2019年に発生したカルロス・ゴーン氏の国外逃亡事件を支援したことで、日本でも広く知られることとなった民間軍事会社(PMC)の存在。現在交戦中のウクライナ・ロシア両軍にもPMCにより多数の戦闘員が派遣されていると伝わりますが、PMCとはいかなる組織で、どのような活動実態を持つのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、PMCを「冷戦後の世界の歪みにつけ込んで大きく膨れ上がったビジネス」とした上で、彼らがこれまで手掛けてきた「仕事」を詳しく紹介。さらに冷戦後に進んだ戦争の民営化ともいうべき状況が、ウクライナ戦争の長期化にも影響している可能性を指摘しています。

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

戦争を後押しする「民間軍事会社」の存在

ウクライナのゼレンスキー大統領は開戦直後から、自国民(の特に成人男性)に対しては「武器を取ってロシア軍と戦え」と呼びかけると同時に、広く世界に向かって「ウクライナ国際防衛軍団」に参加してウクライナ軍と共に戦う外国人義勇兵を募ってきた。

傭兵か義勇兵かの区別はあいまい

これはなかなか難しい法的な問題を孕んでいて、ウクライナ人の愛国者や外国人戦闘員がウクライナ正規軍の下に組み込まれていることを相手が識別できない形で市民に混じって戦った場合は、ロシア軍に一般市民に対する無差別攻撃の口実を与えることになり、現にそのような形で過剰な被害が出たケースも多いと推測できる。またウクライナ人にせよ外国人にせよ、非正規戦闘員と見做されれば戦時国際法による捕虜としての人道的な扱いを受けられない可能性があり、6月7日にロシア側が発表した英国人戦闘員3人に対する死刑判決がそれに当たる。

もちろんウクライナ政府は、外国人戦闘員たちは「義勇兵(volunteer)」として応募してきて、「無給で奉仕する」との誓約書に署名した上で軍制下の「ウクライナ国際防衛軍団」に組み入れられるので、正規兵として扱われるべきだと主張するが、ロシア側はそれを認めず、彼らは金銭で雇われた傭兵であって捕虜として扱われる権利を持たないと主張している。実際には、正規と非正規の区別はあいまいで、例えば米国はじめ世界各国に多数生まれている「民間軍事会社(PMC)」が、言わば人材紹介会社の業務として軍人経験者を集め、それを社員として派遣した場合、ウクライナの政府や軍とその個々の戦闘員との間では直接の金銭関係が生じないので、純粋な気持ちで応募した「志願兵」であるかに振る舞うことができる。

他方、ロシア側にもPMCがあり、3月12日付APなどが報じたところでは、「ワグネル・グループ」はシリア軍の現役兵士を対象に「ウクライナでの戦闘任務」に参加しないかと誘う広告を掲げて数千人を確保、シリア軍の給料の50倍に当たる月額3,000ドルを支払うと公言している。これも、形式的にはワグネルという民間会社と個々のシリア軍人との契約ではあるが、ロシア側も認めているように、傭兵であることは明白。だとすると、戦死してしまえばもちろんのこと、捕虜になっても命の保証は何もないことになるが、国家破綻状態のシリアでは、50倍の給料というのは命を賭けるのに十分な金額なのかもしれない。

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

隆盛をきわめる戦争代行サービス業

民間軍事会社(PMC)というのも、冷戦後の世界の歪みにつけ込んで大きく膨れ上がったビジネスである。

前号で、ボスニア・ヘルツェゴビナの血みどろの内戦を全世界にアピールしてムスレム人の政府を助けたのが、ワシントンのPR会社=ルーダー・フィン社だったことを述べたが、同じ時期に旧ユーゴスラビアの連邦崩壊に伴う大混乱に乗じてこの地域に入り込んで行ったのは、PR会社だけではなかった。血の臭いに敏感なPMCこそ実は真っ先に飛び込んで行ったのである。

