ロシアによるウクライナ侵攻以来、声高に主張される頻度が確実に増した台湾有事論。この先いつ起きたとしても不思議はないとするメディアも存在しますが、はたして緊張はそこまで高まっているのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では著者でジャーナリストの高野孟さんが、日本を代表する軍事専門誌に掲載された論考の内容を引きつつ、日米に流布する「台湾有事論」がいかに誤ったものであるかを解説。さらに論考の冷静な結論部分を紹介し、全面的な賛意を示しています。

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間違いだらけの「台湾有事論」/『軍事研究』7月号の論文に注目

『軍事研究』という月刊誌は自衛隊寄り、軍事オタク寄りではあっても「右寄り」ではなく、それは同誌自身が「1966年の創刊以来いかなる政府・政治勢力、いかなる思想的立場からも中立」と謳っている通りで、軍事技術的な合理性を本旨としているが故に、時の政府の政策や安倍晋三的右翼の立場と矛盾したりそれを批判したりする場合も珍しくはない。同誌7月号に載った軍事ライターの文谷数重の論考『間違いだらけの台湾有事』もその一例で、「台湾有事は現実的にはあり得ない。日米の台湾有事論は誤っている。現状では、戦争事態が発生する危険性はむしろ少ない」と述べているが、これは私と同意見である。

彼は、21年3月に米上院の公聴会で米海軍大将が「中国による台湾回収は6年以内」と証言したことがきっかけで台湾有事論が一気に広まったが、この証言は取るに足らない内容で、まして「6年以内」と言うのはこの大将の「個人の勘」のようなものでまるで根拠がないと指摘。さらに「中国には侵略的傾向があるから台湾を侵略する」「日米同盟を強化し、防衛費を増やすべき」といった短絡した主張を繰り広げる「右派メディア、保守メディア」を、台湾有事の何たるかを知らずに騒いでいるだけとボロクソに批判するのである。

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右派・保守派の「台湾有事論」の粗雑

日本や米国では、上掲の米海軍大将を筆頭に、ロシアがあのように「突然、一方的に隣国を侵略」したのだから、中国も同じように台湾を武力侵攻するに違いなく、しかもその時期は迫っている、といった論調が横行している。しかし、本誌が繰り返し述べて来たように、まずロシアのウクライナ侵攻自体が決して「突然かつ一方的」なものではないし、また仮にそうであったとしてもプーチンと習近平が必ず同じような行動パターンを採るとは限らない。そのような言説は、「敵に事欠く」米国政府とそれを操る軍産複合体が、ロシアと中国を「元・現の共産党独裁国家」という具合に一括りにして「敵陣営」の幻像をデッチ上げ、その脅威を誇大に描き上げようとする冷戦ノスタルジア的な心理操作プロパガンダから生まれた、粗雑極まりない議論で、こんなものに騙されてはいけない。この論考の著者=文谷はその辺をきちんと見抜いた上で、台湾有事論の第1条が「台湾有事は台湾独立に際してのみ生じる」ことの確認でなければならないことを、正しく指摘している。彼は言うことに耳を傾けよう。

▼これまで有事論を主導してきた右派メディア、保守メディアは「中国には侵略的傾向がある。だから台湾を侵略する」と言うだけである。そこに「台湾への関与を増やすべき」「日米同盟を強化すべき」「防衛費を増やすべき」といった伝来の右派的・保守的主張を乗せるだけだ。

▼有事の様相の提示はなく、あってもおざなり。「まずは中国は戦略爆撃を含む航空攻撃を仕掛ける。そして海軍力で海上攻撃や封鎖を仕掛ける。それでも屈服しなければ台湾に上陸する。もしかすれば島嶼に上陸するかもしれない」といった空虚な内容で、しかも台湾有事では考え難い展開である。あるいは、言い古された斬首作戦――空挺部隊ほかによる台北への奇襲攻撃が持ち出される場合もある。これは、以前に沖縄への海兵隊配置やオスプレイ配備〔の目的を問われた際に苦し紛れの〕牽強付会で持ち出された話でもある。

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台湾が「独立宣言」しなければ有事は起きない

▼では、具体的にはどのような形となるか。まず、現状では台湾有事は台湾独立に際してのみ生じる。それ以外の状況では発生し得ない。

▼台湾が独立を試みれば、中国は軍事力を含め、ありとあらゆる手段で阻止する。中国にとって台湾独立は領土喪失の危機であり、阻止しなければ中国の支配体制は存在価値を疑われる。

▼台湾が自分の方から中国に武力行使はしない。なぜなら能力的に出来ないから。海空戦力を見ても台湾は数的に圧倒的に劣勢であり、質的にも中国の後塵を拝している。また中国との熱戦を支える体力はない。支配領域内GDPで比べると20対1、人口では60対1である。

▼中国も、台湾が「1つの中国」にとどまる限り武力行使はしない。1979年の『台湾同胞に告げる書』以降の縛り(注)は強く、台湾が独立を宣言しない限り、中国は武力を行使できない。またこれを破れば米国や日本の台湾関与を正当化し、台湾統合をかえって遠ざける結果となる。

(注)1979年1月1日の米中国交正常化に伴い、鄧小平主導で発表した文書で、台湾との敵対関係を終わらせ、三通(交通、通信、通商)を提案し、これに基づいて87年から台湾人の大陸への親類訪問が始まった。江沢民、胡錦濤、習近平ら歴代指導者も節目ごとにこれを踏襲し進化させる談話を出している。

▼実際に武力行使をせざるを得なくなった場合、中国は海空戦力で必要な制空権と制海権を掌握し次第、台湾北西部の新竹〜桃園間に上陸戦を開始し、以降台北へ向けて進攻する。現状ではそれ以外の手段を選ばない。戦略爆撃や海上封鎖、離島攻略、斬首作戦は選択しない。また尖閣連動もない。なぜならそれらは独立を確実に阻止する手段として不適切だからで、あくまで最短時間、最短距離での台北の直接占領を果たし、政治決着〔=台湾降伏〕に持ち込もうとするだろう。

▼現状は極めて安定している。中台そして日米のいずれもが台湾独立の回避に努力すべき立場にある。しかも台湾の冒険主義は日米と中国の双方から制止される構図にある。それからすれば、台湾有事は現実的にはあり得ない。

▼台湾有事論が中国抑止を主張するのは間違いで、抑止すべきは台湾なのである。

▼日米が台湾関与をやめれば、緊張は緩和する。関与水準を引き下げれば、台湾有事は遠ざかる。また日米が巻き込まれる可能性もなくなるのである……。

この文谷論考の冷静な結論部分に、私も賛成である。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2022年7月18日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)

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