世論調査では自民党の次期総裁にふさわしい人物として一番人気を誇っていたものの、岸田文雄氏との決選投票で惨敗を喫した河野太郎氏。何が河野氏の当選を阻んだのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、その要因として「菅首相と小泉進次郎氏の言動」と「古い自民党の狡猾な戦略」の2点を挙げ、それぞれについて詳細に解説しています。

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河野・小泉・石破の人気3人衆そろい踏みを興覚めにした人物は誰か

自民党の新総裁に岸田文雄氏が選ばれた。河野太郎氏は議員票、党員票ともに思ったほど伸びず、第1回投票で2位、決選投票での逆転もならなかった。

世間の期待度は高いのに、河野氏はなぜ負けたのだろうか。せめて党員票の勢いがもっとよければ、国会議員票も河野氏に雪崩を打っただろう。

色々な原因があるだろうが、菅首相と小泉進次郎氏の言動が深く絡んでいると筆者はみる。

菅首相が総裁選への不出馬を表明したことに関する9月9日の当メルマガで、立候補が取り沙汰されていた河野太郎氏と菅首相の関わり方について、筆者はこう書いた。

河野氏の場合は、自民党が変わるかもしれないという幻想を一時的には抱かせるだろう。だが、そのためには菅氏がきっぱりと権力闘争から手を引き、ゆめ河野氏の後見人のように見られないようにすることが肝心なのではないか。

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ところが、菅首相は潔く身を引くなどという美学とは無縁の人だった。総裁選が告示された9月17日、わざわざ、河野太郎氏を支持すると公言したのである。

そこから浮かび上がったのは、キングメーカーに転身して、権力を維持しようとする姿だった。

それまで、“河野太郎一座”の舞台はすこぶる順調に見えた。河野氏の出馬が、自民党の将来にとってどれほど意味があることなのかを、小泉氏は切々と訴え続けた。9月14日、横須賀市内で記者会見した小泉氏の発言。

「河野さん、いろいろ攻撃されていますけど、なぜこれだけ攻撃されるかと言うと、最大の既得権益と戦っているからなんですよ」

「日本も世界もコロナで変わっているなかで、今までのやり方、発想、発信のあり方に囚われない新しいタイプのリーダーが必要です。河野さんのような強烈な個性が躍動できる懐の深い自民党に変わらなくてはいけない。古き良き自民党に戻ることを国民は求めていない」

現在の自民党は既得権益にまみれた古い自民党であり、それと決別できる政治家は河野氏しかいないと、位置づけたのである。なんと分かりやすいキャッチコピーだろうか。父、純一郎氏の「自民党をぶっ潰す」を彷彿とさせた。

この単純明快さゆえに、菅首相の河野支援は強い反発を呼んだ。小泉、河野両氏の背後で菅首相が糸を引いている。なにが既得権益と戦うだ、なにが古い自民党との決別だ。「改革」をうたいながら、その実、安倍前首相や麻生副総理とともに古い自民党を守ってきたのが菅首相ではなかったか、と。

情に訴えて共感を誘う小泉氏の巧みな弁舌。そのすべてが自己中心的なものに思えてきた。

9月3日、総裁選不出馬を決めた菅首相に面会した後、小泉氏は涙をにじませて記者たちにこう語った。

「悔しいのは首相が人間味のない人だと思われている節があることだ。まったく逆で、温かい、懐の深い人で、息子みたいな年の私に、常に時間をつくってくれて、感謝しかない」

私に時間をつくってくれる温かく懐の深い人。間違いなく、小泉氏にはそうなのだろう。ただし、誰にでも温かくはない。表情豊かな“進次郎節”にはいつもホロリとさせられるが、油断は禁物だ。

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“河野一座”は、石破茂氏を引き込み、河野・小泉・石破の人気役者トリオで万雷の拍手を得ようともくろんだ。うまくいけば、党員票を根こそぎ奪い取り、1回目の投票で過半数に達したかもしれない。ただし、菅首相が大人しくしていてくれたらの話である。

今から思えば、小泉氏が官邸に日参し、総裁選不出馬を進言していた時期、河野氏を後継に据えるという腹案が菅首相に生まれていたかもしれない。

菅首相が、退任まぎわというのに渡米し、9月25日の日米豪印(クアッド)首脳会合に出席した経緯にも、その思惑が垣間見える。

クアッドは中国に対抗するためトランプ前政権が、外相会合として主催したのがはじまりだ。バイデン政権はそれを格上げし、今年3月、オンラインでトップ会合を開いた。その後、対面式の会合が企画され、9月下旬の国連総会の時期に開催すべく米国主導で日程調整が進められた。

