し(25日)、「大切なまつりを失った悲しみと苦しみは一生消えることはありません」と胸の内を明かしました。

娘の“まつり”がいない、2度目のクリスマスです。

毎朝目覚めるときに、まつりが生きている世界に戻っているのではないかと、未だに淡い期待を抱き続けています。

こう始まる手記は、「まつりさんの死をムダにしたくない」というご家族の思いが切ないほど綴られていました。

電通は「労働環境の改革を2年でやり遂げる」と宣言したけど、過去の成功体験に囚われ、意識改革は程遠い。 電通は有罪判決を受けたが「罰金50万円」では軽過ぎる。過失致死として、罰則を強化する法律の改定が必要。 パワハラも人の命を奪う。絶対に許してはいけない。 残業の上限規制を1カ月100時間未満は納得いかない。 欧州のように11時間のインターバル規制を取り入れるべき。

といった内容が書かれ、最後はこう結ばれていました。

私たち親子の名前がこんな形で日本に知れ渡ることは私たちの望みではありませんでした。

普通の生活をして普通に幸せになりたかったのです。

私たちのような不幸な親子を増やさないために経営者や従業員、すべての人の意識を変えて、日本の社会全体で働く人の命と健康を守って欲しいと思います。

普通の生活、普通の幸せ…。重い言葉です。

おそらくまつりさんの死を悼むコメントと共に、批判的な言葉やバッシングもあったのだと思います。

悲しいかな「世に名前が出る」とはそういうことです。

被害者・加害者に関係なく、安全地帯から石を投げる人は大勢います。

どんなに良いことをしても、批判する人は難癖つけて批判する。

それだけに「普通の生活、普通の幸せ」という言葉に胸がつまりました。

手記公開の翌朝、東京新聞が「電通系の会社が隠れ残業」という見出しの記事を報じました。

電通のグループ会社「電通アイソバー」で、電通が新入社員の過労自殺を受け労働環境改善に着手した昨年秋以降も、複数の社員が自宅に仕事を持ち帰り「隠れ残業」を繰り返していたことが分かったというのです。

記事によれば、午後十時以降の全館消灯など働き方改革を進めているが、業務量は減らないため隠れ残業は必須。管理職は把握していたにも関わらず残業代はいっさい払われていませんでした。

同社の社員からは

「会社は(まつりさんの死)を他人ごとと思っている様子だった」

「上司によるセクハラ行為も一向になくならなかった」

との指摘も上がっていたそうです。

今年の冒頭のメルマガ(1月4日号)の【2017年どーなるニッポン?!ー長時間労働はなくなるのか?「現場一流、経営三流」】で、私は次のように書きました。

どんなに「うちの会社は残業させないために、20時退社を義務づけています!」と企業のトップが豪語しようとも、“そもそもの問題”を、「経営者が自らの責務として」解決しない限り、長時間労働の削減は無理。

会社近くのファミレスに駆け込む社員は増え、休日にこっそり会社に忍び込んで仕事する人も増え、孤独な作業に疲弊し「なんのために生きているんだろう……」とむなしい思いにかられる人が増えることが予想されます。

繰り返します。長時間労働の“そもそも”の原因を、経営者が抜本的に変えない限り長時間労働はなくならないのです。

残念なことに「隠れ残業事件(あえて“事件”とします)」は、このときの指摘が当たってしまった。

まつりさんのお母さんは「成功体験」という言葉で表現していましたが、「長く働くことで成果を出す」のが成功だと考える経営者がいる限り、過労死や過労自殺は絶対になくなりません。

今年は「残業削減に成功した企業」をいくつか取材したり、その企業の社員にインタビューしました。

どの職場も共通していたのは、トップが「一時的に業績が落ちてもいい。社員が健康になれば業績は必ず付いてくる」という確信を持ち、社員同士が「もっと効率化できないか?」と意見を出し合い、「早く家に帰ると案外いいね」と残業なき世界を喜び、それを社員同士で共有していたことです。

そして、何よりも……、そういった会社の社員は笑顔で、職場には温かい空気が漂っていました。

とどのつまり「覚悟と会話」のある職場が「17時退社が当たり前」の職場になる。

2018年の最終号を書くとき、温かい空気の職場が増えるといいなぁ、というか一社でも増えることを願いながら、2017年最後の「裏返しメガネ」を終わりにします。

是非、みなさんの職場の“空気感”もメールで教えてくださいませね。

image by: Flickr

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