アメリカで不法移民を追い返すために利用されている、「タイトル42」という公衆衛生法の条項をご存知でしょうか。昨年、大統領職にあったトランプ氏が突如導入した際には各方面から「非人道的」と批判を浴びたのですが、人道主義を掲げるバイデン氏が政権を取った今も変わらず運用が続けられています。その理由はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、バイデン大統領がタイトル42の廃止に踏み切れないウラ事情をリークしています。

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タイトル42が廃止される時

「タイトル42」といってピンとこない人が多いでしょう。

これからますます米国で論争されるであろう言葉です。日本で報道されるかどうかは分かりませんが…。

このメルマガ6月20日号でも米国テキサス州知事が、トランプの壁を完成させると発表した事を伝えました。急増する不法移民への対策を政府がしてくれないので、州が独自にやると宣言したのです。壁は物理的な障壁ですが、タイトル42は法制面からの不法移民の流入を防ぐやや強引なものです。

7月3日英誌エコノミストがこのタイトル42について大きく取り上げています。

タイトル42、国境の混乱

 

国境を封鎖したトランプ時代の公衆衛生法上の命令がまもなく解除されるかもしれない

説明しましょう。

タイトル42は、77年前に制定された公衆衛生法の条項です。

伝染病を持つ可能性のある国の人のアメリカ入国を阻止することができるというものです。相当に古い法律なのですが、この法律を理由にトランプは2020年3月から不法移民を追い返すように指示していたのです。

以前は不法移民が国境で捕まっても、その場で難民申請することによって米国側に釈放される事があったのです(キャッチアンドリリース制度)。

彼らが難民申請の審査を受けに裁判所に出頭することはほぼなく、そのまま米国内に隠れてしまいます。このタイトル42は、その難民申請すら許さずにその場でコロナを理由に追い返してしまうのです。トランプらしい強引な手法です。

実際、2020年3月から今年の5月までに、タイトル42に基づいて国境警備隊が行った追放は84万5,000件にものぼります。

移民擁護団体や人権団体は「タイトル42は違法であり、非人道的であり、公衆衛生によって正当化されるものではない」と非難しています。「バイデン政権が就任初日にタイトル42を廃止することを期待していた」とも語っています。

しかしながら、バイデンはタイトル42を廃止していません。

なぜでしょう?

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バイデン自身がタイトル42を廃止した途端に、現在でも最高レベルの不法移民の数がさらに急増する事を心配しているのです。

「とにかく米国に行ってしまえ。捕まっても追い返されない。難民申請すればよい」と世界中から更に不法移民が集まる可能性は大きいでしょう。

そうなるのを恐れてバイデンはタイトル42を続けているのです。移民政策研究所のアンドリュー・シリ氏は、「タイトル42は、長期的に国境での移民管理をどうするかを考えるための時間稼ぎとして有効な一時しのぎでした。時間は稼げましたが、まだ答えは出ていません」と語っています。

しかしその時間はもうすぐなくなります。コロナが終息しつつある米国ではこの理由を使い続ける事に無理がありますし、人権団体からの訴訟も受けているからです。

バイデンは不法移民にどう対応するかを明確にしなければならないのです。公約どおり寛大な政策をとれば、さらに膨大な数の不法移民が押し寄せるかもしれません。厳しい政策をとれば、民主党から公約違反と責められます。どっちも大変な事です。

こういった状況、なぜか日本で報道される事がないです。これを説明せずに、米国人が政治を見る心象風景を理解することなど不可能なんですけどね。

ps

日本ではキャッチアンドリリースやタイトル42の是非といった真っ当な政策の論点が報道されていません。「Qアノンの陰謀論に騙され続ける米国人」「トランプ、最後の悪あがき」といった報道ばかりです。確かに面白いですけどね。

(メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 7月4日号より一部抜粋)

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image by: Grossinger / Shutterstock.com

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