国民の生活や命より自らの保身を最優先するのが、現代永田町の論理のようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、総裁選を回避したい菅首相が目論む「五輪閉幕直後の衆院解散総選挙」というシナリオを検証。さらにその動きを封じたい勢力によるものと見られる「怪文書」の内容を紹介するとともに、次期総裁の座を虎視眈々と狙う政治家の名を挙げています。

菅首相が思い描く五輪後解散の狙いは総裁選回避か

できることなら、菅首相は東京五輪・パラリンピックより前に好機を見つけ、衆議院解散、総選挙に打って出たいだろう。しかし、どう見ても、首尾よくコトが運んでいるようには思えない。

メディア各社の世論調査における内閣支持率は40%前後で下げ止まってはいるものの、新型コロナ禍が落ち着かない限り、解散の大義が見い出しにくい。まずそこで、つまずいている。

新型コロナ退治の決定打として菅首相が期待していたワクチン接種が遅々として進まないのは周知の通り。医療従事者から始まったが、なにせ供給量が少なく、他の先進国に比べると、接種率が格段に低い。

菅首相は4月22日の衆院予算委員会で、医療従事者に続く高齢者(3,600万人)への接種について「これまで説明している通り、4月から開始するべく準備を進めている」と強調したが、本格化するのは5月にズレ込むとみられ、6月末までに高齢者に2回目のワクチンを配布するというスケジュールはかなり怪しくなっている。

たとえ、予定通りにいくとしても、高齢者の2回目接種が6月末に完了するわけではない。配布を終えるというだけだ。このぶんでは、東京五輪の開会式がおこなわれる7月23日までに、ワクチンによって感染者が劇的に減っているということは考えにくいだろう。

東京五輪・パラリンピックの開催じたい、今後、コロナの変異株が大暴れするようなことがあると、かなり危うい。現に、変異株流行の兆候が色濃く、第4波とおぼしき感染再拡大との関係が強く疑われている。

こうした状況下で解散総選挙など想像がつかないが、常在戦場の永田町は別世界とみえ、立憲の安住国対委員長が内閣不信任案をちらつかせば、自民の二階幹事長が「解散を進言する」と凄むなど、与野党の鞘当てはすでに始まっている。

もちろんこれも、勇ましさを示すパフォーマンスに違いないだろうが、早期解散説は今も絶えない。4月に菅首相が訪米しバイデン大統領との首脳会談をこなした後とか、7月の東京都議選との同日投開票という話もあった。だが、現下の状況で、チャンスを見いだすのは極めて難しい。

では、五輪後の解散となると、どう展開するのだろうか。菅首相の描くシナリオはこうだろう。無事に五輪とパラリンピックが閉幕すれば、その達成感のもと、すぐに衆議院を解散する。そして自民勝利につなげ、菅長期政権への基盤をつくる。

衆院の任期満了が10月21日、自民党総裁の任期は9月30日までである。9月5日にパラリンピックが終わった後、できるだけ早く臨時国会を開いて衆院解散に持ち込み、10月3日か10日の投開票をめざす腹ではないだろうか。

つまり、総裁選をやらないということだ。菅首相と二階幹事長がそれを回避したがる気持ちはおよそ察しがつく。

新型コロナ対策が後手に回っていると不評なのに加え、長男がからんだ総務省の接待疑惑など、いくつもの不祥事が重なり、内閣支持率よりもずっと菅首相のイメージは低下している。トップの人気が自分の票に響くとあって、自民党内では、菅首相による解散総選挙になるのを不安視する声も出ているようだ。

その一つと見られるのが、3月初旬、議員会館の自民党議員事務所にポスティングされたA4一枚の「怪文書」といわれるものだ。文書の差出人は「総選挙前に党則第6条第1項(総裁公選規程)に基づく総裁選挙の実施を求める会」で、以下のような日程が記されている。

9月7日自民党総裁選挙告示▽9月20日総裁選挙投開票日(総裁決定)▽9月22日首班指名▽9月27日解散▽10月24日総選挙投票日。

差出人名からみてもわかるように、総裁選を実施し、そこで選ばれた首相のもとで解散するべきだという主張だ。書いてはいないが、菅首相による五輪前の解散を否定している。そして、五輪・パラリンピックが閉幕する9月5日を待ち、その後に総裁選、解散総選挙へと進むスケジュールを例示している。

おそらく、自民党国会議員の有志が出したものだろうが、そこには、総裁選をしたくない菅・二階ラインの思惑を察知し、機先を制する意図も込められているのではないだろうか。

総選挙の勝利ですでに国民の信任を得たという理屈をもって、総裁選をせずに話し合いで再任、というのが菅・二階の描くシナリオだろう。五輪までの早期解散であれば総裁選は避けられないが、この時期なら回避できるという算段もあるに違いない。むろん、安倍晋三前首相、麻生太郎副総理が相変わらず菅支持であることが前提だ。

安倍・麻生が菅再選の反対派にまわれば、話はがらりと変わる。ポイントは、菅自民党のままで大丈夫かということだ。その試金石となる選挙が間近に控えている。

4月に行われる衆議院北海道2区、参議院長野選挙区の補欠選挙と、参議院広島選挙区の再選挙だ。衆議院北海道2区は吉川元農林水産大臣が収賄の罪で在宅起訴されたため、自民党は候補者の擁立を見送ったが、参院長野と広島には候補を立てる。長野はコロナ感染で急死した羽田雄一郎氏の弔い色がある分、野党有利。広島も、河井克行、案里夫妻の選挙違反事件の舞台だけに、自民党は苦戦を強いられる。

3月21日の千葉県知事選で、自民党推薦の候補者が約100万票も差をつけられて惨敗したばかり。そのうえ、4月の三つの国政選挙で野党に軍配が上がることになれば、それこそ菅首相の不人気が鮮明になり、党内に「菅降ろし」の風が吹きすさぶだろう。

そうなったときでも、安倍、麻生両氏が全面的に菅首相を支持するかといえば、はなはだ疑問である。両氏は「総裁選で決めるべきだ」と原則論を持ち出すのではないか。

いざ総裁選となった場合、注目されるのは世間受けのいい河野太郎行革担当大臣の動向だ。菅首相に重用されていることもあり、総裁選出馬の意思を記者に聞かれても「今の仕事を淡々とやっている」と素っ気ないが、つねにチャンスを狙っているのは確かである。所属派閥のトップである麻生太郎氏のグリップがゆるめば、出馬の可能性はなきにしもあらずだ。

いずれにせよ、安倍、麻生両氏が誰を支援するかがカギとなる。安倍氏の再再登板説まで出ているが、いくらなんでもそれはないだろう。

ただ、そんな話が飛び出すほど、菅首相の政治基盤は脆弱だ。頼りにする二階幹事長も、選挙買収を認めた河井克行元法務大臣について「他山の石」と語るなど、老害と剛腕が紙一重の風情で、とてもこれまで通り党内をまとめられるとは思えない。

新型コロナ感染は、一足早く緊急事態宣言を解除した関西を中心に再拡大し始めている。やがて、首都圏もこれに続くだろう。従来型と入れ替わりつつある厄介な変異ウイルスが相手となるのは間違いなく、国民からみれば、解散総選挙どころではない。くれぐれも、政治的思惑が優先されることのないよう願いたい。

image by: 首相官邸

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