この秋に行われるとみられている中国共産党大会。日程がはっきりしない原因は、習近平国家主席の3選が盤石ではないことが影響しているといいます。中国経済の減速、ゼロコロナ政策の余波など、内政外交ともに思うように進まない習近平政権は今後どうなっていくのでしょうか。政治ジャーナリストの清水克彦さんが、習近平指導部の政策を検証しながら考察していきます。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール:
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。

中国共産党大会の時期でわかる、習近平の安泰度合い

国際社会の注目が依然としてウクライナ情勢に集まる中、今年の秋、超大国のアメリカと中国が、今後の国際情勢を左右する大きな政治イベントを迎える。

アメリカは、11月8日、下院の全435議席、上院は3分の1にあたる34議席が改選となる中間選挙。そして中国は、習近平総書記の3選がかかる第20回共産党大会(20大)を控えている。

アメリカの中間選挙は日程がはっきりしているのだが、現時点で中国共産党大会の日程について、中国国営メディアは「今年後半に開く」としか伝えていない。

香港紙の明報は、4月11日付の紙面で「11月開催の見通し」と伝えているが、仮にこれが事実であれば、これまで確実と見られてきた習近平総書記の3選は100%とは言い切れなくなる。

5年に1度の共産党大会は、中国共産党幹部の人事を決め、指導部の体制を固める重要な場である。権力闘争は付き物だ。

前回(2017年)の大会は10月に開催されている。今回も、習近平総書記の3選がほぼ確実であれば9月から10月、権力闘争が続いているなら11月になる可能性が高い。

11月は15日から16日まで、インドネシアのバリ島で、中国も参加するG20首脳会議が開かれ、政治日程は窮屈だ。それにもかかわらず11月開催となれば、習近平総書記の3選が盤石とは言い切れない、と見ることもできる。

景気の減速に歯止めがかからない中国

習近平指導部に揺らぎが生じかねない背景はいくつかある。1つは、習近平総書記の3選に、かつて共産党の重鎮だった朱鎔基元首相らから異論が出ている点だ。

不動産大手、IT企業などへの締め付けが主な理由で、習近平総書記の政策が中国経済の減速を招いているとの声は根強い。

恒大集団のデフォルト危機で知られるようになった不動産バブルの崩壊は日増しに深刻化し、住宅価格の下落が止まらない状態だ。この元凶が習近平指導部の政策にあるというわけだ。

事実、4月27日付の英国紙、フィナンシャルタイムズは、中国共産党幹部の間で不動産企業への締め付けを継続するかどうかで意見が対立している、と報じている。 

政治局常務委員の韓正(江沢民派)、政治局委員の胡春華(李克強派)と、政治局委員の劉鶴(習近平の側近)との間で対立があるというのである。単に政策に関する考え方の相違というよりは、共産党大会を見据えた権力闘争の感が強い。

もう1つは習近平指導部による「ゼロコロナ政策」の余波だ。

中国最大の経済都市、上海では、6月1日、およそ2か月ぶりに、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として導入された都市封鎖(ロックダウン)が解除され、市民の9割にあたる2250万人が自由に外出できるようになった。

とはいえ、上海をはじめ北京でも行われた「ゼロコロナ政策」で、個人消費などの経済活動は大きな打撃を受け、何より市民の間で度が過ぎた政策に対する不満が充満する事態を生じさせている。

中国の政変は「上海から起きる」

中国の歴史をひもとけば、政変は「上海発」のケースが多々ある。

筆者がまだ駆け出しの外信記者だった1989年、天安門事件の5か月後に総書記の座に就いたのは、上海交通大学を卒業し、上海でエンジニアとして働き、上海市の党委員会書記という経歴を重ねた江沢民であった。

習近平総書記の時代になってからも、2018年7月、「習総書記と中国共産党の独裁に反対する」などとして、29歳の女性が習近平総書記のポスターに墨汁をかけたのも上海である。

中国には、江沢民を中心とする「上海閥」、胡錦濤を中心とする「団派」(中国共産主義青年団出身者)、そして習近平主席を中心とする「太子党」(革命元老の子弟の「二世議員」)の3派閥が存在すると言われてきた。

中でも結束力が強いのが「上海閥」で、逆に一番まとまりが良くないとされるのが「太子党」である。

上海は商都であり、そこで暮らす知識人の多くは世界を見て暮らしている。日本にたとえれば、幕末の長州藩や土佐藩に近い。今回も、その不満や疑念が強権的な習近平指導部に向かえば、また「上海発」で風が吹く可能性もある。

