ビジネスシーンにおいて、時として予想もつかないようなトラブルが起こることもないとは言えません。しかもそれが、社員による取引先での窃盗などという、信用問題に関わる事案であることも。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、そんな事態に見舞われた企業からの相談を、社労士事務所としてどう解決に導くかが記されています。

懲戒解雇

社労士事務所では、日々なんだかんだと事件が起こる。最近の統計では解雇よりもいじめやハラスメントが増えている。なのに、うちの事務所では、最近、懲戒処分や解雇などがやたらと多い。なぜだ…?お客様が心配だ。

この1ヵ月、事務所がいつも以上に騒がしかった。関与先様に懲戒解雇案件が5件もあったのだ。そのうち、4件が窃盗がらみだなんて…。

大塚 「所長、なんかあったんですか?」

所長 「いやぁ、また窃盗事件だよ、今度はT社さんでも起こったみたいなんだ。社労士会の支部会・懇親会の途中に社長直々からお電話がかかってきたから、何事かと思ったよ」

新米 「あのTVCMをしている会社の社長さんから、直接携帯電話にお電話があったんですかぁ?」

所長 「そうだよ。あ、でもまずは他の方が繋いでくださるんだ。最初万引だとおっしゃったときは、ピンと来なくて、TVドラマの主婦のスーパーでの万引が頭に浮かんだんだけど、男性だってこと、取引先との問題に発展している、詳細はお会いしてから話したいということだったので、翌日、慌てて駆け付けたってわけ」

大塚 「で、どんなお話だったんですか、」

所長 「万引きの場所が取引先であること、おまけに就業時間中であること、これは、うちでの今までの窃盗事件とは、扱いがかなり違ってくるね」

新米 「え?就業時間中にそれもお客様のところで!?店舗のレジのお金とかロッカーで同僚のお財布からというのより重たいですね」

所長 「うん、そうだね。男性は、営業担当。取引先は量販店で販売促進のために訪れていた就業時間中のことなんだ。仕事で訪れていた量販店の店長さんに現行犯で捕まって、警察で事情聴取。初犯ということで、取引先は今回は大目に見てくださるとその日は、家族の方に来ていただき帰ることになったんだ」

大塚 「初犯だから大目に見てくださったんですね」

所長 「いや、JANコードを消してから鞄に入れるという手口からも常習では?という疑いは最初から有りはしたんだ。ただ、常習か初犯かは本人の口からの言葉を、いったんは信じようということになったそうだよ」

新米 「そうなんですかぁ」

所長 「東京勤務だったけれど、営業業務からは当然はずし、急きょ本社で3ヵ月間、初心に戻って研修生と位置づけに。同時に過去にさかのぼって量販店への訪問日のビデオを確認し、男性が写っていないか調査を始めたそうだ」

大塚 「ご本人は、研修生になって、本社に来られていたんですね。同時に録画もチェックされて、どうだったんですか?」

所長 「うん、初犯で大目にという段階では、解雇処分は避け、降格処分に留めようとされていたそうだ。そこまでは、自社で対応しようとされていたんだけど、動画から別の店舗で同じことをしていた男性が発見され、一転。取引先からもどういう対応・処分をするのか、迫られて、これは、うちの事務所にも連絡して、一緒に考えてもらおうということで電話がかかってきたってわけだ」

新米 「あらぁ〜、やっぱり初犯ではなかったということなんですね」

所長 「手口からいっても、常習犯なんだろうね。この1ヵ月のうちでの他の案件もすべて1回には留まらず、みごとに複数回だっただろう。見つからなかったから…とエスカレートするのかもしれないが、窃盗罪は習慣性の犯罪ということを今回は本当に実感したね」

新米 「懲戒解雇ということですか」

所長 「窃盗罪は習慣性の犯罪だから解雇すべきだが、懲戒解雇となると、懲罰委員会の開催や弁明の機会等を与える必要もあることから、退職勧奨でもよいと思うね。就業規則上には当然該当条文はある。どうするのかは、ケースバイケースだね」

大塚 「取引先への対応は頭が痛いですね」

所長 「そうなんだよね。口頭での返答で良いなら、取引先には『退職させる処分をします』ということでよいと思うけど、どのような処分をしたか書面で返答してほしいと言われているそうで、困っておられたよ」

新米 「難しそうですね。懲罰委員会は開催されたんでしょう」

所長 「T社さんに訪問する際は、いつも役員会議に参加する感じなんだ。小人数のときでも、社長、副社長、専務、総務室長、総務主任と私だ。今回は、さらに営業次長に営業課長、それにご本人と9人での開催だったね」

新米 「大所帯ですね」

所長 「会社は、初犯だという本人を信じていただけにショックが大きかったようだよ。嘘をつかれた…と」

大塚 「本人との信頼関係もですが、取引先との信頼関係も大きく崩れることになりましたね」

所長 「そうなってしまったね。ただ、気になることがあるんだ。男性に社長から『前回は、初犯だと言っていたが、実は取引先から他にもあったのでその動画を見てほしいと連絡があった。私どももその動画を見て確認したが、あなたは他店舗でも同様のことをしましたか?』と質問があっても『覚えていないです。ないと思います』と応えたことがそうだ。写真をみて『これは私です』と納得はされたんだけど、その一連の表情を見ていて、とても違和感を覚えたね。嘘をつこうとしている感じはなく、本当に覚えていないようなんだ。何かのストレスから来ているのか、ある意味心の病気なのかもしれないと思ってしまったよ」

新米 「ストレスからの病気?」

所長 「うん、疑った方が良いかもしれない。T社さんは、残業はほとんどないし、家庭からのストレスと想像できそうだった。最近、T社さんでは、奥様や子供さんとの関係が問題視される従業員さんが増えていると感じておられるそうで、どういう風に育ったのかの家庭環境も大事だが、結婚後の家庭環境も大きくその人を左右するとおっしゃっていた。今回も、そのケースに当てはまるのかもしれないなというのが事後の雑談での結論だったね」

新米 「え?どういう意味ですか?」

所長 「うん、従業員管理は奥が深いね。最近は、プライベートに関わるのを嫌がる人も増えているけれど、EAPや個人面談などで、ときどきは仕事だけでなく、従業員の家庭環境のこともある程度は知っておく、場合によっては、介入することも必要だと感じたね。私のようなウェットの人間には当たり前のことかもしれないが、ドライな人間関係になれている昨今では、家庭環境にまで突っ込むことはハラスメントだと言われそうで、それも怖いんだろうなぁ…」

新米 「すみません、ボス。答えがよくわからないんですけど…」

所長 「あ、わるい、悪い。結婚後、子供が生まれると、奥さんは子供にかかりっきり。ご主人に関わる時間はなく、ご主人は家庭で居場所がなくなる。共働きだとするとそれはなおさら。奥さんが家庭でのご主人の仕事も取りあげてしまったら、ご主人は配偶者でなく、だんだん子供化していって、ますます何もできない、しない、考えない人になってしまう…。それが職場にまで影響してくるってことさ。何にでも自ら主体的に取り組める男性は良いが、君もこれから結婚するなら、気をつけた方が良い」

新米 「え?ボクもですか?」

所長 「ははは…。もっとも男性に限らず女性にも同じことは言えるけどね。家庭裁判所でこの間担当した調停事件では、女性で同じようなパターンがあったところだよ。このことは本当に気をつけた方が良いな」

新米 「…」

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