習近平国家主席の独裁強化意欲はとどまる所を知らないようです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、アリババグループ傘下企業への中国当局による監視が強化されたという事実を取り上げるとともに、罰金刑を科されたアリババサイドの異常とも言える公開書簡の内容を紹介。さらに、習主席の独裁強化とも密接に関連する、中国政府がアリババグループを管理下に置くことを望んだ理由を解説するとともに、日本人が中国資本のキャッシュレスサービスを使うことにより生じるリスクを記しています。

【中国】中国政府の制裁に「感謝」するアリババの末路と日本の危機

● 中国アント、金融持ち株会社に再編 当局が監督強化へ

中国人民銀行(中央銀行)は4月12日、アリババグループ傘下で、世界最大のオンライン決済サービスの「アリペイ(支付宝)」を運営するアントグループに対し、銀行と同じような規制対象となる金融持株会社に再編するように命じました。これにより、今後、中国の金融当局の監視が強まり、アントグループの収益力などが低下することが懸念されています。

アントグループは、2020年11月に、香港と上海に上場する予定でしたが、中国金融当局により阻止され、急遽延期となりました。その背景として、10月末にアリババグループ創始者のジャック・マーが中国の金融制度を批判したために、当局が激怒して上場延期に追い込んだとされています。

ジャック・マーも2021年1月に姿を現すまで、約3カ月にわたり消息不明となり、当局に拘束されているのではないかという憶測が飛び交いました。

そして今回のアントグループの大型再編です。2日前の4月10日、中国当局は、アリババグループに対して独占禁止法違反で約182億元(約3,050億円)という過去最大の罰金を課すことを発表したばかりでした。

しかもこのとき、アリババ側は公開書簡で、なぜか金融当局に対して謝意を表明しました。その内容は、「政府の健全な規制や尽力がなければ当社の成長はなかった。そして当社顧客層の全てによる批評と寛容さ、支持は当社の発展に極めて重要」「感謝と敬意でいっぱいだ」というものです。

● 中国が独禁法違反で巨額罰金、アリババ抵抗できず―6年前とは一変

まるで文化大革命時代の自己批判です。そしてその中国当局は、「健全な規制や尽力」によって、アントグループの金融持株会社への再編を命じたわけです。アントグループにしてみれば、「感謝と敬意でいっぱいだ」ということになるのでしょう。

このことを報じたブルームバーグは、次のように評しています。

これは中国での当局による大手テクノロジー企業への締め付けがいかに独特であるかを示唆している。米当局がフェイスブックやアップルに反トラスト法違反で過去最大の罰金を科したとしたら、マーク・ザッカーバーグ氏やティム・クック氏が公に謝意を示すことはないだろう。

 

中国当局の動きは何から何まで異例づくしだ。わずか4カ月で独禁法調査を終えており、数年を要する欧米とは違いが鮮明だ。

習近平は公安を牛耳り、上海閥を潰そうとしています。香港から自治権を奪ったのも、香港ビジネスを行う上海閥を叩くためだと言われています。ジャック・マーのアリババへの圧力も、その一環だと見られています。そして、習近平の次の標的は共産主義青年団(団派)です。今後は胡錦濤派との内ゲバが激化するのではないかと考えています。

台湾の『自由時報』は、かつてジャック・マーが「中国の起業家はいい結末を迎えない」と述べたことを取り上げ、「ジャック・マーの予言が当たった」と報じています。

● 「中國企業家沒有一個是善終的」馬雲神預言慘成真

そもそも中国政府は、アリババグループやアントグループを政府の管理下に置こうとしていたと見られています。一つには、中国政府が推進する「デジタル人民元」のプラットフォームとして、アリペイなどの電子決済を利用するためです。

もう一つは、膨大な顧客情報を入手し、人民を監視するためです。しかも中国政府はデジタル人民元の海外普及も狙っています。人民元決済を増やすことで、アメリカのドル基軸体制の影響力を削ごうとしているからです。そうなれば、中国人ではない他国人の情報までが中国に握られることになります。

今年の1月11日、ロイター通信は、中国当局がアントグループなどに対して、顧客の信用情報を提供するよう求める方針であることを報じました。表向きは、「過剰な借金や詐欺を防ぐため」という理由ですが、人民監視に利用することは明らかです。

以前のメルマガで、LINEの情報データが中国企業に筒抜けだったことの危険性について書きましたが、あらためてそのヤバさがわかると思います。

【関連】あまりに脳天気。日本人が知らぬ中国共産党「LINEデータ悪用」の手口

アリペイは日本での加盟店数は30万件を超えていますし(2019年時点)、2019年には国慶節期間中における取引件数で日本が世界1位になりました。

● 日本におけるアリペイ加盟店数が30万店以上に● 中国モバイル決済「アリペイ」取扱件数で日本が世界1位に、大型連休「国慶節」期間で、旅行先にも変化の兆し

しかも日本人もアリペイは利用できます。つまり、中国人のみならず、日本人の情報も中国当局に握られる危険性があるということです。加えて、中国人が日本で何に消費しているかを中国当局が把握することで、日本や日本企業に対して経済的ダメージを与えることも可能です。

それをやられたのが韓国です。中国は2016年に在韓米軍へのTHAADミサイルの配備を決定した韓国に対して、中国人観光客の韓国への渡航制限、韓流タレントの中国メディア出演禁止などの報復措置を現在も行っています。

この報復措置は「限韓令」とよばれていますが、もっとも大きな被害を受けたのは、ロッテマートでした。2016年当時、韓国企業のロッテがTHAAD配備の用地を提供したため、中国国内で展開していた系列のロッテマートが中国当局から「消防設備の不備」などを理由に99店舗中87店舗が営業停止に追い込まれ、2018年には中国からの撤退を余儀なくされました。

● THAAD報復に耐えられず…11年で中国から撤退することになったロッテマート

中国当局がアリペイの顧客情報を握った場合、中国当局が内外の日本製品の購入を禁じるような命令を出せば、簡単に不買運動ができてしまいます。日本製品を購入したかどうかを中国当局が確認でき、違反者に罰則が課されるとなれば、誰も日本製品を買わないでしょう。しかも海外でもそれが徹底できるわけです。中国に進出している日本企業にとっては、死活問題になるでしょう。

中国の決済システムを利用することは、中国政府に個人情報をすべて握られることを覚悟したほうがいいということです。思想信条や中国に対する意識はもちろん、プライベートなことも把握され、脅しのネタに使われる可能性もあります。

民主主義国の政府がそのようなことをやれば、マスコミに叩かれ、元首の辞任や政権交代が避けられません。実際、ウォーターゲート事件でニクソン大統領は辞任しました。しかし、中国は一党独裁の国ですから、むしろ盗聴や情報管理、情報統制が当たり前なのです。

しかも、中国では民間企業は最終的に中国共産党に接収されてしまいます。中国では、企業内に中国共産党の支部を設置することが義務付けられています。経営陣よりも中国共産党のほうが上位ですので、結局、共産党の言いなりにならざるを得ないのです。

そのような国の決済システムを利用することは、主権や人権、自由を明け渡すことにほかならないということを、肝に銘じるべきです。

 

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