日本時間の11月16日、オンライン形式で行われた米中首脳会談。序盤こそ友好的なムードに包まれた雰囲気となりましたが、両国間に横たわる深い溝は如何ともし難く、亀裂の深さを際立たせるだけの結果に終わってしまったようです。米中両大国が、ここまで対立姿勢を露わにする意図はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、二人の首脳が置かれている退くことが許されない状況を解説。さらに両国と深い関係性を持つ日本が米中対立の緊張緩和のため、今後果たすべき2つの役割を挙げています。

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歩み寄れない米中関係が分割する国際情勢

「アメリカのバイデン政権は、中国を止めることなどできない」

名前や所属は明かせませんが、11月16日にオンラインで米中首脳会談が行われた直後にこのような連絡が届きました。

元々はエスカレートする米中間の対立を受け、緊張緩和の機会を探るために行われた首脳間の協議で、開始直後は互いに旧友と呼び合って親交を再度温めるような和んだ雰囲気で、両国間に存在する緊張の緩和の必要性という“総論”では合意し、「競争はしつつも衝突は避ける」という方向性は共有できたようです。

しかし、議論が各論に入ると、両国間の主張の違いが鮮明化し、双方の“譲れない一線”をぶつけ合う形で、議論は平行線をたどり、米中対立の構図がなかなか解決できないことを露呈しました。

主に台湾情勢の緊迫化への懸念、新疆ウイグル自治区における人権問題、南シナ海問題、経済・貿易問題などが、米中間での対立軸ですが、それぞれが従来の主張を繰り返され、歩み寄りの姿勢が全く見られなかったとのことです。

例えば、台湾問題ですが、副国家主席時代から「中国および中国共産党にとって、不可分な利害」と呼び、国家主席就任後は、One China, One Asia構想の下、台湾の“平和的”統一を目指してきた習近平氏にとって、ここにアメリカのプレゼンスが日に日に増えている状況は看過できない問題と位置付けられています。

今回の協議でも「台湾への行き過ぎた介入は中国にとっては強硬かつ断固とした措置を取らざるを得ないレッドラインだ」と珍しく強い口調で主張し、台湾に対する高まるアメリカ政府による肩入れを非難し、牽制するという選択に出たようです。

平和的な統一が望ましいとしつつも、米中首脳間の意見として、明確に台湾への軍事力による侵攻と統一という選択肢を取ることも厭わないと発言するのは異例では済まされないと思われます。

今のところ、以前お話ししたように、軍事的な作戦を通じて台湾を急襲し、アメリカ他からの反撃に備えつつ、台湾占領及び統一のための人員や物資の動員を短期間で行う能力は“まだ”ないものと思われますが、グアムキラーや対潜水艦のミサイルはもとより、最近、繰り返し行われる空母攻撃群の連携演習や、空軍との連携、ミサイル部隊の強化といったように、中国および台湾に駆け付ける米軍への対抗・対応の準備及び能力、体制は徐々に整ってきているように見えます。

そして、最近、ペンタゴンが出した年次報告書でも、予想よりも早く中国の戦力の充実化が図られるとの予想も出ており、もし来年、習近平国家主席が3選目を迎えるようになれば、核心的利益と位置付ける台湾併合を実現するために、より強硬な手段に打って出る可能性は高まると考えられます。

それを察知してか、バイデン大統領は「米国は現状を変更する試みには加担しない」と発言し、米国政府は、台湾の独立そのものは支持しない旨、明確化し、不必要な衝突は避けようとの意思は見えます。

しかし、同時に「現状を変更したり、台湾海峡の平和と安定を損なうような一方的な取り組みには反対し、断固として対応する」とも述べ、中国の企みを牽制しています。

実際に台湾海峡有事が現実化するような事態になった場合、アメリカがどの程度、コミットするのかは不明ですが、AUKUSの結成により、中国の強硬姿勢に対する複次的な対応の意図を示し、中国に自制を促すものと考えます。そして、極めつけは、台湾に米軍の精鋭部隊を送り込んで、台湾軍をトレーニングしているという状況で、これは、直接的・間接的な対応をアメリカ軍が取ることを示唆していると思われ、中国に対する抑止力強化の戦略が見て取れます。

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これに関連して、経済安全保障面での米中対立も過熱しています。トランプ政権時から始まった米中関税紛争や、貿易慣行の是正をめぐる駆け引き、知的財産権をめぐる争いなど、アメリカ政府独自の制裁に加え、インド太平洋地域における経済安全保障の枠組みであるクアッドを通じて、対中包囲網の強化に乗り出しています。

