政府が交代するたびに前政権が推進した政策を排除したり、覆すことが多い韓国ですが、尹錫悦政権では少々風向きが違うようです。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では韓国在住歴30年を超える日本人著者が、統一部長官候補となっている権寧世氏の発言をまとめ、これからの南北関係についての動き方について語っています。

韓国では企業家になるな、政治家になれ

本メルマガ#417号で権寧世(クォン・ヨンセ)氏について簡単に触れたことがある。「大統領職引継ぎ委員会」の副委員長を務め、現在は統一部長官候補となっているため5月12日には国会で聴聞会ターゲット(当事者)となった。

尹錫悦(ユン・ソンヨル)大統領とは大学時代からの友達で非常に仲のよいことで知られている。権寧世氏の最近の話題について朝鮮日報をベースにご紹介したい。

今頃になると聞こえがちなAB文。これは「Anything But」の略で、簡単に言えば「▲だけ除いて」の意味であるが、普通は政府が交代する度に前政権が推進してきた政策は無条件に排除したり覆したりするという意味で使われる。

実際、尹錫悦政府の対北朝鮮政策でも「AB文」を予想した。尹大統領は文在寅政府がすべての外交・安保政策の中心を北朝鮮だけに置くことによる問題点を候補時代から辛らつに指摘してきたからだ。

文政府は周知のように対米関係や対中関係はもとより、他の国際関係と関連した事案を判断する際も北朝鮮との関係改善や対話ムードづくりに役立つかどうかを最優先的基準で判断してきた。

これによる歪曲現象が深刻に現れたのも事実だ。

しかし、12日の人事聴聞会で尹政府の南北関係の責任を負う権寧世・統一部長官候補が出した答弁は「AB文」ではなかった(尹錫悦大統領は13日、権寧世統一部長官を任命した。ただし聴聞会の内容を扱った本記事では聴聞会当時の肩書きである「クォン候補者」と表記する)。

文在寅政府で行われた南北間合意物である2018年4.27板門店宣言、9.19平壌宣言などが新政府でも有効かどうかを尋ねると、権候補者はこのように答えた。

「ひとまず全体的に肯定的に評価し、その合意は新政府でも引き続き有効でしょう。しかし、問題は合意書を額面どおり履行することは容易ではない部分があり、制裁によって現実的に履行が不可能だったり、現在の南北関係上、国民世論上、到底受け入れられない部分においては履行に困難があると考えられます。」

クォン候補者はドナルド・トランプ前大統領行政府当時、朝米間の合意物である2018年6.12シンガポール声明に対しても「ジョー・バイデン米大統領も尊重すると言い、私たちも尊重するつもり」と話した。

「対北朝鮮政策は『リレー』で進まなければならない」と強調した彼は、このような発言もした。

「前任政府のすべてのこと(対北朝鮮政策)を抱えていくことはできないが、(歴代)大統領が対北朝鮮政策を樹立するのにはじめから『これはだめだ』と樹立した方は一人もいないのではないでしょうか。だから長所は長所どおり受け入れ、不十分だった点は私たちが補完しながら進むことが必要です。私は個人的に文在寅政府の平和プロセスと朴槿恵政府の信頼プロセスを合わせれば一番いいと思います。なぜなら、信頼があってこそ平和が実現するのですから。」

この発言は捉え方によっては(クォン候補者の発言において)ポイントは既存合意の「不十分な点」や「現実的履行の不可能」といった部分に目が行く人もいるだろう。

ことばでは継承すると言っているが、実際にはこれを言い訳に継承しないという見方だ。権候補者が「今は制裁の時間」とし、尹政府の非核化原則を再び明確に確認したのも事実だ。

にもかかわらず、統一部長官候補者が全く異なる性向の前政権が成し遂げた対北朝鮮結果を尊重し、有効に続けるという大原則を明らかにしたことは意味が大きい。

事実、板門店宣言やシンガポール声明は非核化の側面から見れば、残念なことが多い合意だ。内容はもとより、文案の順序構成から分量まで、最も核心である北朝鮮の非核化が中心から押し出されているためだ。

だが、色々な欠点があるにもかかわらず、これを尊重し、これを公式合意と認定することは重要だ。

北朝鮮の最高指導者である金正恩北朝鮮国務委員長が直接非核化を約束して署名した、事実上唯一無二の歴史的記録であるためだ。

金正恩が合意当時、そして今後これを守ろうとする真正性があるのかという論議はあるとしても、これだけは否定できない事実だ。

もし権候補者をはじめとする尹政府の外交安保ライン関係者がこのような合意物を否定するところから始めたとすれば、むしろ北朝鮮が無分別な挑発をする口実や名分を与えたかもしれない。

「約束を破ったのは南朝鮮」と追い詰めるに違いない。

国内野党からも早くも尹政権の対北朝鮮アプローチが強硬一辺倒だとか、李明博政府の「非核・開放・3000」を繰り返すに過ぎないという批判が出ている中、権候補の「リレー」論は少なくともどのようにしていくのか、ひとまず見守ろうという期待感を持たせるのに十分だ。

ここで「非核・開放・3000構想」というのは李明博政府の2008年時点で、経済、教育、財政、インフラ、福祉などの包括的パッケージ支援を本格化し、10年内に北朝鮮を1人当り国民所得3,000ドルに達するよう支援するというもの。

政府内には北朝鮮問題を扱う省庁が多数あり、北朝鮮を眺める見方もすべて違う。外交部は非核化外交の相手に、国防部は主敵として、国情院は防諜の対象と見る。

このような多様な立場が牽制と均衡を作り出し、対北朝鮮政策が樹立されるのが正常だ。

実際、今のように北朝鮮が誰の言うことも聞かずに韓国を威嚇し、頑として高強度の挑発に向かっていく場合、最も苦しい省庁は北朝鮮を韓民族として一つの血筋をひく同族、共存しなければならない統一のパートナーと見る統一部だろう(北朝鮮は権候補者に対する聴聞会が行われていた同日午後にも、短距離弾道ミサイルの挑発を行った)。

しかし、これは同時に「強対強」対決局面でも、地道に北朝鮮との対話と和解を準備する砦は統一部にならなければならないという意味にもなる。

権候補者は長官になれば、真っ先に北朝鮮に「何の話でもいい、まずはしゃべろうじゃないかという提案をしたい」と述べた。

「北朝鮮核問題の平和的解決のために対話の扉を開いておく」と言及した尹大統領の就任演説に対しても「少し不満な点があるとするなら、統一部長官候補者としては『扉を開けておく』という部分は少し消極的過ぎて、もっと積極的に『対話を提案する』と出てくればもっと良かったのではないかと思う」とも述べた。

北朝鮮が対南核先制使用の脅しを目論んで核実験を準備する現時点で、一歩勇み足のようにも見える。

しかし彼の言葉通りそれが「統一部長官」候補者としてはぴったりの速度なのかもしれない。あくまでもバランス感覚の整った人物とみてよい。

今後の彼権寧世の動きにご注目いただければありがたい。意味ある言動をとってくれるものと期待する。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年5月18日号)

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