しかし、9月3日に、菅首相が総裁選への不出馬を表明し、事情が一変した。9月29日には新総裁が決まる。クアッド開催時期を先にずらしてもらい、新首相の出席で未来を見据えた首脳会合とするか、あたかも“送別会”のようなものにしてしまうかは、菅首相の胸三寸にかかっていた。

9月23日のFNNプライムオンラインは、クアッドをめぐる外務省と菅首相のやりとりを以下のように記している。

首相周辺によれば、すでに退陣を表明していた菅首相は、外務省からクアッド出席の可否についてあらためて相談を受けた際、しばらく無言で考えた後、「俺が行かないと成立しないんだろ?日本のせいで(会議が)流れるのは、今後のためにも良くない」と静かに答えたという。

米国が9月下旬の開催にこだわり、菅首相の出席を切望した。ゆえに、菅首相が出席せざるを得なかったという理屈である。首相周辺が菅訪米を正当化するために作ったストーリーではないのだろうか。

9月25日の日テレニュースは、クアッド終了後の日米首脳会談について「『ヨシ』『ジョー』のベテラン政治家同士の絆を再確認する極めてプライベートなひとときとなった」と菅・バイデンの蜜月ぶりを報じたが、同時に、以下のような記述も添えている。

外務省幹部は今回の訪米ラブコールについて「バイデン大統領が菅さんのことを気に入っていて、最後に会いたがっている」と語ったが、バイデン政権関係者は「今回はとにかくクアッド実現が目的。『日本の総理』が出席してくれれば誰でもよかった」と冷ややかに受け止めた。

いつもながら、日米の温度差は大きい。この訪米は、米国のラブコールというより、菅首相が切望したと捉えるほうが、より正確なのではないだろうか。クアッドを軌道に乗せた首相として歴史に名をとどめ、後継者に外交成果を引き渡す。そんな形を整えるのが最大の目的ではなかったかと、筆者は思う。

菅氏が権力への未練を断ち切り、見事な引き際を演じていれば、小泉脚色による“河野太郎一座”の舞台は、自然に大成功をおさめていたことだろう。

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一方、小泉氏の言う「古い自民党」は狡猾だった。

河野氏の勝利を阻止し、岸田氏を手の内に入れるため、安倍前首相がとった策は、高市早苗氏への支持表明だ。9月4日午前のTBSニュース。

安倍氏はこれまで菅総理の再選を支持してきましたが、菅総理が総裁選への不出馬を表明したことを受け、高市前総務大臣を支援する意向であることが複数の関係者への取材で分かりました。

この報道の前々日、岸田氏はテレビ番組で森友問題に関し「さらなる説明が必要」と発言したが、報道後には「再調査は考えていない」と安倍氏への配慮を示した。自分ではなく高市氏を支持するという安倍氏に、不穏な意思と気迫を感じ取ったようだ。

結果的に安倍氏は、岸田氏の恭順姿勢という成果を得た。しかし、高市氏支持には、ほかに真の狙いがあった。自ら体得した総裁選のセオリーの実践だ。

返り咲きを狙う安倍氏が、石破茂氏ら4人と戦った2012年9月26日の総裁選。5人による混戦となって票が分散したため、決選投票にもつれこんだ。このとき、第1回投票での1位は石破氏で、議員票34、党員票165。安倍氏は議員票54、党員票87で2位だった。ところが、議員のみによる決選投票では、安倍氏108票、石破氏89票と逆転し、安倍総裁が誕生した。

人気があり党員票を多く集めそうな候補者に対抗するには、立候補者数を多くして票を分散し、決選投票に持ち込むこと。そうすれば、ほぼ議員票だけの勝負となり、派閥の締めつけを効かせることによって、結果をコントロールできる。

高市氏に一定の票を集めて安倍氏の影響力を見せつけ、河野氏の過半数獲得を阻止しさえすれば、岸田・高市の連合で決選投票を制することができるというわけだ。しかも安倍氏にとって、高市氏を支援することは、国家観を共有する支持者への明確なメッセージとなる。

安倍氏は事務所にこもり、高市氏への支援を求めて細田派の若手ら党所属議員に自ら電話をかけまくった。報道によると、安倍氏は周囲に「裏切ったら、こちらから縁を切る」などと語ったといい、強い働きかけだったことがうかがえる。高市氏が第1回投票で岸田、河野氏に伍する票を集められたのは、そのおかげだろう。

決選投票では、高市氏の票がどっさり岸田氏にまわった。岸田氏は安倍氏に大きな借りができた。新総裁に選ばれ、やがて首相になる岸田氏は、政権運営にあたって安倍氏の影響を排除できるだろうか。

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