新型コロナウイルスの感染拡大がなかなか収まらない日本。ショッピングモールや居酒屋などには少しづつ客足が戻り始めていますが、もし飲食店や小売店の従業員にコロナ感染者が出た場合、その店舗はどう対応しているのでしょうか。フリー・エディター&ライターでジャーナリストの長浜淳之介さんは、その疑問に答えるべく、実際に従業員から感染者が出た、ニトリやイオンの緊急時対応を詳しく分析。保健所などの取材を重ねることで見えてきた、日本のコロナ対応の現状を丹念にレポートしています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

【ルポ】コロナ感染者が出た飲食店、小売店は、どう対処しているのか?

もしも、お店で新型コロナウイルス感染者が出たなら、しばらく休業しなければいけないのか。ショッピングモールのテナントの1店で感染者が出たら、モール内の他のお店はどうなる? そんな疑問を持たれたことはないだろうか。

結論から言えば、お店を休業しなければならないというルールはない。ただし、感染者が勤務しているお店の消毒は必要だ。

感染者(PCR検査陽性者)は基本、指定医療機関に、2週間入院することになる。都道府県によっては、軽症者や無症状者は、指定されたホテル等の宿泊施設や自宅で、人との接触を避け不要不急の外出を控えて、静養するケースもある。

実際に感染者が出た飲食店、小売店は、どう対処しているのか。各所に取材し、調査した。

従業員がコロナに感染。家具大手「ニトリ」の場合

新型コロナの感染拡大は今、第2波の真っただ中と考えられ、ピークは過ぎたとの見方もあるものの、PCR検査陽性者は連日、全国で数百人を数えている。

大半の飲食店や小売店では、従業員に感染者が出ないように、十分対策を打って注意しているが、それでも感染してしまうことがある。新型コロナは感染しても無症状の人が多く、発熱、味覚障害といった、この感染症に特徴的な症状がないまま、周囲の人を感染させるから厄介である。

兵庫県の井戸敏三知事は、「食中毒を起こした店のように、コロナ感染者が出た店も営業停止にするべき」と、8月8日の全国知事会で発言している。そういう強硬な意見もあるものの、現行法では、店員が新型コロナに感染したからといって、お店が営業停止になるわけではない。また、国も営業停止処分にする考えは毛頭ない。

幾つかの保健所に問い合わせてみたが、「新型コロナに感染者した人を犯罪者のように見てはならない。感染者や、感染者を出したお店を差別することがあってはならない」と訴えている。

新型コロナ感染者が確認されたお店が休んでいるのは、店主や店長が入院したり、店員にクラスターが発生してお店を開けられなくなったか、安全性を鑑みて自粛したのか、どちらかということになる。

1つの事例として、5月27日にニトリホールディングスが発表した、ニトリ赤羽店(東京都北区)で従業員1名が、同23日に感染が確認された件を挙げてみよう。

ニトリ赤羽店

ニトリ赤羽店

当該従業員は21日に発熱、自宅療養していたが、22日に医療機関でPCR検査を受け、23日に陽性と判定された。最終出勤日は20日で、勤務期間中は発熱もなく健康で、マスクを着用していた。

同社では北区保健所に届け出て、本人への聞き取り、店内カメラの調査から、顧客に濃厚接触者がいないと判明。本人は保健所の指導の下、2週間の自宅療養を継続した。

濃厚接触者とは、発症の2日前から、患者と1m以内で、マスク着用など必要な予防策なしに、15分以上会話などの接触を行なった者(周辺の環境や接触の状況から総合的に判断する)等である。

25日に北区保健所が濃厚接触者6名の従業員を特定。2週間の自宅待機で健康状態の経過を観察した。そのうち5名がPCR検査を受け、全員陰性となっている。

PCR検査陰性であっても、2週間以内に発病する可能性があるので、濃厚接触者は2週間、不要不急の外出を控えるよう要請される。

「風評被害リスク」と「感染拡大リスク」という天秤

ニトリは北区保健所と連携して、営業時間外に感染拡大防止策として、22日に当該従業員が使用した設備の店内消毒を実施。23日、北区保健所の指導の下、22日の消毒箇所を含めて店内消毒を完了。休業せずに営業を継続している。

