5月だけでも11回もの震度4以上の地震に見舞われている日本列島に、今後30年以内に70%〜80%の確率で発生すると言われる南海トラフ地震。死者数32万人超との予想もあるこの自然災害に、我々はどう備えるべきなのでしょうか。今回のメルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』ではジャーナリスト・作家として活躍中の宇田川敬介さんが、阪神大震災と東日本大震災から日本人が学んだ教訓を挙げるとともに、南海トラフ地震に向け我々が尽くすべき議論を考察しています。

地震の備えは出来ていますか

5月5日に石川県能登で、その後鹿児島県、北海道、そして千葉の房総半島でも地震が頻発しています。そこで改めて、「地震への備え」ということでお話をしたいと思います。私自身、1995年の阪神大震災の被災経験をしております。

また2011年の東日本大震災の時には、国会にいて、その後すぐに東北に行きました。その時の経験などを踏まえて、様々なお話をしてみたいと思います。今までどこかでしたような話も含まれるかもしれませんが、その辺はご容赦ください。

二つの震災 阪神大震災

阪神大震災とは、1995年1月17日に発生した、兵庫県南部を中心とする地域で起きた大規模な地震です。

この地震では、マグニチュード7.3の揺れが約20秒間続き、阪神・淡路地域の都市部や交通網、ライフラインなどに甚大な被害をもたらしました。

死者は6,434人、負傷者は4万3,792人にのぼり、被災者は約150万人に達しました。また、建物の倒壊や火災により、住宅の全半壊は約39万戸に及びました。

この地震は、日本の近代史上でも最悪の自然災害の一つとされています。

この震災では火災や道路の寸断、ライフラインの停止など、多くの二次災害が発生しました。

この地震は、日本人に多くの教訓を与えました。以下に、その教訓の一部を紹介します。

■防災意識の高揚

阪神大震災は、日本人に自然災害への備えの重要性を再認識させました。地震に対する耐震性や避難計画、非常用品の備蓄など、防災対策に関する取り組みが強化されました。また、防災教育や訓練も積極的に行われるようになりました。

■ボランティア活動の発展

阪神大震災では、全国から多くのボランティアが被災地に駆けつけました。彼らは、救助や物資の配給、清掃や復旧など、さまざまな支援活動を行いました。このボランティア活動は、日本社会における市民参加や社会貢献の意識を高めました。また、ボランティア団体やネットワークも多く発足しました。

■危機管理能力の向上

阪神大震災では、政府や自治体などの危機管理能力が問われました。しかし、当時は、情報伝達や指揮系統、連携体制などに多くの課題がありました。この反省から、災害対策基本法や緊急事態法などの法整備が進められました。また、自衛隊や消防などの救助隊も強化されました。

■災害復興への取り組み

阪神大震災では、被災地の復興に多くの時間と労力がかかりました。しかし、その過程で、被災者や地域住民が主体的に参加する復興計画が多く作成されました。これらの計画では、安全性だけでなく、歴史や文化、コミュニティなども考慮されました。また、復興事業における公民連携や民間活力の活用も進みました。

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東日本大震災

もう一つは東日本大震災です。

東日本大震災とは、2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の巨大地震と、それに伴う津波や原子力発電所の事故を指す言葉です。

この震災は、日本の歴史上最大の地震であり、世界でも4番目に大きな地震として記録されています。

震災の影響は、東北地方を中心に広範囲に及びました。約2万人が死亡または行方不明となり、約47万人が避難を余儀なくされました。

また、福島第一原子力発電所では、冷却システムが停止し、炉心溶融や水素爆発などの重大な事故が発生しました。この事故により、放射性物質が大量に放出され、周辺住民の健康や環境に深刻な影響を与えました。

東日本大震災は、日本だけでなく世界にも多大な損害と影響をもたらした未曾有の災害であり、その復興や教訓は今もなお続いています。

東日本大震災から日本人が学んだことの一つは、自然の脅威に対する備えの重要性です。地震や津波は予測できないものですが、事前に避難計画や防災グッズを準備しておくことで、被害を最小限に抑えることができます。

また、緊急時には情報や連絡手段が途絶える可能性があるため、家族や友人との待ち合わせ場所や連絡方法を決めておくことも大切です。

さらに、自分だけでなく、周りの人々にも気を配ることが必要です。震災では、高齢者や障害者などの弱者が多く犠牲になりました。彼らを助けるためには、普段から地域での交流や支援を深めておくことが望ましいです。

もう一つ学んだことは、エネルギー問題への取り組みの必要性です。

福島第一原発事故は、原子力発電の危険性を改めて浮き彫りにしました。原子力発電は安定した電力供給ができる一方で、事故が起きた場合には甚大な被害を及ぼす可能性があります。また、使用済み核燃料の処理や廃炉作業も長期的な課題です。

このような問題を解決するためには、原子力発電に頼らないエネルギー政策の見直しが必要です。再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの推進など、環境に優しいエネルギー源への転換を図るべきです。

東日本大震災から10年以上たった現在も、日本のエネルギー政策もこれらの教訓も学んでいるも、まだ完全ではないのです。

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南海トラフ地震と言われるものへの備え

では次の地震に備えるのはどうしたらよいでしょうか。

次の地震と言われるのが、「南海トラフ地震」です。

南海トラフ地震とは、静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけてのプレート境界で発生する巨大地震です。政府の地震調査委員会によると、今後30年以内にマグニチュード8から9クラスの地震が発生する確率は「70%から80%」とされています。

この地震が起きると、東日本と西日本の広い範囲が激しい揺れや津波に襲われ、最悪の場合、死者は32万3,000人、全壊する建物は238万棟余りにのぼると想定されています 。

南海トラフ地震に備えるためには、国や自治体、個人がそれぞれ防災対策を進める必要があります。

国は2014年に公表した基本計画の中で、死者数をおよそ8割減らし、全壊する建物も半分ほどに減らすという「減災目標」を定めています。

沿岸部の自治体などでは地震の揺れや津波への対策を進め、津波避難タワーなどの施設を整備したり、避難訓練を行ったりしています。個人も自宅や職場での耐震化や防災グッズの準備、避難経路や方法の確認などを行うことが重要です。

しかし、防災対策にはまだ課題も多くあります。

人口減少や高齢化が進む過疎地域では財政力が低く十分なハード対策ができないことや住民どうしの助けあいが困難になっていること、都市部では超高層ビルが増加して長周期地震動への対策が必要になっていること、デジタル技術の進展による防災情報の活用方法などが挙げられます。

また、「半割れ」と呼ばれる南海トラフの震源域が時間を空けてずれ動くケースも想定されており、その場合は2回目の地震に備えるために被災地の支援や復旧が大きく遅れるおそれもあります。

南海トラフ地震は国家の将来に関わる災害でもあります。

この10年間で社会の状況が変わってきていることを踏まえて、被害想定や防災対策を見直すことが必要です。南海トラフ地震が起きた際に社会をどう維持していくかや今後何に取り組むべきかなど議論を尽くすべきでしょう。

(メルマガ『宇田川敬介の日本の裏側の見えない世界の話』2023年5月15日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 気象庁

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