かつては蜜月関係にあった自民党と日本維新の会ですが、現在はその構図が一転、互いが激しく非難し合う展開を見せています。何が両者の間をここまでこじらせてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、その背景を解説。自民党内の権力闘争や右派論客の思惑等が複雑化させた対立構図を解き明かしています。

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親「安倍」論客の維新批判に茂木幹事長が便乗。自民・維新対立が激化

安倍晋三氏とその後を継いだ菅義偉氏が首相だったころまでは、日本維新の会が自民党の補完勢力を演じ、右派論客が保守系メディアを通じて政権の援護射撃をする図式が定着していたように思う。

ところが岸田政権になったとたん、様相は一変し、三者の関係は複雑にねじれてきた。岸田自民党は右派論客からそっぽを向かれ、党勢拡大に血眼になる維新ともソリが合わない。

5月8日、夏の参院選を控え、維新の本拠地・大阪に乗り込んだ自民党幹事長、茂木敏充氏は、立候補予定者である松川るい参院議員との街頭演説で、大声を張り上げた。

「我々は祖国を守るウクライナの人々とともにありたいと思っています。そんななか、維新の創設者の人がずっとロシア寄りの発言を繰り返し、それに対して維新の国会議員は何も言えない。身を切る改革というが、身内に甘い政党だ。こんな党に負けるわけにはいかない」

このところ、ウクライナに関する橋下徹氏の発言をめぐって右派論客やネトウヨ諸氏から激しいバッシングが続いている。茂木氏はこの流れを利用し、維新批判を繰り広げたのだ。

「橋下氏は党と無関係」と主張する維新は「民間人の言論を弾圧するのか。大自民党の幹事長としては薄っぺらい」(松井一郎代表)と反発した。

茂木氏の言う「ロシア寄りの発言」とは、橋下氏が、人々の命を守るためNATOは妥協し、ウクライナは降伏すべきだなどと主張し、メディアと専門家をTwitterやテレビでこき下ろしていることをさす。

これにネット上で非難が沸騰。右派論客がその声に促されるかのように、橋下氏への批判キャンペーンをはじめた。

作家、百田尚樹氏は自身のYouTubeチャンネルなどで連日のように橋下氏の発言に異を唱え、「WiLL」6月号には「橋下徹の怪しい言説 キミは中露の代弁者か」なる文章を寄稿したほど。

元TBSワシントン支局長で、安倍元首相と親しい山口敬之氏は「月刊Hanadaプラス」で、「橋下徹研究」という連載をはじめ、中国共産党が支配する上海電力が大阪府の巨大メガソーラー事業を請け負っていることについて、契約当時の市長だった橋下氏を追及している。

山口氏は、日本にできることをなぜあえて中国の企業にさせるのか、この事業で毎月巨額の利益を中国共産党に献上していることになるのではないかと指摘。そのうえで、ウクライナ戦争をめぐる橋下氏の発言について、次のように糾弾する。

「中国と中国共産党は、あらゆる手段を使っていずれ台湾・尖閣を取りに来る…日本の著名人が『侵略されたら抵抗せず、逃げるか降伏するべきだ』と言ってくれたら、侵略する側にとっては極めて『ありがたい』発言に違いない」

あたかも橋下氏が中国の手先であるかのような言説だ。おそらく、橋下発言に関する百田氏らの考えも似たようなものだろう。

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山口氏はこの件をめぐり橋下氏のみならず、維新にも宣戦布告した。5月13日公開の「橋下徹研究」。

私はてっきり、日本維新の会と橋下氏は現在は基本的には関係がないと認識していた。(中略)ところが、この問題について音喜多駿氏や足立康史氏といった日本維新の会所属の国会議員が、橋下市長(当時)には責任も問題もないと主張し、音喜多氏に至っては私の主張を「陰謀論」と決め付けた。(中略)「陰謀論」というのであれば、私はその国会議員と徹底的に戦わざるを得ない。

