前政権の対中強硬政策を踏襲し、台湾海峡問題についても積極的な関与姿勢を見せるアメリカ政府。先日行われた日米首脳会談後の共同記者会見でも、バイデン大統領は台湾有事の際に軍事介入を行なうことを明言しましたが、そもそも米軍は中国人民解放軍を打ち負かすことが可能なのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、アメリカ国内の専門家の間では台湾危機における米軍の敗戦予測はほぼ常識となっているとし、彼らがそう判断する根拠を列挙。さらにこれらの「常識」が日本で報じられない理由を明かしています。

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そうは言っても米国は中国に勝てるのか?/バイデンの「台湾有事介入」宣言の裏側の現実

バイデン米大統領が5月23日、日米首脳会談後の会見で台湾防衛のために軍事的に関与する用意があるかと問われ、「ある。それがわれわれの決意だ」と答えた。いよいよキッシンジャー以来のこの問題についての「戦略的曖昧さ」を投げ捨てたのかとか、いや彼がこういうことを言って国務省や国防総省がやんわり否定するというパターンはこれで3回繰り返されていて驚くほどのことではないとか、ひとしきり取り沙汰されたが、これを巡る本当の問題は、仮に彼が台湾防衛のために中国と戦うことになったとして、果たして勝てる可能性はあるのか、ということである。

28日付「ニューヨーク・タイムズ」論説欄で米スタンフォード大学のフリーマン国際問題研究所のオリアナ・マストロ研究員は「バイデンは台湾を応援すると言うが、本当か?」と問いかけた。彼は、自分がこれまでに参加した10件以上の米中戦争のゲームや机上演習で、米軍は、中国軍を撃退することができずに、多大な損失を被りながら敗退したと指摘。だとすると、バイデン発言はたぶん中国の攻撃を抑止することを目的としたものなのだろうが、そうなるのであれば結構なことだと、かなり皮肉な調子で述べている。

海軍力の差は歴然

彼が指摘する台湾有事の実際における中米間の戦力格差は次の4点である。

第1に、20年前には中国の練度の低い陸軍とほとんど時代遅れの海空軍には勝ち目がなかった。しかし20年間におよぶ軍の近代化を通じて中国は今や世界最大の海軍を保有している。それに比べて米国が台湾の紛争に投入できる船舶は遥かに少ない。また中国のミサイル部隊は洋上の船舶に目標を定める能力を持っており、米国の戦力投入の主な手段である空母を壊滅させることができる。

第2に、米国は世界最先端のジェット戦闘機を保有しているが、それらが台湾海峡で無給油で作戦行動できる圏内には日本の2つの基地〔嘉手納と横田〕しかない。それに比べて中国は台北から500マイル以内に39の空軍基地を持つ。

第3に、中国の指導者が米国を巻き込んだ戦争を覚悟した時には、まずこの地域の米軍部隊に先制攻撃を仕掛ける以外に選択はない。その場合、日本にある主な米軍基地と空母がミサイル攻撃の対象となるだろうが、これに対しては米軍がいかに訓練と経験を積んでもほとんど役に立たない。

第4に、米軍は長い距離を超えて戦力を投入しなければならないので、それだけ中国の電子・サイバー戦争能力に対して脆弱にならざるを得ない。中国は米軍の輸送司令部のネットワークをサイバー攻撃により撹乱し、また衛星を打撃して通信、ナビ、目標設定、指令制御を妨害するだろう。それに対して中国側は、本拠地にあってより安全な光ファイバー回線のようなネットワークを活用できる……。

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米軍が負けるのは半ば常識

このような「米中戦わば米国に利あらず」との予測は、かなり行き渡っているもので、例えば米ペンタゴンに直結するシンクタンク「ランド・コーポレーション」が2015年9月に出した報告書「米中軍事スコアカード」では、台湾海峡危機の場合、中国の対米空軍基地の攻撃能力や対地戦闘能力が2017年にはやや優勢となり、南シナ海紛争の場合の中国の対基地攻撃と対地戦闘の能力は同年には拮抗すると分析していた(本誌2015年12月14日付No.815参照)。

この報告書では、例えば2017年の予測として、中国が108ないし274発の中距離ミサイルを沖縄の嘉手納米空軍基地に集中的に発射し、2本の滑走路にそれぞれ2個所、直径50メートルの穴を空けられた場合、米軍の戦闘機が飛べるようになるまでに16〜43日、大型の空中給油機が飛べるようになるには35〜90日もかかることが明示されていた。これを見て、ジョゼフ・ナイ元国防次官補は「もう沖縄と日本本土の米軍基地は要らない」とまで言った。

あるいは2018年には米議会事務局が作成した台湾危機についての分析では、中国軍のめざましい能力向上と米軍が抱える補給上の数限りない困難ゆえに、米中が台湾を巡って戦えば米国が「致命的な敗北を喫する」可能性があると結論していた。

こうした予測は、専門家の間ではすでにほぼ常識となっているが、日本のマスコミではほとんど語られることがなく、それは専ら米軍に頼って日本の安全を確保しようとする自民党政権の趣旨に合致しないからである。

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ウクライナ戦争から何を学ぶ?

付け加えれば、マストロ研究員は、バイデンがウクライナの教訓を台湾にも横滑り的に適用して、プーチンがあれほど世界から孤立して酷い目に遭っているのだからさすがの習近平も台湾に手を出すのをためらうだろうという印象を作り出したがっていることについて、「ウクライナと台湾は違う」と釘を刺している。

それは当たり前で、ロシアとウクライナは〔プーチンはその両国の切っても切れない因縁について多弁を費やしてはいるものの所詮は〕他国同士の関係であるのに対し、中国と台湾は「1つの中国」の中の国内問題であり、しかもそのことを1979年の国交正常化以来、米国の歴代政権は戦略的曖昧さを以て包装することで容認してきていて、大義名分の立ち方が天と地ほども違う。さらに、中国はロシアとは比較にならないほどの経済・軍事大国であり、貿易額の大きさや「経済制裁」への耐久力という点を考えても世界中が争いたくない相手である。

バイデンは、勝てもしない戦争を仕掛けて台湾を苦境に落とし込み、しかも口先だけで騒いでも実際にそれを助けに行くことができないという無様な姿を晒すことになりかねない。そういう無責任な行いは避けるべきだというのがマストロの提言である。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年5月30日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)

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