これに対し、習近平国家主席と中国は、「国家安全保障の概念を盾に、中国企業を攻撃するのは不当」とアメリカおよびその同盟国の姿勢を激しく批判し、正面から対立する姿勢を鮮明化しました。

そして、「アメリカとその同盟国による対中経済措置は、中国経済のみならず、アジア全体、そして世界経済に悪影響を与えるものであり、アメリカが自身で掲げる自由貿易および自由主義経済の理念に反する内容で、まさしく、これぞアメリカの得意とするご都合主義の二枚舌対応だ」と糾弾し、正面から対立する道を選択した模様です。

これは、アジア全域、中東、アフリカにまで及ぶ中国経済圏の拡大に根付いた自信も背景にあるようで、世界各地で経済的にも対決するアメリカと欧州諸国へ挑戦状をたたきつけ、中国とロシアを中心とした国家資本主義体制の下、近隣国および反米国を巻き込んで、対欧米対立軸を形成する覚悟とも理解できます。

経済・貿易面での米中対立については、アメリカサイドも態度を硬化させていますし、中国側も再三のアメリカサイドからの働きかけを一蹴していることもあり、しばらく歩み寄りは難しそうです。

特に最近終わったCOP26に向けて、気候変動分野での協力を模索するために訪中したケリー気候変動問題特使にも、対立の緩和に乗り出そうとしたシャーマン国務副長官に対しても、「アメリカが覇権国の観点から、他国にいちいち指示し、異なる価値観を指弾する姿勢には断固として反対する」と述べています。

ここまでの対立を、中国サイドが選択する理由は、【オバマ時代に始まり、トランプ大統領によって実行に移され、バイデン大統領に継承された対中非難は、一方的なアメリカンバリューの押し付けに過ぎず、いつまでも言いなりになるとは思うな】という、長年にわたる欧米諸国によるアジアのコントロールに先頭に立って対抗するという“アジアのリーダー”としての自負と(周りが認めているかはまた別の話ですが)、度重なる【人権問題への非難】への対抗とも読めます。

新疆ウイグル自治区における強制収容“疑惑”、香港の民主主義の破壊、チベット自治区における宗教的自由のはく奪などに対する欧米からの非難と、それへの措置としての、欧米諸国による度重なる経済制裁に対して、90年代ぐらいまでは屈するしかなかった中国指導部の苦い記憶が、世界第1位または2位にまで高まった経済力を背景に、中国に反動的に強硬姿勢を取らせていると考えられます。

外交的には【新疆ウイグル自治区、チベット、そして香港の問題は、100%中国の内政問題である】とし、【人権問題を理由にした中国非難を許さない】との姿勢を貫き、経済面でも台湾問題でも対立が鮮明化しましたが、そもそもどうして両国ともレッドラインを提示するほど、対立姿勢を表面化させるのでしょうか?

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それは、両国内におけるプレッシャーの強さが背景にあります。米中両国内で、高まる緊張と経済的な悪影響を懸念し、対立姿勢に懸念を表明する勢力があるのは確かですが、大多数は【今、ここで退いてはならぬ】という方向一致し、互いのバリューに相容れないものに対して徹底的に攻撃するべきという方向に傾いています。

アメリカにおける対中脅威論もそうですし、中国内におけるアメリカの帝国主義的な考えと異文化をコントロールしようとする姿勢への反発もそうですが、その背景にあるのは、バイデン大統領も、習近平国家主席も、米中対立を鮮明化させることで、国内政治における権力基盤の安定化を狙っており、ともに【相容れない価値観に負けない強いリーダー像】を打ち出そうとしています。

まずアメリカですが、バイデン大統領率いる民主党は、来年の議会中間選挙に向けた地方選挙で連敗し、コロナ禍からの経済復活も公約ほどには進んでおらず、反トランプの旗の下、違いを鮮明化させようと張り切った脱炭素に向けた国際的なリーダーシップも、議会からの反発を受けて、規模もトーンもしぼみ、EUの影に潜んでしまったとの非難に直面しているようです。

【アメリカ国民や企業を全体主義的な企てから守る】との決意を前面に打ち出して、中国と対立することで、何とか支持率の底上げを狙っているとされています。またBLM以降のアメリカ社会の分断は改善しておらず、コロナ禍で貧富の格差も拡大しており、国内情勢は悪化していると思われます。そのカバーアップに中国との対立・緊張が用いられています。

