以前掲載の「ここ2年、上海に起きた「進化」が日本を完全に周回遅れにしている」は、中国に足を運ぶ機会のない人たちにとって、非常に衝撃的な内容だったのではないでしょうか。今回のメルマガ『クルマの心』では著者で自動車評論家の伏木悦郎さんが、プロの目線で中国の自動車市場の動向を徹底分析。日本の40年をわずか10年で成し遂げたというスピード感と、なおも拡大し続ける理由に迫ります。

初代アテンザがロングセラーになる中国の市場マインド

一方で注目したいのが中国の動向だ。1990年代の中国が自動車に関して話題に上ることはなかった。保有台数で雰囲気を掴もうとすると、1978年の保有台数は136万台。乗用/商用合計で商用が圧倒的多数の比率を占めた。1990年でも551万台であり、ミレニアムの2000年でやっと1180万台だった。

上海のF1GPの翌2005年の自動車保有は5年前の約3倍増となる3088万台。さすがに活況は話題となり、私は2007年に上海国際自動車ショー取材行きを決断する。今世紀からルーティンワークにしていた国際自動車ショー取材に中国が加わり、上海/北京そして何度か広州に通うことになったのだが、2008年の北京五輪、2010年の上海万博と続いた国家的なイベントが続く中での活況には心底驚かされた。

万博開催に向けた槌音は訪れる度に上海の景観を変えた。上海もそうだが、北京の地鉄(地下鉄)網の延伸ぶりはまさにドッグイヤーの勢いで、北京市内では日に3000台の新規登録車が誕生すると耳にした。10年間が日本の40年に相当する。大袈裟ではなくて、牧歌的とさえ思えた2004年の景観とはまったく異なる最新が其処彼処にある。

空路で3時間足らず。沖縄那覇に飛ぶのとそう変わらぬ距離にある上海に身を置いて、自動車に焦点を絞って考えれば、それだけで島国に留まって小さく考えていては本質を見誤ることに気づく。2015年の中国の自動車保有台数は乗用車135,119,000台、トラック・バス23,191,000台の合計158,310,000台。わずか10年で5倍増という桁外れの成長を成し遂げている。

データから読み解く中国市場の途方もなさ

中国の自動車販売台数推移が語るものは多い。手元にある1994年は134万台。1999年に200万台を超え、上海F1GPの2004年に520万台に伸ばすと587、722、879万台と年を追うごとに積み上げてリーマンショックの2008年に983万台、翌2009年に1365万台に撥ね上げると翌2010年にはついにアメリカを抜き去り、一度も落とすことなく2016年に2802万台まで拡大を続けている。

そこには当然のことながら燃料を供給するガソリンスタンドの店舗増が付随しているはずだし、道路インフラの整備も進められている。高速道路の総延長距離の推移にも目を見張らされる。30年前の1988年にはわずか522kmだったのが、11年後の1999年10月には10,000kmを突破(世界第4位)。2001年にはその約倍増の19,000km超(同2位)、以後5年毎に倍々ゲームとして2013年に104,400km、2016年末には13万km超でアメリカの12,819km(2010年末)を抜き去っている。

現在の中国自動車市場は、2010年にアメリカを抜き去って以来世界販売の30%を占めるに至っている(2016年:28,028,175台)。国別販売シェアのトップを占めるのは1053万台43.2%の中国民族系だが、2番手は451万台18.5%を握るドイツ系。次いで日系15.6%、米系12.2%、韓国7.4%と続く。

ブランド別販売ランキング2017年最新版では1位が五菱宏光(ウーリンホンガン)というGM系上海通用五菱のMPVで実に533,950台を売り上げる。前年比−17.9%というが、まるでアメリカのライトトラックにも匹敵するかのような桁外れの台数だ。以下長城汽車SUVハーバルH6(506,362台=同−12.8%)、上海大衆VW中国専用セダンラヴィーダ(457,114台=同−4.5%)、上海通用GMビュイックエクセルGT(416,990台=同+12.6%)、東風日産シルフィ(405,854台=同+10.3%)、上海通用五7菱GM宝駿バオジャン510(363,949台)、広州汽車GACトランプチGS4(337,330台)、トヨタカローラ(330,018台)、VWサギター(332,733台)、VWティグアン(332,402台)と続く。

VW(フォルクスワーゲン)ブランドが中国市場にしっかりと根を下ろし、2009年には倒産したはずのGMが欧州のオペル/ボグゾールに見切りをつけた上で注力している現実が浮き彫りになっている。2016年にフォードが日本撤退を決めた背景に成長を続ける中国市場重視の経営判断が下ったのは間違いなく、そこには政権交代には関係のないアメリカの意志が働いたのかもしれない。

アメリカとドイツに見る中国戦略の歴史的共通点

ドイツの自国市場は約370万台と日本に次ぐ第4位のスケールだが、欧州は実質自国市場の色彩が濃い。ドイツにとって中国市場は過去10年で倍増の生産規模を実現した成長エンジンそのもので、万難を排してでもシェア拡大を譲らぬ意志を感じる。

シェアが10%に満たないアメリカ市場にディーゼルで勝負するギャンブルが打てたのも稼ぎ頭の中国の成功ありき。日本は口コミによる評判が有効な中国の消費者にとって信頼される商品市場という評価から、そこで機能している日本メディアを優遇しブランドイメージに関わる高評価を引き出すことに神経を使う。

ドイツメーカーが中国市場重視に転じたタイミングに、日本の子会社のインポーター広報に日本メーカーのPRセクションからのヘッドハンティング組が登場したのは偶然ではないだろう。VWの展開は明らかに中国市場を向いたブランド戦略の一環であり、アメリカにおいてジャーマンプレミアムとは明らかに異なる量販ブランドの立場に留められたVWにはならないように配慮が徹底された。

アメリカで発覚したディーゼル不正は、技術的信頼に胡座をかいた奢りの結果だが、即座に首脳陣が退陣したのは深謀遠慮の結果だ。半分は不正内容を知るからこその責任を取ったもので、残りの半分は後任者に大胆な方針転換を取らせることで再起を図らせる狙いがあったのではないか。

アメリカにおけるドイツ車のシェアは全体でも10%に及ばず、VWは2%に留まる。

プレミアムの他ブランドとは異なり、世界の量販ブランドとしてはあってなきがごときレベル。幸いというべきかVWディーゼルゲートは中国においては情報展開されず、目に触れやすい日本メディアの追求もいつの間にか立ち消えとなっている。

翌2016年には手の平返しとも言える『EVシフト』が発表され、秋のパリサロンではVWがIDコンセプト、ダイムラーがコンセプトEQと揃って具体的なビジョンを明らかにした。そこにはアメリカ市場で要求されるZEV規制対応への含みという必然と、中国が打ち出したZEV規制に倣うNEV規制で宿敵と化している日本勢への牽制が透けて見える。

そもそも電動化技術に関しては1990年代から一貫して日本がトップランナーであり、EVにはじまりシリーズ/パラレルのHV、FCVとエネルギーミックスを念頭に多様のかぎりを尽くして現在に至る。

私のモノの見方は不十分かもしれないが、自分の足で動きこの目で見た上で考えた結果の意見である。まだまだ日本にはチャンスがあり、世界に胸が張れるコンセプトが提示できる余地がある。それを形にすることが目下の進むべき道と心得ている。

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