彼ら右派論客はすでに維新をも見限っているようにみえる。その流れは橋下氏の発言問題が起きるより前にできつつあったのではないか。

おそらく、昨年の衆院選で維新が大躍進したことと無関係ではあるまい。維新の勢力範囲がほぼ大阪に限定しているうちはまだしも、全国をうかがう存在となって、メディアへの露出が増え、維新の創設者である橋下氏や松井代表の傲慢で攻撃的な態度が鼻につくことも多くなった。敵とみなす政治家やタレントに名誉毀損だ訴訟だと脅しを乱発する姿勢もいささか常軌を逸している。

そこへもってきて、ウクライナ人の愛国心に水を差すような橋下氏の発言である。右派言論人たちは、自分たちとは似て非なる勢力として維新をとらえ、新たな敵として攻撃し始めたのではないか。

維新の増長を物語るかのように、大阪の府議や市議らの不祥事が相次ぎ、維新の政党支持率は、衆院選直後をピークに昨年末以降、低下が続いている。

安倍氏ら自民党タカ派と近い政治理念を持つ維新は、憲法改正や核共有の議論を促進する動きを強めるなど、保守層の取り込みに躍起だが、逆に維新離れの動きも顕著になっているといえよう。

昨年の衆院選で維新に15戦全敗した大阪の地で、茂木幹事長があえて橋下氏の名前を出し、維新を批判したのも、そんな背景があるからこそだ。

とはいえ、岸田自民党も、右派論客やネトウヨとの関係においては問題をかかえている。ことに、外務大臣だった茂木敏充氏を幹事長にし、新たに林芳正氏を外相に任命した人事への反発は大きい。幹事長になるべきは高市早苗氏で、親中派と目される林氏は外相として不適切、という意見がネトウヨ御用達のYouTube番組などで盛り上がり、今も続く反岸田、安倍待望の論調につながっている。

維新と右派論客は岸田自民党を嫌悪し、安倍政権の復活を待望する。右派論客と自民党は橋下氏を糸口に維新批判を展開する。なんとも、込み入った関係になったものだ。

この状況、裏返してみれば、野党陣営の弱体化がつくり出したとみることもできよう。立憲民主党は夏の参院選の1人区で、共産党や国民民主党との候補者調整が難しくなっているため、候補者の競合を事実上容認する方向だという。

このままいけば参院選に自民党が圧勝し、岸田政権は安泰だ。政変が起きて衆院解散をするようなことがない限り、3年間は国政選挙がない。だが、それもまた、安倍シンパの精神不安を募らせる要因ではあるだろう。

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岸田政権が長期にわたれば、そのぶん林外相がポスト岸田として有力になってくる。言うまでもなく、林氏は地元・山口における安倍氏のライバルだ。「一票の格差」を是正するため、次回の衆院選から、山口県は現在4つある選挙区が3つに減る見通しでもあり、安倍氏とすれば、地盤の重なる林氏が実力を蓄えるのは、なにより気がかりだろう。それゆえにこそ、様々な会合で、岸田首相の政策に口をはさむ発言を繰り返し、自らの存在感を高めるのに必死なのだ。

5月17日に開かれた安倍氏の派閥「清和会」の政治資金パーティーには約2,800人もの参加者が集まり、岸田首相や茂木幹事長もかけつけた。

「自民党最大の政策集団として、自民党の柱石たらんとの自負と誇りのもと、岸田政権をしっかりと支える決意だ」と安倍氏はあいさつし、岸田首相は「自民党の屋台骨であると確信している」と持ち上げたという。

「自民党の柱石として岸田政権を支える」。見方によっては、言うことを聞かないとタダではおかぬという恫喝だ。岸田首相もおべっかを使うほかなかったのだろう。

狐と狸の化かし合いのような一幕。そこに、いびつな日本の権力構造が凝縮されているとはいえないだろうか。

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image by: 大阪維新の会 − Home | Facebook

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