欧米諸国に対して一歩たりとも退くことなく、周辺国にも圧倒的な力を誇示し威圧的な態度で接するなど、覇権奪取の野望を隠すことすらしない中国。そんな大国を率いる習近平国家主席が描く「パクス・シニカ」、すなわち中国の主導で東アジアを繁栄に導くという絵図の実現は、「風前の灯」状態となってしまったようです。今回、「世界の主要国のみならず、中小国からも反中国の声が上がり始めている」とするのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は記事中、チェコやエストニアといった小国が台湾の蔡英文政権との距離を縮めているという事実等を取り上げつつ、「パクス・シニカ」の現実味はもはや無きに等しいと指摘しています。

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世界から高まる反中国の声

以前、国際政治の世界では大国化する中国について、パクス・シニカという言葉が流行った。パクス・シニカとは、中国の覇権によって東アジアに平和な状態が訪れること、東アジア地域の平和・繁栄を中国が主導することを意味する。ローマ帝国の覇権による平和を意味する“パクス・ロマーナ”、超大国米国の覇権による平和を意味する“パックス・アメリカーナ”にちなんでそう呼んだわけだが、パクス・シニカはパクス・ロマーナやパックス・アメリカーナのように世界全体をカバーするものではなく、東アジアに限定される概念だ。

では、もっというとパクス・シニカとは具体的にどこを指すのか。今日の国際情勢に照らすと、習政権が核心的利益と位置づける新疆ウイグル自治区とチベット自治区、台湾や香港、そして尖閣諸島、海洋では東シナ海と南シナ海、もっといえば伊豆半島から小笠原諸島、グアムへと通じる第2列島戦内の西太平洋だろう。そのエリア内では中国が影響力を確保し、中国主導の勢力圏を強化しようというのが、正に習政権が描くパクス・シニカだ。だが、そのパクス・シニカへの道は大きな壁に直面しようとしている。

新型コロナウイルスの感染拡大から2年、新居ウイグル自治区での人権侵害、香港国家安全維持法の施行と民主派への圧力、台湾への軍事的威嚇、中印国境での断続的衝突、オーストラリアへの不当な経済制裁、新型コロナウイルスの真相解明での不誠実な対応など、世界各国の習政権へのイメージは悪化の一途を辿っている。

それによって、米中対立は米国側に多くの国が参加する形で拡大している。今年、英国やフランス、ドイツやオランダ、カナダなどはインド太平洋地域に空母打撃群やフリゲート艦などを相次いで派遣し、長期的に軍事的な関与を続ける姿勢を示している。特に、英国はインド洋のディエゴガルシア島など、フランスは南太平洋のニューカレドニアなど、それぞれインド太平洋地域に海外領土を持っているので、中国の海洋覇権には強い懸念を抱くようになっている。

中小国でも強まる反中国の動き

また、バイデン政権は日本とインド、オーストラリアと自由で開かれたインド太平洋の実現のため中心的存在となるクアッドを強化し、英国とオーストラリアとの新たな安全保障協力オーカスを創設するなど、対中国を意識した多国間協力を進めている。

さらに、秋になり、EUやフランス、オーストラリアの閣僚級が相次いで台湾を訪問し、蔡英文氏と結束を強めるなど、習政権が描くパクス・シニカはその足下が揺らぐような出来事が続いている。蔡英文総統は11月4日、訪台中のヨーロッパ議会の公式代表団と会談し、中国などを発信源とする偽の情報やサイバー攻撃に対抗するため、協力関係を深めていくことで一致した。

欧米諸国は絶対にパクス・シニカは実現させないと強い意志を持っているように映る。だが、そのパクス・シニカどころか、最近は世界の主要国だけでなく中小国からも反中国の動きが強まっている。

たとえば、チェコやスロバキア、エストニアの中東欧諸国は台湾への接近を図っている。台湾の経済視察団は10月20日から10日間の日程で上記3カ国を訪問し、宇宙産業、触媒技術、精密工学、製品・製法開発、研究開発、投資、グリーン経済、半導体部品製造、サイバーセキュリティーなど多岐に渡る分野で関係を強化していくことが表明された。特に、台湾は半導体産業で世界的な広いシェアを持っているので、チェコやスロバキア、エストニアなどの中東欧諸国は半導体で台湾に大きな期待を抱くようになっている。

チェコやスロバキア、エストニアはもともと一帯一路による支援を受ける予定だったが、期待していた中国からの大型投資が実現せず、また、欧米主要国のようにコロナ禍で中国への不信感を強め、中国離れを加速化させている。エストニアは台湾との間で政府の代表機関を相互に設置する考えを明らかにし、中国製スマートフォンに検閲機能が内蔵されているとして国民に対して不買、処分を呼び掛けている。

チェコも大統領に次ぐ事実上のナンバー2であるビストルチル上院議長が台湾を訪問し、台湾の国会にあたる立法員で演説し、蔡英文氏と会談して結束を固めるなどしている。

おそらく、中東欧諸国だけでなく、アジアやアフリカ、中南米など各地にある中小国からも反中国の動きが今後表面化してくる可能性が高い。中国が長年進める一帯一路においても、パキスタンでは地元の武装勢力が中国権益を狙ったテロを繰り返している。

また、一帯一路の経済プロジェクトが現地の労働や生態系などの環境を破壊し、地元民からは中国への反発や抵抗の声も多く聞かれるようになっている。習政権が描くパクス・シニカはさらに現実味がなくなってきている。

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