昨年11月におこなわれた米大統領選挙戦では、候補者であるトランプ氏とバイデン氏との間で連日激しい論戦が繰り広げられていましたが、双方が発表するマニフェストの中で最も注目を集めていたものの一つが「対中国」政策です。当時、バイデン氏は中国への態度がトランプ氏よりも「弱腰」になると見られていましたが、いざフタを開けてみると、対中国のスタンスは「トランプ以上」と言える厳しいものでした。世界の問題を専門とし、外務省や国連機関などでも経験があるアッズーリ氏は、バイデン政権はトランプ時代以上に対中国への態度が厳しくなると、施政方針演説や4カ国首脳レベル会合などを例に指摘し、今後は米国が第三諸国をも巻き込んで中国を牽制していくことになるだろうと予測しています。

中国にとってトランプよりバイデンの方が「荷が重い」理由

バイデン政権が発足して半年が過ぎた。この半年間を振り返ると、対中国でバイデン政権はトランプ時代の姿勢をそのまま継承している。去年秋、米国大統領選挙でバイデンの勝利が確実視された際、一部の識者の中には「バイデンになれば対中国で弱腰になる」との見方もあったが、いざ蓋を開けてみれば正反対だった。

確かに、バイデンは大統領選の選挙戦始めからトランプを強く非難し、トランプのアメリカ第一主義を否定してきた。そして、大統領就任後から、パリ協定に復帰する大統領令に指名し、国連人権理事会やイラン核合意などへの復帰に舵を切り、脱トランプ路線、国際協調主義を加速化させた。

また、バイデンはトランプ政権で優先順位が低かった世界の環境問題や人権問題を重視する姿勢を鮮明にし、同政権で冷え込んだ欧州との関係改善に乗り出した。こうみると、バイデンとトランプは価値観やイデオロギーが180度違うように誰もが思うであろう。

対中国への厳しいスタンスはバイデンも堅持

だが、実際はそうではない。中国の政治経済的な影響力が高まるなか、近年の米国政治の中では、共和党や民主党を問わず超党派的な立場で中国への強い懸念が示されるように、バイデンも対中国では厳しいスタンスを堅持している。これはトランプだろうがバイデンだろうが変わらない。

仮に、対中国で両者が正反対ならば、バイデンはトランプ時代の米中貿易摩擦を非難し、トランプ政権が連発した対中経済制裁を懲罰的だとして解除に乗り出していたことだろう。現在のところ、バイデンはトランプ本人を批判しているが、“中国への制裁を強化したトランプ”は批判していないのだ。要は、そこには両者の一致がある。

それは、今年2月の就任後初となる施政方針演説からも明らかだ。バイデンは同演説で、アメリカ第一主義から国際協調路線へ転換すると表明し、日本やオーストラリアなどの同盟国を最も素晴らしい財産と呼ぶ一方、中国やロシアといった台頭する権威主義に対しては断固たる姿勢で対処する方針を明らかにした。特に、中国を最大の競争相手と述べ、中国の経済分野での不当行為と対決し、人権侵害、知的財産搾取など攻撃的で強圧的な行動に対抗していくと表明した。

トランプは米中二国間、バイデンは第三諸国をも巻き込む

しかし、中国を非難するトランプと同じ価値観を持つバイデンは、対抗手法ではトランプと大きく異なる。欧州との関係が冷え込んだトランプは、基本的には独自で中国に対抗してきた。中国との対決姿勢を鮮明にしたトランプは、米国単独で輸出入制限や関税引き上げなどの制裁を連発してきたが、これは二国間内での対立と言えよう。しかし、バイデンは二国間での対立ではなく、第三諸国を巻き込んだ集団安全保障的なスタンスを重視する。

具体的には、バイデンは日本やオーストラリア、英国やフランスなどの友好国や同盟国との連携を重視し、多国間で中国にプレッシャーを掛けていこうとする。バイデンが就任直後から欧州との関係改善に動き出した背景には、多国間中国包囲網を作り出したい思惑もあったはずだ。

そして、この動きは去年初め以降の新型コロナウイルスの感染拡大、香港への非民主化圧力、印中国境での衝突などによって加速化している。中国は依然としてコロナ起源の真相解明で十分な協力姿勢を示していないが、そういった姿勢を堅持する中国に対して、コロナによって多大な被害を被った米国や英国、フランスやオーストラリアなどの対中不信が非常に高まった。

また、人権問題を重視するバイデン政権になって以降は、香港やウイグル人権問題が大きな論争となり、対中国での関係当事国間の結束がいっそう強くなっている。

バイデンもそれを狙っている。バイデンは今年3月に日米豪印の首脳レベル会合“クアッド”をオンラインで主催し、4カ国が結束して中国に対抗する姿勢を示した。バイデン政権下のブリンケン国務長官やオースティン国防長官は政権発足後初の訪問先として日本を訪れ、2プラス2の外務防衛会談で中国を強くけん制した。

また、両長官は韓国でも2プラス2の外務防衛会談を行い、オースティン国防長官はその後インドも訪れ、安全保障上の関係を強化していくことで一致した。今年秋には日米豪印の首脳レベルの会合が再び実施される予定となっている。

トランプ時代のようにはいかぬ。バイデンを警戒する中国

こういったバイデンの動きに対して、中国は警戒感を露にしている。トランプ時代の4年間、中国は米国との貿易戦争を繰り広げてきたが、トランプがある意味で孤立していたことで、中国は欧州との経済関係強化、また中小国への影響力拡大を進めることができたと言える。

しかし、バイデンの対抗手法は第三諸国との関係を維持したい中国からすると厄介なもので、中国としては孤立を妨げるため、自らの陣営固めに注視しなければならない。コロナ禍でワクチン外交を積極的に展開する背景にもそれがあり、中国にとってはトランプよりバイデンの方が扱いにくく、難しい米中対立と言えるだろう。

image by:BiksuTong / Shutterstock.com

MAG2 NEWS