カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールとアカデミー賞の作品賞受賞を果たし、日本でも『パラサイト 半地下の家族』として注目されている韓国の映画『Parasite(原題:기생충=寄生虫)』。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴31年目の日本人著者が、この作品内でセンセーショナルに描かれている「半地下にある住居」が、韓国に実存する背景や社会問題について記しています。

寄生虫

韓国語のタイトルは『寄生虫(キセンチュン)』。韓国で2019年5月30日に公開され観客動員数は1,000万人を突破している。今現在もまだ上映中だ。日本では『パラサイト 半地下の家族』として公開された。日本では2020年の1月10日ごろに公開されてるからまだ1か月余りだ。筆者はそれほど映画を見ないほうだけれど、去年の夏頃、妻といっしょに映画館にいって見た。おもしろかったけど、この映画が全世界にこれほどまでの旋風を巻き起こすとはそのときは思ってもいなかった。

ご存じのとおり第72回カンヌ国際映画祭では韓国映画初となるパルム・ドールを受賞。さらに世界最大の権威、第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を席巻した。非英語作品(Foreign-Language Film)の作品賞受賞は史上初めてのことというから、すごい快挙なのだ。またアカデミー作品賞とカンヌの最高賞を同時に受賞した作品は『マーティ』(1955年)以来、65年ぶりとなるという。

世界中からいろいろの評価がなされている。トータル的には「タイムリーな社会的テーマを多層的かつ見事に描いていてしかも、ボン・ジュンホ監督の作家性が強く刻印されている」といったところで、「緊張感と驚き、そして、富裕層と貧困層の階級に対する怒りが込められているという点で、ジョーダン・ピールの『アス』と通じるところがある」といった評や、「この作品が一つのジャンルに収まることを望むかもしれないが、ジャンルは絶えず変わり続ける。まるで、本物の寄生虫が寄生相手を絶えず変えるように。見終わった後も魅惑的なラスト・イメージが頭から離れない支配的な傑作になっている」との評も(Wikipedia)。

ボン・ジュンホ(奉俊昊/BONG JOON-HO)監督は、1969年生まれの51歳。これまでの作品には、『殺人の記憶』(2003)、『クエムル』(2006)、『マザー』(2009)、『雪国列車』(2013)、『オクチャ』(2017)などがあり、今回の『寄生虫』は2019年発表の作品。『寄生虫』もそうだけど、彼の作品は社会問題、時事問題からヒントを得て作品として昇華しているケースが多いようだ。

日本語のタイトルにもなっている「半地下」。こういうスタイルの家は日本にはたぶんないかと思う。少なくとも筆者が日本にいる間は見たことがなかった。韓国ではこの半地下というのは、けっこうどこにでも見られるスタイルで一般の人はなんとも思わないわけだが、筆者がはじめてその存在を知ったときにはさすがに小さかったけれど、いくばくかの衝撃を受けたことを思い出す。

道路にそって半地下の窓がとられていることが多いので、歩いていても「あ、ここ、半地下の家だ」とすぐにわかる。見た瞬間感じたのは、こんなところに窓があったら、道路に浮遊しているホコリやごみなどが部屋の中にどっと入っていくんじゃないのかということだった。実際それは正しくて窓を開けっぱなしにしておけば砂ぼこり、綿ホコリとありとあらゆるホコリが入ってくるそうだ。

だから普通は窓は閉めきっておくことになる。そしてはじめは気づかなかったことが、部屋に生じる湿気。地下を掘って部屋を設けることになるので、太陽の光を浴びることがない。ために常に湿気が多い。体には当然よくない。家賃が安いから半地下に住むわけで、経済的問題がなければ普通はそういったところに住むことはない。映画の主人公が半地下に住んでいるのも、貧困層の象徴として描かれているわけだ。

韓国のマスコミのインタビューを受けて、新海誠監督が「こんなおもしろい映画ははじめてだ」と答えていたのが印象的だった。また『半沢直樹』の香川照之が、ボン・ジュンホのあだ名を知っているかという問いに対して、「知ってるよ、もちろん。ボン・テイルっていうんだよ」と答えていたのも面白かった。ボン・テイルというのは、「ボン・ジュンホ+ディテール」ということで、ボン・ジュンホの映画作りのそのディテールを大切にするスタイルを評してこういったあだ名がついたのであるが、こんなあだ名まで知っているとはいくら同じ映画畑同志だからといっても香川照之、ただものではないなと思った次第だ。ボン・ジュンホ監督自身はこのあだ名をそんなに好んではいないということであるけれど。自分は穴も多いしポカもよくやる。そんなディテールだなんて、というわけだ。謙遜して「好きじゃない」って言ってるんだと思う。

アカデミー賞発表のとき、筆者が一番印象的だったのは、「最も個人的なことが最も創造的なことだ」ということばを胸に抱いて映画の道を歩んできたけれど、そのことばを語った方が目の前にいらっしゃるマーティン・スコセッシ監督です、といってスコセッシ監督を紹介する場面。最大の賛辞を込めてスコセッシを紹介するその謙虚さと純真さだった。会場全体がスコセッシに対して起立拍手となった。コッポラとかスピルバーグなどは知ってるけど、スコセッシは寡聞にして筆者は知らなかった。調べてみるとアカデミー賞監督賞・作品賞などを取ったこともある非常に有名な人だった。経歴もすごいけど、「最も個人的なことが最もクリエイティブなことだ」というこんなことばを残すとは、やはり一流の作家なのだろう。非常に含蓄に富み、クリエイティブなことに関心をもつすべてのひとに力を与えてくれることばではある。

韓国では、アカデミー賞の受賞をうけて最近また『寄生虫』を見に映画館に足を運ぶ人が増えている。ちなみに中国では、2019年7月28日に中国青海省の省都・西寧市で開催された「西寧ファースト青年映画祭」の閉幕式で上映される予定であったが、前日の7月27日午後に突如「技術的な理由」による上映中止となった。本作の内容が中国当局の検閲で問題視された可能性が高いと見られている。

また北朝鮮は、南朝鮮はこの映画のように貧富の差が激しくて住みにくい世の中みたいだけど、こちら北朝鮮は共産国家だからそんなことは全然なくみんな平等で貧富の差もなくすべての人が同等の生活をしているよ、というコメントを発表している。北朝鮮一流の自分を棚に上げたおちょくりである。世界のだれもが鼻で笑うようなことをこともなげに言う。その図々しさには頭が下がる思いだ。

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