一方的と言っても過言ではない8月末の米軍の完全撤退に、まさに大混乱となったアフガニスタン。国内外から大きな批判を浴びながらも、なぜバイデン大統領は性急と思わざるを得ないタイミングで軍を引いたのでしょうか。その意図を分析するのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回の撤退劇で明らかになった「バイデン流アメリカファースト」を解説するとともに、今後の米国外交の行方を予測しています。

アフガン撤退で現れたバイデン流のアメリカファースト

8月末、最後の米軍機がアフガニスタンの首都カブールから飛び立ち、9.11から20年続く米国の対テロ戦争は終結することになった。バイデン大統領は8月31日、米ホワイトハウスで国民向けに演説し、アフガニスタンからの米軍撤退を並外れた成功と位置づけ、今後は中国との競争に対応する必要性を強調した。

バイデン大統領が成功と位置付けたことに関し、内外から多くの非難の声が出ている。米軍は撤退したものの依然として一部の米国人はアフガニスタンに残っており、先月にはイスラム国系武装勢力がカブール空港付近で自爆テロを行い、10人以上の米兵が犠牲となった。また、人道的側面からは、タリバンが実権を奪還したことで女性の人権が脅かされるとの懸念が広がり、人権を重視するバイデン大統領の今回の決断はダブルスタンダードだとの声も聞かれる。

確かに、バイデン大統領が4月に米軍の完全撤退を表明して以降、反政府勢力だったタリバンは士気を高め、夏以降は短いスパンで一気にカブールまでを掌握したことから、タイミングという中では問題があったと言えるだろう。

失った90万人の命と8兆ドルのカネ

しかし、「次世代の米国人をアフガニスタンには送らない」、「アフガニスタンの国家建設はアフガニスタン国民の権利と責任である」、「米軍撤収はもっと早く実施されるべきだった」などと米軍の完全撤退を強調するバイデン大統領の意見には多くの米国民からの賛同があったことも事実だ(タリバンの実権奪還で支持率は下がってはいるが)。米ブラウン大の研究チームが9月に発表した調査によると、20年に及んだ米国の対テロ戦争の総費用は8兆ドル(アフガニスタン・パキスタンでの費用が2.3兆ドル、イラクやシリアでの費用が2.1兆ドル)に上り、戦争によって亡くなった人は米兵約7,000人を含み90万人あまりになったという。莫大なカネと人を注ぎ込んだにも関わらず、国連の報告によるとアフガニスタン国内にはアルカイダのメンバー数百人が依然としており、中東やアフリカにはアルカイダを支持する武装勢力が活発に活動している。

こういう現実に照らせば、費用対効果で考えた場合、米国の対テロ戦争は負担ばかりが前歩きし、効果(成果)というものは殆どないように思われる。9.11直後、当時のブッシュ大統領はアルカイダを根絶するためにアフガニスタン戦争を始めたと公言したが、そうであれば2011年5月にアルカイダのオサマ・ビンラディン指導者を殺害した時点で完全撤退した方がその意義を強調できたことだろう。

トランプ・バイデン両氏に共通する姿勢

今回の米軍完全撤退によって、バイデン流のアメリカファーストは明らかになった。バイデン大統領はこれまでアメリカファーストを貫いてきたトランプ氏を痛烈に批判し、パリ協定や国連人権理事会への復帰など脱トランプ路線を示してきた。しかし、中国への対抗姿勢に加え今回の完全撤退によって、バイデン大統領にはバイデン流のアメリカファーストがあることが鮮明になった。要は、“米国の国益を第一に守る”、“米国はそれほど余裕はない”、“米国は世界の警察官ではもはやない”という姿勢は両氏とも共有する考えであり、1人で突き進むか、同盟国や友好国と協力するかという手段が違うだけと考えた方がいい。

では、今後バイデン大統領はテロの問題にどう取り組んでいくのか。当然ながら、対テロ戦争は終結させたとしても、米国が安全保障上懸念するイスラム過激派の脅威は残っている。今後タリバンが政権を運営していくことになるが、アフガニスタンにはアルカイダやそれと関係を持つイスラム過激派が存在し、世界各地にはイスラム国を支持する武装勢力が活動している。

20年前のように大規模な軍事力で突っ込んでいくようなことはないが、おそらくバイデン大統領はソマリアやイエメンで実行しているように、ドローンや無人爆撃機によるピンポイント攻撃をアフガニスタンでも続けていくことが予想される。その際にはタリバンとの協力が欠かせなくなるが、地平線の見えない先から攻撃する「オーバー・ザ・ホライズン(Over the horizon)」戦略を重視していくことになるだろう。また、他国との協力を重視するバイデン大統領としては、アルカイダやイスラム国が活動する国々の政府との情報共有や軍事訓練などを強化し、テロの脅威に向き合っていくことになるだろう。

アフガン撤退から感じ取れるバイデン大統領の意図

バイデン大統領の外交安全保障政策において、中国が最大の課題であることに疑いの余地はなく、今後はインド太平洋への関与をいっそう深めることだろう。日米豪印で構成されるクアッド、また、英国やフランス、ドイツなど欧州のインド太平洋への接近が加速化した背景にもバイデン政権の誕生がある。今後はこれら自由や人権など同じ価値を有する国々とタッグを組み、中国に対抗していくことになる。今回のアフガン撤退は、そういうバイデン流のアメリカファーストを中国に強く示す狙いもあったはずだ。今回の米軍完全撤退からは、中国を第一としながらもできる範囲で引き続きテロにも対抗していくという意図が感じられる。

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