習近平にとって悩ましいウクライナ情勢

北京冬季オリンピック開幕直前の2月4日、習近平総書記とロシアのプーチン大統領が北京で会談し、「中ロ蜜月」を国際社会にアピールして見せた。

プーチン大統領は、オリンピック期間中にウクライナに侵攻することは避け、習近平総書記もまた、国際社会の要請に対して、ロシアを批判したり積極的に仲介に動いたりという姿勢は見せていない。

ウクライナへ侵攻後に開催された北京パラリンピックは全く目立たないイベントになってしまったが、中国は現在もロシアとの連携を維持している。

ただ、習近平総書記にとって誤算だったのは、強大な軍事力を誇るロシアがウクライナの善戦を許していることだ。しかも、欧米諸国が手をたずさえ、ここまで大掛かりにウクライナへの軍事支援、ロシアへの経済制裁を実施することは想定外だったろう。

また、アメリカのバイデン大統領が、5月23日、岸田首相との会談で「台湾有事の際は軍事介入する」趣旨の発言をし、翌日のQuad(日米豪印4か国の枠組み)首脳会合で連携強化を打ち出したことについても、「インド太平洋地域に新たなNATOができた」と映ったのではないだろうか。

特に欧米の結束は中国にとって最も望まない事態である。

中国にとってロシアは、アメリカなど西側陣営に切り込んでいく先兵であり、欧米のロシアに対する対応を見て、台湾統一のシナリオを描く腹積もりだったはずだ。

それが、ロシアの疲弊と欧米諸国の結束を見せつけられ、習近平指導部の中でも、「ロシアを支援する派」と「ロシアから距離を置く派」に割れたため、現在はひとまず中間を進んでいるというのが筆者の見立てである。

しばらくは実質的にロシアを支援しながら、国際世論上はロシアとの一体化を避ける作戦を続けることになるのではないか。

いずれにしても、欧米が結束し、中ロと対立する構図になれば、中国の国際社会における生存空間は狭まり、影響力も厳しいものになる。軍事的な面だけでなく経済的にも持続的発展は難しくなる。

とはいえ、ここで中ロ関係を見直せば、習近平外交の否定につながり、3選に反対する声が高まりかねない。

習近平総書記からすれば、ロシアとウクライナ、どちらが勝利しようと、ロシアがこれ以上疲弊せず、しかもプーチン体制はそのまま続くことがベストなのだ。

南太平洋に活路を求めた中国

5月31日、アメリカのバイデン大統領はホワイトハウスでニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相と会談し、太平洋への影響力拡大を図る中国に対する強い懸念を表明した。

それもそのはず、王毅外相が5月26日からソロモン諸島やサモア、キリバスなど太平洋8ヶ国を歴訪したことは、日本やアメリカの懸念を強めることになった。

このうち、ソロモン諸島は中国と安全保障協定を結んでいる。キリバスなどとも交渉段階にある。太平洋諸国もすべてが親中国とは限らないが、経済支援の見返りに中国軍機が自由に離発着し中国軍の艦艇も寄港できるようになれば、太平洋におけるアメリカ軍の優位は危うくなる。

陸上自衛隊元陸将、渡部悦和氏は言う。
「この地域を中国に抑えられれば、台湾有事が生じた場合、アメリカ軍はグアムやハワイの基地からおいそれと台湾支援に行けなくなる」

中国は、先に述べた北京冬季オリンピック開会式にカザフスタンなど中央アジア5ヶ国の首脳を招待した。そして今度は太平洋の島しょ国である。

ウクライナ支援をめぐる欧米の結束、そして中国包囲網に対処すべく、着々と打つべき手は打っている

中国を見るポイントとは

これまで述べてきた中国共産党大会の時期がいつになるか、ロシアとウクライナに関してどのように立ち回るかに加え、台湾や尖閣諸島近海での中国海軍の演習がどのような内容で行われるかもポイントになる。

中国海軍は過去にリアルな戦争をした経験がない。

5月2日、空母「遼寧」が、沖縄本島と宮古島の間を通って太平洋に入り、石垣島の南方、台湾に近い海域にとどまり、300回を超える艦載機の離発着訓練を実施したのは、海軍として実戦の習熟度を高まるためだ。

台湾侵攻の際、横須賀基地にいるアメリカの第7艦隊が東シナ海に入らないよう阻止する訓練であり、同時に、台湾の西側(中国本土側)からだけでなく、東側からも攻撃できるというブラフ(脅し)も意味している。

習近平総書記にとっては、内政外交ともに思うように進まない状態にある中国。
今は、中国共産党大会の公式な日程発表を待ちながら、「中ロ蜜月」関係の行方、そして中国軍の動きの中でも、特に海軍の動きは、3隻目となる空母進水も含め、注意を払っておきたいものだ。

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著書紹介:ゼレンスキー勇気の言葉100
清水克彦 著/ワニブックス

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール:
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。

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