北区保健所によれば、濃厚接触者のPCR検査は何らかの症状が出た場合に実施。無症状者でも、強い希望があれば行うこともあるとのこと。

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北区保健所

新型コロナの潜伏期間は2週間と言われているので、医師の協力の下、患者からは2週間前からの行動を詳しく聞くことになる。ポイントは、誰から移されたのか。また、症状のあらわれる2日前からのことは、積極的疫学調査として特に詳しく調べる。

店内の消毒に関しては、プラスチックの表面に付着したウイルスは、72時間生きているので、感染者が過去72時間以内に、接触した場所を消毒する。

消毒に関しては、消毒液を散布すると、呼吸器から吸い込んで病気になるケースがあるので、床にぶちまけてはならない。

消毒液は、次亜塩素酸ナトリウム液(塩素系漂白剤等)を0.05%まで希釈し、手で触る場所である、手すり、ドアノブ、エスカレーター、エレベーターや自動ドアの押しボタンなど、高頻度接触面を、雑巾掛けしていく。パソコンのマウスやキーボードは、個人専用であれば消毒の必要はない。

ニトリは顧客の安全・安心を考えて、プライバシーに配慮しつつ、新型コロナ患者が確認された場合に公表しているが、企業、お店に公表が義務付けられているわけではない。

残念ながら、新型コロナへの恐怖のあまり、他県ナンバーの車に傷を付けたり、他県から帰省した人の家に、感染の危険があるから帰れと張り紙をしたりする、心無い人もいるのが実情だ。

店員の新型コロナの感染を公表するかどうかは、風評被害のリスクと感染拡大のリスクとを天秤にかけ、熟慮してケースバイケースとなるだろう。

レストラン従業員がコロナ感染。大型商業施設「イオン」の場合

郊外型ショッピングモールのレストラン街の1店で、新型コロナ感染者が確認された場合はどうなるか。

6月2日に山梨県昭和町のイオンモールに入居する、レストランのうちの1店の従業員1名が感染した例がある。県によれば、当該従業員は1日に37.7度の熱、せき、喉の痛みの症状があり、医療機関を受診。PCR検査を受け、2日に陽性が判明した。

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PCR検査

5月30日、31日、6月2日と、感染リスクの高い発症2日前から3日間勤務。調理や料理を運ぶなどし、勤務中はマスクを着用していた。このケースでは、従業員が医師より、検査の結果が出るまでは自宅で待機するように求められていたにもかかわらず、2日にも出勤したことが問題視され、再発防止の徹底がお店とモールに求められた。県から、当該レストランには休業要請が行われている。

イオンモールには休業要請がされなかったが、イオンは事態を重く受け止め、約180店の専門店街を3日には臨時休業。館内の徹底的な消毒を行った。モールは、自社で作成した、客観的に感染防止対策に有効なガイドラインに沿って運営されていたことが、確認されている。

4日には、感染者が働いていたレストランなど1部を除いて、専門店街の営業を再開。

当該レストランも、2日17時半からの休業要請が、8日には解除されて再開している。

また、保健所により濃厚接触者は確認されなかったが、当該店舗の患者と同じ日の同じ時間帯に働いていた接触者には、3日にPCR検査を実施。全員が陰性と判定された。

モール内のスーパー「イオンスタイル」は、保健所の指導の下、2日に消毒を行い、3日から通常営業した。

この場合、濃厚接触者がいないので、通常は感染者が2週間入院、感染者が確認されたお店を消毒して終了なのだが、陽性者が働いていたので、厳しい措置が取られた。

新型コロナウイルスは「結核」や「鳥インフル」相当の位置づけ

新型コロナは現状、2020年1月28日から21年2月6日までの期限が設けられた、指定感染症となっている。感性症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)で、危険度が5段階で上から2番目の、2類相当に位置づけられる。

