11月8日に中間選挙が行われるアメリカですが、共和党内においては未だトランプ前大統領の“威光”にすがりつかなくてはならない状況が続いているようです。この現実を識者はどう見るのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、自らのMAGA度、すなわち2年前にトランプ氏が叫んだ「Make America Great Again」の度合いを競い合う共和党候補を痛烈に批判。さらに民主党のバイデン大統領が抱える問題を指摘するとともに、中間選挙の「真の見どころ」を挙げています。

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米中間選挙を覆う「MAGA」という心の病/共和党はトランプの悪霊を祓うことができるのか?

半年後に迫った米中間選挙に向けて民主・共和両党の候補者選びのための予備選挙が進んでいるが、そこに暗く重い影を投げかけているのはトランプ前大統領という黒い禍いの雲である。

2年前の大統領選で彼が敗北し、その選挙結果をフェイクだと主張、それに煽られて興奮した支持者が米議事堂に突入するという米民主主義史上で前代未聞の醜態まで演じた挙句に去って行った後に、しかし共和党には本来の穏健・中道保守路線を立て直そうとする主流派の目覚ましい動きは何も始まらず、その荒野のようなところを相変わらずトランプが徘徊して「キングメーカー」であるかに振る舞い、あわよくば2024年大統領選で再選を果たすための条件を掴もうと画策しているのである。

共和党有利の予想は変わらない

一般に、新しい大統領は最初の中間選挙で野党の批判を浴びやすく、第2次大戦後の19回のうち17回で与党が議席を減らしているという統計があるほどである。加えてバイデン政権の政策は内外共に精彩を欠いて一向に支持率が上がらず、このままでは共和党有利のまま11月を迎え、上下両院とも共和党に多数を握られることになる公算が大きい。

上院は100議席を50対50で分け合い、辛うじて議長をハリス副大統領が務めることで民主党が1票差を確保している形。今回改選となる3分の1=34議席のうち共和党の議席が20、民主党が14で、しかも民主に選挙に強い議員が少なくないので、そう大きく負けることはないだろうが、しかし1〜2議席減らしただけでたちまちバランスが崩れる危うい状態である。下院は435議席の全てが改選となり、現状が民主222、共和210、欠員3とほぼ拮抗状態にある中、共和党が8議席以上を奪えば逆転するので、そうなることはほぼ間違いないと見られている。

とはいえ、問題は民主党との議席差よりも、おそらく両院で多数派を占めることになる共和党議員の中でトランプ派がどれほどの比重を占めることになるかによって決まる「質」である。

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「MAGA度」を競い合う各候補

各州での共和党予備選では、「ニューズウィーク」日本版5月31日号の表現によれば、「MAGA的な主張を押し出す候補者が乱立し、『MAGA度』を競い合った。候補者のほぼ全員がトランプ流のけんか腰の政治スタイルを実践し、不法移民を厳しく批判し、20年大統領選は『盗まれた』と主張した」。

これは5月3日に行われたオハイオ州の共和党上院予備選についての記述。結局、トランプの「お墨付き」を得て予備選を制したのはベストセラー作家のJ・D・バンスだったが、彼は20年大統領選では「私はトランプが嫌いだ」とまで言って散々批判していたというのに、最近になって恥ずかしげもなくトランプ礼賛に転換した。

MAGAは言うまでもなく、2年前のトランプのスローガン「Make America Great Again」の頭文字である。もし本当にそれを望むなら、広い世界観と長い歴史観を背景に脱冷戦とポスト資本主義のグランドデザインを立ててそこへ向けて全国民を動員する一大ムーブメントを始めるしかないはずだが、それをせずに、単に「一番でなきゃダメなんですか」状態に転がり込みつつある現状に感情的に反発して鬱憤晴らしをするだけなのがトランプ流だったが、その米国社会の底辺からの病的な情動化はますます深まっているということである。

5月17日のペンシルベニア州の共和党上院予備選では、8人の候補者のうち反トランプ派はベテランのロビイストであるクレイグ・スナイダーだけで、彼はまったく支持が集まらずに早々と昨年9月に撤退。残った7人がトランプの「お墨付き」の獲得競争を演じ、テレビでも人気の医師メフメット・オズがトランプの支持をもぎ取って候補者の座を確保した。しかし彼もつい最近までMAGAを痛烈に批判し、またオバマケアと人工妊娠手術を支持していた。

バンスやオズのこの予備選での成功は、酷い無節操ぶりを晒してもトランプのお札はそれを上回るご利益があることを示しているように見えるが、それは共和党の内輪で通用する話で、中間選挙本番でより広い支持を集めて民主党候補に勝てるという保証にはならない。

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神通力に翳りも見えて

5月24日のジョージア州の共和党知事候補を選ぶ予備選では、現職で反トランプのケンプ知事が、トランプが送り込んだ「刺客」=パデュー元上院議員に得票率で50%以上もの大差をつけて勝利した。「ニューヨーク・タイムズ」5月30日付は「この結果でトランプの共和党への影響力は後退」と題した大きな論説を掲げた。

トランプとしては、MAGA度の高い議員を1人でも多くワシントンに送り込んで、共和党を完全掌握し、自分の24年再出馬への道を切り開きたいのは山々だが、このようになりふり構わず上下両院選や知事選の候補者選びに介入して権勢を見せつけようとすることが、必ずしも成功するとは限らない。むしろそのドタバタ劇こそが米国の衰退過程の一部であるとも言えそうである。

他方、困ったことに民主党のバイデンもまた「一番でなきゃダメなんですか」と問いかけられた時に、それに正面から答える術を持っていないということである。本誌が一貫して主張してきたように、米国は冷戦が終わり、従ってまた覇権システムの時代も終わった時にその時代転換の世界史的意味を把握し損ね、「米国は冷戦で旧ソ連に勝利し、『唯一超大国』になった」と錯覚した。そのため、「パックス・アメリカーナ」から自力でステップダウンして「超」の付かない「大国」の1つという新しい立場に着地しつつ、その立場から旧ソ連はもちろん旧東欧、イラン・イラクなど中東の大国、インド・中国・ブラジルなど新興大国群等々を大きく束ねて「多極化世界」の多角的運営システムを構築するに至らなかった。その致命的な失敗の表立った結果が、NATOの無原則的東方拡大によるウクライナ戦争の惹起であり、また裏返しの鬱屈意識が米国の上から下まで、共和党から民主党までを覆い尽くすMAGAという禍々しい流行である。米国自身がそのような心の病に蝕まれていることを自覚していないところにこの悲劇性がある。

米国はトランプという悪霊を祓ってこの心の病を克服するきっかけを掴むことができるのか。その兆候が少しでも見えてくるかどうかが秋の中間選挙の真の見どころである。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年6月6日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)

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