【関連】ゼレンスキーを操っているのは誰か?戦争で金を儲ける「代理店」の存在

菅原出『民間軍事会社の内幕』(ちくま文庫、10年刊)によれば、米PMC業界でも最大手のMPRI(ミリタリー・プロフェッショナル・リソーシズ・インク)が最初に国際的な注目を浴びるようになったのは、90年代前半のバルカン半島での戦争を通じてのことだった。94年に国連が、セルビア本国からボスニア国内のセルビア人地域に支援物資が運ばれていることを「経済制裁破り」だと問題にし、国境沿いに監視団を送るよう米軍に要請したが、米軍が断ったため、結局MPRIが45名の元軍人を送る仕事を請け負った。

次に大きな仕事になったのは、隣のクロアチアの国軍創設で、同国が91年に独立を遂げたものの、ろくな指導者もおらずまともな武器も持たずに途方に暮れていたのを、米政府の了解の下、MPRIが契約を結んで国防省の建設と軍の旧ソ連型から米国型への改造のための教育・訓練を請け負った。その長期的な目標は、クロアチア軍の近代化・民主化を支援して将来同国がNATOに加盟する(すなわち米国の同盟国になる)ことに置かれ、それは2009年に至って実現した。この成功によってMPRIは、ボスニアでも契約を得て兵器操縦を含む軍事訓練を請け負った。

この記事の著者・高野孟さんのメルマガ

初月¥0で読む

 

人質解放交渉サービスが得意な会社も

数あるPMCにはそれぞれ特徴があり、例えば英国の「コントロール・リスク社」は誘拐人質解放交渉サービスの世界最大手。1986年に三井物産マニラ支店の若王子信行支店長が誘拐され、137日間も監禁されたものの身代金を払って無事解放された件も、コントロール・リスク社のコンサルティングの成功実績の1つである。

直接的な軍事戦闘サービスを売り物にするPMCもある。ふつう、PMCが請け負うのは基地・施設の警備や要人の警護、物資の護送、兵士らの訓練など、いずれも「前線」から離れた「後方」での仕事だが、途上国の弱体国家や破綻国家の場合は敵との直接戦闘までもPMCに委託してしまう場合もある。南アフリカのPMC「エグゼクティブ・アウトカムズ(EO)」社は、武装戦闘、戦闘戦略、極秘軍事訓練、特殊作戦、飛行監視、装備強化、医療支援などのメニューを備えていて、これは一国の軍隊の任務を丸々引き受ける力量さえ持っていることを意味する。

ロジスティックス支援、兵器の修理・メンテナンスなども彼らの業務で、驚くべきことに、その最大の発注主は米軍であるという。

冷戦が終わって、例えば米陸軍を見ると、最盛時の79万人から一気に48万人まで人員を削減した。全世界で90年代の10年間に失業した軍人は600万人にものぼるとされ、一般兵士経験者はともかく、長年の戦略指導経験を持つ高級将校や、特殊部隊や諜報部門で特別の能力を開発してきた超エリート軍人や、高度の最先端技術を扱うことができるエンジニア系なども容赦無く放り出され、かつてないほどの軍事的人材の供給過剰状態が生じた。反面、もはや大規模な戦争は起こらないと思えばこそそこまで軍を縮小したものの、現実にアフガニスタンやイラクなどで戦争が起きれば圧倒的に人材不足で、大きな部分を民間に委託せざるを得なくなった。

冷戦後の世界に生まれたその大きな谷間に咲く徒花としてPMCが咲き誇っているわけだが、そうやって戦争そのものをビジネスにする巨大な業界が誕生すれば、今度は話が逆さまになって、彼らとしてはできるだけ戦争を起こしたり長引かせたりして仕事を増やしたいと願うようになる。戦争が国家の専権下にあった時代に比べて、戦争の民営化が進んだ今のほうがよほど戦争が発生しやすく、長引きやすく、泥沼化しやすくなっているという事情が、ウクライナ戦争の裏側にも働いているのではないか。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年6月27日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)

初月¥0で読む

MAG2 NEWS