世界の目がウクライナ戦争に集中する中にあって、習近平政権の覇権争奪に向けた取り組みには一手の抜かりもないようです。今回、5月末のタイミングで南太平洋の国々に外相を公式訪問させた中国の思惑を推測するのは、国際政治を熟知するアッズーリ氏。外務省や国連機関とも繋がりを持つアッズーリ氏は記事中、同地域の国々に過去10年間で14億ドル以上もの経済支援を行ってきた中国の野望を、ソロモン諸島との間で結んだ安全保障協定の内容を紹介しつつ考察するとともに、中国が南太平洋を重視する2つの理由を解説しています。

ウクライナ戦争の陰で進む米中覇権争い。主戦場となるのは「南太平洋」

日米豪印4ヶ国によるクアッド首脳会合が日本で開催された直後、中国の王毅国務委員兼外相は5月26日から南太平洋の8ヶ国を公式に訪問した。訪問した国はソロモン諸島、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの8カ国だが、いずれも台湾ではなく中国と国交を有する国々だが、中国は南太平洋諸国に多額な経済支援を行うなどして影響力を強めてきた。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」によると、中国は2006年からの10年間で、フィジーに3億6,000万ドル、バヌアツに2億4,400万ドル、サモアに2億3,000万ドル、トンガに1億7,200万ドル、パプアニューギニアに6億3,200万ドルをそれぞれ支援したというが、中国の野望はそれだけに留まらないようだ。

それを強く示すのが、ソロモン諸島との間で結んだ安全保障協定だ。中国は4月、ソロモン諸島と安全保障協定を結ぶことで合意した。一部ネット上に流れた文書によると、そこにはソロモン諸島政府の要請で中国の警察や軍を派遣できる、ソロモン諸島に駐在する中国人を守るため中国軍を派遣できるなどが記述されていたとみられ、欧米や日本などは、中国が経済の次は安全保障で影響力を強め、いくつ軍事拠点化するのではと警戒感を滲ませている。

米政府高官は4月、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談した際、中国との間で合意した安全保障協定に対する懸念を伝え、中国軍が駐留するなら対抗措置も辞さない構えを示した。また、最近、オーストラリアのウォン外相も、太平洋地域の各国がどの国と協定を結ぶか自ら決定することを尊重するが、ソロモン諸島と中国が締結した安全保障協定がもたらす影響を懸念していると表明した。

米中だけでなく、近年、オーストラリアと中国との関係も悪化している。両国は、新型コロナウイルスの真相解明や新疆ウイグルの人権問題、香港国家安全維持法の施行などを巡って対立が激しくなり、中国はオーストラリア産の牛肉やワインなどの輸入制限に踏み切るなどしている。オーストラリアでは5月に政権交代があったものの、新たに発足したアルバニージー新政権で副首相を務めるマールズ副首相は、オーストラリアと中国の関係は引き続き難しいものになるとの認識を示した。米国と同様に、中国への警戒感はオーストラリアでも党派を超えたコンセンサスのようになっており。今後も両国間では経済を中心に冷え込んだ関係が続く可能性が高い。

中国が南太平洋を重視する2つの理由

では、なぜ中国は南太平洋を重視するのだろうか。そこには日米豪印クアッドが進める自由で開かれたインド太平洋構想に対抗する狙いがある。世界地図をみれば明らかだが、南太平洋島嶼国が点在する範囲は西太平洋でも大きな割合を占め、西太平洋での影響力拡大を掲げる中国にとっては極めて重要な場所にある。また、オーストラリアは南太平洋を自らの戦略的要衝と位置づけているが、オーストラリアと米国の間に楔を打ち込むことで、クアッドの連携を壊したい思惑もあることだろう。

また、中国が南太平洋を重視するにはもう1つ大きな理由がある。それは台湾の存在で、今日でも南太平洋にはパラオやナウル、ツバル、マーシャル諸島の4カ国が台湾と国交を有している。中国としては、近年キリバスとソロモン諸島が国交を台湾から中国に切り替えたように、同4カ国へ経済支援などで圧力を強めることで国交を切り替えさせ、台湾の存在を南太平洋から消したい狙いがある。

今日、日本でも台湾有事の恐れについてかなりメディア報道が増えてきたように思うが、南太平洋は正に中国と台湾、米国やオーストラリアという形で大国間対立の新たな主戦場になりつつある。

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