以前掲載の「マスメディアが伝えないビラの内容。金与正が激怒した本当の理由」でもお伝えしたとおり、韓国の脱北者団体が撒いたビラに激しく抗議し開城(ケソン)の「南北共同連絡事務所」を爆破した北朝鮮。あれから約1年、同じく韓国内の団体が飛ばした金正恩朝鮮労働党総書記を批判するビラについて、金与正氏が再び怒りをあらわにしていると伝えられています。なぜ金正恩政権はこれほどまでに「脱北者ビラ」に対して過剰に反応するのでしょうか。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、北朝鮮研究の第一人者であり、3,000種もの脱北者ビラを収集し分析を続けているという宮塚利雄さんが、その理由を解説しています。

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韓国から再びビラが飛来したことに金与正が再び文在寅政権を恫喝

韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合(FFNK)は4月30日、北朝鮮の体制や金正恩朝鮮労働党総書記を批判するビラを、先週2回にわたって北朝鮮側に飛ばしたと発表した。

北朝鮮に向けた体制批判のビラ散布を禁じる「改正南北関係発展法」が3月末に施行されて以降、ビラを飛ばしたことを発表した団体は初めてのことである。同団体は2回に分け、ビラ50万枚と小冊子500冊、1ドル札5,000枚を括りつけた大型風船10個を北朝鮮に向けて飛ばした。

同団体は、韓国政府が北朝鮮の反発を招くビラ散布を禁じ、違反した場合に3年以下の懲役などを科す改正南北関係発展法を施行したことに対し、「人類最悪の世襲独裁者、金正恩の味方になり、北の人民の自由と解放を目指して闘争する脱北者を厳しく弾圧している」と批判し、「3年ではなく30年の懲役刑、たとえ、絞首台に立つことになろうとも、ぼろをまとい、ひもじい思いをしている北の2,000万の同胞に事実と真実を伝えていく」と同団体の朴相学代表は語った。これに対し韓国統一部は、改正南北関係発展法は「南北軍事境界線の近くで暮らす国民の安全を図るための法律であり」、違反があれば法の趣旨に則り対処していくと表明した。

一方、北朝鮮の金正恩国務委員長(朝鮮労働党総書記)の妹、金与正党副部長は5月2日に談話を出し、韓国の脱北者団体が北朝鮮の体制を批判するビラを北朝鮮に向けて飛ばしたことに反発し、韓国政府が責任を取ることになると警告した。

金与正は談話で「我々もこのまま見過ごすわけにはいかない」とし「南側で起きているゴミどものうごめきを我が国家に対する深刻な挑発とみなし、それに相応する行動を検討する」と明らかにした。韓国当局が脱北者の無分別な妄動を再び放置し、阻止しなかったとしたうえで「我々がいかなる決心と行動をしようとも、その結果に対する責任は、きたないゴミどもをきちんと統制しなかった南朝鮮当局が負うことになるだろう」と強調した。

また、「すでに我々はゴミのような者たちの妄動を黙認した南朝鮮当局の間違った対応が、南北関係に及ぼす結果について厳重に警告した」と述べ、ビラ散布に対しては「非常に不愉快な行為」「容認できない挑発」「脱北者どもの無分別な妄動」などと表現し、強い不満を表した。

金与正の談話は、脱北者団体によるビラ散布再開に対し、強力な対応措置に乗り出す可能性があることを示唆している。金与正は昨年6月、脱北者団体のビラ散布を非難し、南北共同連絡事務所の撤去と韓国側に対する武力行使を示唆する談話を発表。その4日後、開城の南北共同連絡事務所が爆破され、南北関係は冷え込んだ。北朝鮮は2014年10月に脱北者団体がビラを括りつけて飛ばした風船に向けて、十数回発砲したことがあった。

北朝鮮の金正恩政権は、なぜ、韓国の脱北者団体が飛ばしてよこすビラを恐れるのか。金与正が韓国からのビラの飛来を嫌い、怒っているのはなぜか。

これについて一部には「金与正や李雪主のポルノ合成写真に激怒したから」と説明しているが、事はそのように簡単なことではない。韓国から飛来するビラは、金正恩政権を揺るがしかねないほどの威力を持っており、まさに「空飛ぶ紙爆弾」である。その証左に北朝鮮は昨年12月4日の最高人民会議常任委員会の総会で「反動的思想・文化排撃法」を採択した。その27条には「南朝鮮(韓国)の映画、録画物、編集物、図書、歌、図画、歌、写真などを直接見たり聞いたり保管した者は、5年以上15年以下の労働強化刑(懲役刑)を宣告され、禁止コンテンツを流布させた者は、無期労働教化刑(無期懲役刑)や死刑など最高刑に処す」とある。

私は10年以上も前から韓国から北朝鮮に、北朝鮮から韓国に飛ばす「空飛ぶ紙爆弾」のビラの存在に注目し、現在3,000枚(種)のビラを収集し分析している。

北朝鮮から飛んでくるビラは韓国側に与える影響は少ないが、反対に韓国から北朝鮮側に飛んで行くビラは、金王朝を崩壊させるほどの威力を持っている。北朝鮮としては断固として飛来を阻止し、人民がビラに接することを阻止しなければならないのである。

この件については次号でも説明する。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

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