これは2類に分類されている、結核、SARS、MARS、ジフテリア、ポリオ(急性灰白髄炎)、鳥インフルエンザ(H5N1に限る)と、同じ危険度だ。

2類に感染した人は、保健所の判断により、感染症指定病院に入院、感染した人が接触した場所には消毒が求められる。

新型コロナには、新型インフルエンザ等対策特別措置法が適用されており、同法が3月14日に改正されて、感染拡大が深刻化した場合には、緊急事態宣言を発動することができることとなった。

なお、新型コロナは、正式には“SARS-CoV2”と名付けられており、その感染症をWHO(世界保健機関)がCOVID-19と命名した。 SARS-CoV2の名の通り、 SARSの近縁のウイルスではあるが、症状は異なっている。

ちなみに、最も危険な1類にはエボラ出血熱、ペスト、クリミア・コンゴ熱、痘そう、南米出血熱、マールフルグ病、ラッサ熱が指定されている。3類にはコレラ、腸チフス、パラチフス、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症が分類される。

どれも恐い病気である。

1類は、2類に対して実施できる措置である入院と消毒等の他、交通制限等の措置が可能となっている。現状の新型コロナは、2類相当ではあるが、緊急事態を発令して、都道府県知事が外出等の自粛を要請できるので、一部1類に相当する措置も行われている。

3類となると、1、2類のように入院は求められないが、就業制限等の措置が行われる。消毒は同様に必要。

感染症指定病院への入院の費用は、患者は無料。軽症者、無症状者も現状は入院しており、しかも第2波では重症化しにくい20代、30代の患者が増えて病床を塞いでいるため、病床は重症者を救うために開けて、軽症者、無症状者はホテル等で静養させている自治体もある。

このような現状を踏まえて、政府では、新型コロナを罹ったら直ちに公費で入院する2類相当としているのを、通常のインフルエンザ並みの5類相当までグレードダウンすることが検討されている。

日本の新型コロナの死者数は、100万人あたり7.9人(7月29日時点)。欧米では、英国が675.8人、イタリア580.7人、フランス462.8人、米国450.9人、抑え込んでいるほうのカナダが236.1人、ドイツでも108.9人であることを見ると、ダントツに少ない。

アジア諸国は概ね新型コロナの死者が少なく、台湾の0.3人には及ばないが、日本はかなり健闘していて、新型コロナを通常のインフルエンザ並みの病気にしてしまったとは言えないだろうか。PCR検査数が多いか、少ないかは、結果的にはほとんど関係ないのではないだろうか。

罹患者が急増した長野県上田市の場合

長野県上田市では、8月以降、夜の接待を伴う店や大学生の宴会を中心に、70名超のPCR検査陽性者が確認され、罹患者は急増したが、現状重症者はいない。

新型コロナの死者は、長野県全体の累計で1名いるだけで、上田からは出ていない。県独自の「新型コロナウイルス警報」で上田圏域は6段階のうち3番目に重い、レベル4「特別警報」が発令されており、県内で最も感染拡大しているものの、客観的にインフルエンザ並みの危険性に思える。

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長野県独自の新型コロナウイルス警報の状況(出典:長野県庁ホームページ)

しかし、中心街では休業している店も多い。安全・安心をアピールするために、飲食店従業員を対象に、94店165名が9月3〜5日に受けたPCR検査で、陽性者は1人だけだった。

ところが、6日には市内最大の繁華街の袋町商工振興会では、飲食店関係者やボランティア160名による街の一斉消毒が行われている。本来は、陽性者と濃厚接触者に2週間休んでもらい、陽性者の勤務するお店を消毒すれば終わりなのだが、それでは安心して顧客に来てもらえないのが実情である。

袋町では8月21日から、管轄182店が2週間の自粛による休業も行っていた。

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上田市の名物、美味だれ焼き鳥。コロナ禍で中心街の飲食店を訪れる人は少なかった(出典:信州上田観光協会ホームページ)

全国各地で感染者、感染者を出した店への誹謗中傷が相次ぎ、飲食店に行くこと、電車に乗ることすら必要以上に恐れている人が多すぎる現状では、新型コロナそのものより、新型コロナ恐怖症のほうが恐くなってきた。

重症化率が高い後期高齢者への対策をしっかり打って、新型コロナの2類相当からのグレードダウンが必要ではないか。

image by: 長浜淳之介

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