安倍首相の求心力低下に伴い、ますます活発化する「ポスト安倍」を巡る動きについて、前回の記事「自民本部も真っ黒か。仁義なき河井夫妻『広島代理戦争』の深い闇」でその戦いの勢力図を推測した、米国在住作家の冷泉彰彦さん。そんな冷泉さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、「イージス・アショア断念」と「河井夫妻スキャンダル」から浮かび上がる、さらに別の大胆すぎる仮説を紹介しています。

河野太郎、政権奪取戦略に死角はあるのか?

先週のこの欄(「自民本部も真っ黒か。仁義なき河井夫妻『広島代理戦争』の深い闇」で、広島における河井夫妻のスキャンダルを取り上げ、どうにも全体構図が見えないと嘆いたのですが、その際に

Aグループ「安倍総理+今井尚哉補佐官+西村康稔大臣+甘利大臣」 Bグループ「菅官房長官……河野太郎防衛相?……茂木敏充外相?」 Cグループ「検察中枢……石破茂氏?」

のような格好で、パワーが3分裂しているという可能性を申し上げたわけです。その上で、検察と石破グループの淡い連携とか、その結果としてAもBもダメージを受けているという可能性ということをお話しました。

ですが、よく考えてみれば、この仮説は間違っている以前に、全く面白くありません。そこで今回は、全く別の仮説を描いてみることにします。

それは自民党内のグループといっても、

第1グループ「安倍総理+今井尚哉補佐官+河井夫妻」 第2グループ「岸田文雄政調会長+岸田派+拡大宏池会?+広島県議会」 第3グループ「石破茂+クラシックな防衛族+クラシックな地方創生」 第4グループ「河野太郎+菅義偉(影の黒幕)+次官会議」

という分裂です。そして、現在起きていることは、ポスト安倍のカードの中で、極めて有力な3枚を同時に葬るという一種のクーデターという考え方です。

その3枚とはズバリ「安倍晋三」「岸田文雄」「石破茂」という3枚です。もっといえば、河野太郎を軸とした政権構想があり、これに対する対抗馬を一気に消すという政局の流れということです。

まず、河井夫妻の事件ですが、最初は「安倍潰し」の動きだと誰もが思っていたわけです。確かに、河井夫妻は安倍直系であり、特に案里氏を強引に参院広島全県区に押し込んだ背景には、現職であった溝手顕正氏が「アンチ安倍」だったことに対する懲罰的なニュアンスがあったということも知れ渡っています。

ですが、ここへ来て捜査がどんどん進む中では、受け取った県議や首長、市議などもどんどん名前が出ているわけです。その多くは、岸田系の政治家と言えます。ということは、この事件が話題になればなるほど、岸田氏も傷つくことになります。広島は保守王国で、その保守というのは池田、宮沢を生んだ中道実務派の風土ということでは聞こえはいいものの、実際は、ここ30年ぐらいは造船と自動車が空洞化する中で非常に古い体質の組織になっていたようです。

いずれにしても、今回の河井スキャンダルは、ここへ来て「安倍と岸田を一気に潰す」という展開になってきています。

さて、政局に関しての動きといえば、「イージス・アショア断念」という大事件がありました。これこそは河野太郎氏らしい一大パフォーマンスと言えます。そもそも、この「断念劇」が非常に巧妙に仕組まれています。

1)秋田と山口の地元に「もしかするとブースターの落下被害があるかも」しれないので、苦しい決断だが断念ということで、涙まで見せる一世一代のパフォーマンスをやってのけました。これで、地方票、中道左派票に接近する事ができます。

2)その一方で、地上イージスが駄目なら、ミサイル防衛の代替はどうするのかというと、何故か、クラシックな防衛族から「敵基地攻撃能力」という勇ましい話が急に飛び出しています。河野氏は積極関与ではない一方で、議論については流れるままに静観しているようです。

どうしてこのタイミングで「敵基地攻撃能力」などという話が出来てきたのかというと、そこには複雑なポリティクスが存在するようです。まず、北朝鮮サイドからは「南北和解は先延ばし」という強烈なメッセージが来ています。また、アメリカでは、トランプの神通力が急速に低下しており、例えばCIAやペンタゴンが仕組んだと思われる「ロシアがタリバン兵に対して、米兵殺害の報奨金提示」という怪しさ満点の話が飛び出したりしています。

つまり、トランプが「アメリカ・ファースト」の「非介入主義」プラス「独裁者との個人ネゴによる平和」によって、アジアにおけるコミットメントを引っ込めようとしていた動きの多くが、急速に色褪せると同時に、やや時代遅れのバイデンによる「もう一度世界の警察官、もう一度冷戦構造」といったクラシックな演歌メロディーが聞こえる状況にもなって来ているわけです。

そんな中で出てきたのが「敵基地攻撃能力」ですが、まず、仮想敵としてはどう受け止めるかというと、「ハイテク日本が強大なアメリカと連携して先制攻撃能力を高めるのは脅威」だなどというカマトトな反応をする可能性はゼロです。そうではなくて、「軍国日本の亡霊復活」だから「俺達被害者の正義は益々光り輝く」ということで、調子に乗ってくるのは間違いありません。

勿論、防衛当局はそのぐらい分かっていますから、そうならそうで軍拡競争になれば、軍事費も増えて結構というようなハコモノ浪費癖の防衛バージョンを狙っていると考えられます。

もしかしたら、太郎氏は、そうした防衛族のモメンタムに乗っかろうとしているのかもしれません。ですが、そうなると、地方票はともかく、中道左派票は逃げるでしょう。

但し、石破さんより太郎さんには強みがあるわけです。それは現在進行形で国際情勢に深くコミットしているということ、そして英語ができてしまうので、ホンモノの人脈を作れてしまっていることです。そうなると、この危険極まる「敵基地攻撃能力」にしても、中谷、小野寺、石破といった面々よりもずっと2020年のリアルな国際政治、国際社会における判断ができるわけで、その情報量ということでは、大きな差があると思われます。

また、地方創生ということでも、クラシックなバラマキの範囲をそれほど出ない石破流と比較すると、とにかく「イージス・アショア」をキャンセルした実績というのは、秋田と山口だけでなく、広範な支持を引っ張ることはできそうです。

加えて、ネット政治に関しては、自民党内でもセンスの良いほうですから、これも石破氏を大きくリードできるのではないかと思われます。

どういうことかというと、石破さんを刺激するのが目的という見方です。その上で、石破さんが以前力説していたように「敵基地攻撃能力」に積極的になれば、「アンチ安倍票」を石破さんから切り離す事が可能になります。反対に、石破さんが朝日新聞的な世論を捨てられないので、ハト派的な動きをすれば、防衛族との関係を遮断する事もできます。また、どっちに転んでも2020年のリアルなインテリジェンスに触れている河野さんに強みがあるというわけです。

問題はコロナ対策です。仮に早々に大きな政局があるようですと、例えばですが、小池百合子と連携して行く、例は悪いですが、小泉純一郎が初期に田中真紀子人気を利用したような提携をやるかもしれません。

以上は全くの仮説ですが、例えば河井スキャンダルということを考えると、これはどう考えても「安倍も岸田も潰す」展開になっていますし、イージス・アショアの一件については、話が豪快すぎて「政権を獲りに行っている」としか思えません。お涙頂戴の大見得というのは、これはこの人としては相当な覚悟と思います。

ですから、この2つを重ねて考えると、このような構図が浮かび上がるのは自然と思うのです。読者の皆さまはどうお考えでしょうか?

image by: 自由民主党 − Home | Facebook

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