10月中旬から下旬にかけ、日本海側から津軽海峡を抜け太平洋を南下し、大隅海峡を通過し南シナ海へと堂々航海してみせた中露海軍艦隊。今このタイミングで中国とロシアがかような動きを見せた裏には、どのような事情があるのでしょうか。これまでも「中国は尖閣諸島を4日で落とす。米軍事専門家が警告する衝撃シナリオ」等の記事で緊張高まる世界情勢を分析してきた、外務省や国連機関とも繋がりを持ち国際政治を熟知するアッズーリ氏は、今回の「日本列島一周」を巡る中露両国の思惑を詳細に解説。さらに日本に対しては、従来の南西方面だけでなく北東方面防衛の強化を訴えています。

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日本は北東方面の防衛力強化を

10月18日、北海道奥尻島南西およそ110キロの日本海で、中国海軍の最新鋭のレンハイ級ミサイル駆逐艦など5隻とロシア海軍の駆逐艦など5隻の計10隻が航行し、津軽海峡を通過して太平洋に向かったことが確認された。これまでも日本近海では中露の合同訓練などは行われてきたが、両国海軍が同時に津軽海峡を通過するのは今回が初めてだ。

その後、この10隻は千葉県の犬吠埼沖、伊豆諸島沖、高知県の足摺岬、そして鹿児島県の大隅海峡を航行して東シナ海に至ったが、ほぼ日本列島を一周したことになる。中露海軍は10月14日から4日間の日程で極東ウラジオストク沖の日本海で合同軍事演習を実施するなど、明らかに日本への牽制を強めている。中国とロシアはこの件について明確な意思を表明していない。しかし、日本だけでなく米国を強く牽制する意図があったことは間違いない。このタイミングがそれを証明する。

なぜ中露はこのタイミングで?

まず、我々が考えるべきは、中国が西太平洋での覇権を狙い、ロシアが北太平洋の沿岸国家であるという事実だ。要は両国とも太平洋での力の保持、拡大したい意思があり、昨今のインド“太平洋”を巡る安全保障情勢の行方を強く懸念しているのだ。バイデン政権になって以降、この地域一帯では米国と日本、インドとオーストラリアを軸とするクアッド(QUAD)の結束がいっそう強まっている。クアッドはソフトアライアンス(soft alliance)とも呼ばれ、扱う課題は軍事・安全保障だけでなく、人権やテロ、経済や気候変動など多岐に渡るが、中国はそれを反中国包囲網の一環と捉え、クアッドを強く牽制している。そして、最近では米国と英国、オーストラリアによる新たな安全保障協力オーカス(AUKUS)が誕生したが、これはクアッドと違い安全保障に特化した協力枠組みであるのでハードアライアンス(hard alliance)とも呼ばれる。安全保障に特化したものであるので、当然ながら中国やロシアは強く懸念を抱いている。

また、中国やロシアにとって、今年はさらなる懸念材料が浮上している。インド太平洋地域から遠く離れた英国やフランス、ドイツなど欧州主要国が同地域への関与を強めているのだ。英国やフランス、ドイツなどと中国との関係は、新型コロナの感染拡大や真相解明、新疆ウイグルの人権問題や香港国家安全維持法の施行などを巡って悪化し、経済的に結びついていた中国との関係の見直しを図っている。軍事的には、英国の空母打撃群、フランスやドイツ、カナダの艦隊が台湾海峡を含むインド太平洋地域にプレゼンスを示すだけでなく、フランスやオーストラリアなどの元閣僚級レベルが相次いで台湾を訪問しては蔡英文政権との結束強化を表明するなど、欧州やカナダの関与・接近も加速化している。11月に入っても、EUの議員代表団が台湾を訪れ、関係を結束することで一致した。

中露海軍が合同で津軽海峡を航行した背景には、上述のような一連の国際政治を巡る動きがある。そして、主要国間の対立構図を巡る動きは今後と激しくなることが予想されることから、今回のような中露の動きは日々繰り返されることだろう。

日本は米中露対立の最前線になるか?

今後、日本は米中露の軍事対立の最前線になる可能性が高い。多くのメディア報道を見ても分かるとおり、日本を巡る軍事・安全保障は離島防衛や尖閣諸島、台湾や南シナ海などその大半が南西諸島以南だ。よって、我々の注目も必然的にそこに集まってしまうが、今後も北東方面も強く意識する必要がある。

その理由は、中国の日本海への進出、もっといえば北極シーレーン開拓にある。習政権は近年、北極白書を公刊するなど第3の一帯一路とも呼ばれる“氷上のシルクロード”の建設に力を注いでいる。北極海には世界で未発見の石油の13パーセント、天然ガスの30パーセントが海底に眠っているとされ、資源を巡る国家間競争が激しくなる中、北極海は主要国の大きな注目を集めている。しかし、中国と北極海を結ぶルートは、東シナ海から対馬海峡、宗谷海峡からオホーツク海、津軽海峡から太平洋、そしてベーリング海を通ることになり、日本海は中国にとっての重要航路となる。そういった大きな経済的可能性が秘めているとなれば、習政権としても軍事的なプレゼンスを示すことで北極経済シーレーンを強化することは想像に難くない。近年、温暖化により北極の海氷面積が最小を度々記録するなど、その下に眠る資源へのアクセスは現実味を帯びてきている。中国にとって、日本海から以北の海域は重要性が増してきている。

ロシアも中国の北極進出には懸念を抱いていないわけではないが、まずは太平洋が米国や欧州などに有利な環境にならないよう、中国との協力などあらゆる政策を取ってくることだろう。日本周辺を巡る一帯は、今後米中露の安全保障対立の最前線と化す可能性がある。日本は南西方面だけでなく、北東方面にも力を注ぐ必要がある。

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