韓国で尹錫悦(ユン・ソンヨル)政権が誕生して1ヵ月。韓国側から日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)早期正常化など、関係改善に前向きな声が出てくる一方、文在寅の“負の遺産”に苦しんでいる様子も伺えるようです。そんなユン大統領に対し韓国国内ではどのような声が出ているのでしょうか。無料メルマガ『キムチパワー』で、韓国在住歴30年を超える日本人著者が新聞のコラムを引用して紹介します。

鳥は左右の羽で飛ぶ

メルマガ筆者がよく引用するのが朝鮮日報のコラムニスト「金大中コラム」だ。今回も、80歳を越えてますます元気な金大中氏のコラムからの引用である。

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朴正熙(パク・チョンヒ)が軍事クーデターで政権をとった「5・16クーデター」(1961.5.16)。その混沌の時代に韓国社会に「革命勢力」と言えるのは軍と大学だけだった。大学は4・19革命(1960.4.19=学生らが李承晩を大統領の座から引きずりおろした)で民主党政府を作った。

しかし1年後、軍部に権力を奪われた。大学は組織化された勢力ではなく、軍は組織化された勢力だった。結局、組織された力が勝った。政治権力というものは、その時代必然の産物だという話だ。目覚めた意識、組織の力、権力欲、国民的要求、このようなことが相まみれて権力を掌握させるということだろう。

軍部は、貧困から脱しようとする国民的欲求と効率的な政府を望む政治的要請を背景に組織的推進力、そして構成員の権力欲をうまく組み合わせて政権獲得に成功し約30年間権力を維持した。

そしてそれからさらに25年後、大学の左派運動圏を組織化した586勢力がついに韓国の政治権力を掌握した。文在寅左派政権の登場がそれだ。

それでは、尹錫悦(ユン・ソンヨル)政権の誕生はいかに説明できるだろうか。尹大統領が政界出身ではなく、検察の首長でシンデレラのように登場したのは、どのような時代的要請と論理で説明できるだろうか。

尹大統領自身がそれを説明している。彼は公正と法治を前面に押し出した。自由と民主の価値を力説した。そして、国家安保と国の理念的アイデンティティの回復を強調した。

運動圏政権のネーロナンブル、幼児独裁的不正を査定せよという国民の要請が拡大していった。それで検察という司直機関の首長が清掃専門家(?)として登場したのだ。

尹大統領は清掃任務を達成するために検察出身者を大挙起用して野党から「検察共和国」という攻撃を受けているが、彼の行動は時代的・国民的要請に応じたものだ。

ただ、その清掃作業が終われば、おそらく尹錫悦第2期は、違う面貌を見せるだろうし、またそうしなければならない。

尹錫悦の登場が持つもう一つの意味は、正常で普遍的な家庭環境と専門教育を土台にしたエリートたちがリーダーとして浮上したことだ。伝統的な体系を備えた国には例外なく指導者教育ルートがあり、課程がある。

英国は高校から大学に至るまで指導者を養成する教育システムを備えている。米国もハーバード・エール・プリンストンなど東部の名門大学(アイビーリーグ)が指導者の産室だ。日本もその学校を卒業してこそ指導者として出世する伝統がある。

尹大統領は大学教授の家に生まれた。70年の建国の歴史で初めてソウル大学をまともに卒業した人が大統領になったのだ。これは韓国の指導者像を正常化する意味がある。

韓国には、卑賤で劣悪な環境で育ちながら最高に達することについて「小川から龍が出る」と表現したりする。過去にはそれも通じた。

もはや違う。もはや龍は小川を突き抜けて湧き出るのではなく、システムによって教育を受けなければならない。

自分だけが立派で賢ければいいわけでもない。周辺が皆賢い環境で一緒に育ってこそ不正を排撃し、工程を学ぶ。もはや大韓民国もそのようなシステムを持つ資格がある時期に来ているということなのだろう。

尹錫悦政権登場の政治的意味は、左右交替の正常化が定着できるかどうかという試金石というところにある。韓国の「左右」はこれまで大きく歪曲されてきた。

左は親北朝鮮・容共・反日の沼に陥っており、保守・右派は親米・親日・反北朝鮮のフレームに放置されてきた。私たちは尹政権の登場とともに、この伝来的、慢性的理念論争にさらなる余地はないか調べる必要がある。

特に左派運動圏が金科玉条のごとく仕えてきた親北朝鮮・反米一辺倒の理念的慢性化から脱皮し、左派本来の進歩に復帰する変化を期待する。

それは民主党が586運動圏主導のくびきから脱し、社会の構造的矛盾から貧困・労働・分配に力点を置く本来の進歩的左派に復帰することだ。「尹・保守」に対抗する「民主党・進歩」の構図に進まなければならない。

「鳥は左右の羽で飛ぶ」という。鳥は2つの羽で飛ばなければならないが、政治は同時に2つの羽で飛ぶことができない。左の羽で飛んだら次は右の翼で飛ぶのが政治というものだろう。

保守政党である「国民の力」が尹錫悦を前面に出して公正・正義・法治の翼に例えられるならば、左派政党である「共に民主党」も平等と分配に重点を置いた本来の進歩の翼として飛ぶことが韓国の「両翼」のために望ましい。

軍も586も、もはやこの時代の必然の存在ではない。

(無料メルマガ『キムチパワー』2022年6月15日号)

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