中国も同じようです。習近平国家主席については、3選目に向けた国内での支持固めが加速し、6中全会では“個人崇拝禁止”が撤廃され、権威固めがある程度落ち着いたと言われていますが、それでもコロナ対策、アメリカとの相克で経済成長を低下させたこと、収入増のエンジンと化していたIT企業への強硬な締め付けなど、習近平国家主席への非難も、共産党幹部から上がっており、まだ盤石の基盤が出来たとは言えないようです。

習近平氏が必死に排除を試みる胡錦濤前国家主席の息子であり、今では革命精神の担い手と目される胡海峰氏や、現在副首相で、次の首相候補とされる胡春華氏の動向も非常に注目されており、習近平国家主席が3期目を確実にし、かつ予てより希望していた通りに党主席の立場も手に入れることができるか否かも、これから来年の全人代までにどれくらいの功績を残し、世界のリーダーとしての地位を築けるかにかかっていると言われています。

ゆえに、両首脳とも、緊張緩和を目指すと言いつつも、現時点では、国内に対して強いリーダー像をアピールする必要性から、容易に譲歩することはできないのが実情でしょう。

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そのような中で、気候変動問題やエネルギー問題といった最低限協力できそうなエリアで協議が進んだのは、もしかしたら評価できるかもしれません。実効性は、いつもながら分かりませんが。

今後、核問題や安全保障、経済・貿易問題などで実務者間での協議の場が設置されることが決まりましたが、もし、気候変動問題や、通商問題、軍縮などで、互いに誠実に交渉できるような場になれば、両国間の偶発的な衝突のリスクを軽減できるかもしれません。

特に、軍縮や核不拡散の問題は、両国にとって頭の痛い(そして日本にとっても頭痛の種である)北朝鮮の核兵器・ミサイル開発問題に対応するためにも相互に利益があると思われ、また連携が比較的に可能なエリアだと考えられます。

そのような状況下で、アメリカとの同盟関係を外交の基軸とし、アメリカを唯一の同盟国としつつ、中国とも経済・安全保障上のチャンネルを持つ日本は、どのような役割を果たすべきでしょうか。

1つは、アメリカとの同盟関係を堅持しつつ、中国との対話を進め、米中間の調整役としての立ち位置でしょう。

日本経済を見てみても、アメリカも重要なパートナーですが、中国との通商抜きではすでに成り立たない構造になっており、レアメタルなども中国に依存することから、中国との友好な関係維持は必要な条件となります。

歴史問題や尖閣諸島問題など、対立点は存在しますが、現時点では日中間はしっかりとコミュニケーションは取れていると思われますので、それを維持・強化して、アメリカと中国を繋ぐ役割を果たすべきでしょう。

そうすることで、米中間の直接的な緊張がぎりぎりまで高まった場合でも、まだ最後の望みとして、仲介の任を負うことが出来る立ち位置を作ることが出来ます。

2つ目は、アメリカやアジア諸国と連携し、中国が建設的な政策決定を行うように促す環境づくりの核としての役割です。

中国が危機感を抱く台湾のTSMCの工場誘致は、中国政府からすると「日本もアメリカと同じく、台湾に舵を切り、中国に圧力をかける」と取りかねないぎりぎりの線と思われますが、「これはあくまでも経済的な理由であり、安定的な半導体の供給確保のために、生産体制の強化を支援するに過ぎず、政治的な意図はない」といったメッセージを、中国に発しておく必要があるでしょう。

また、中国への対抗という色をできるだけ薄めつつ、東南アジア諸国との協力を深め、共に栄えるアジアを構築するために協力し、そのために中国とも協力するという姿勢を打ち出すことも有効だと考えます。

米中対立の緊張緩和がなかなか進まない中、偶発的な衝突から、だれも望まない米中戦争に発展することがないように、国際的な、そして地域における協調を高める必要があるでしょう。

対中包囲網で、直接的にアジアに関係がないはずの欧州各国がまた出しゃばってきている傾向には、若干の違和感と懸念を抱きますが、伸び行く中国の発展を、アジア地域全体で享受し、共有できるような体制づくりを志向する方向に進むことを個人的には望みます。そして、その軸として日本が官民ともに活躍してくれれば…。私はそう願ってやみません。

皆さんはどうお考えになるでしょうか?

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image by: The White House公式Facebook

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