日本周辺における大国間の対立は、政治はおろか経済活動にとっても大きな影響を及ぼしています。ウクライナ紛争で米国側についた日本にとって、「サハリン2」や漁業など、ロシアからの「制裁」による影響が出始めています。しかし、日本のビジネスに影響を与えるのはロシアだけじゃないと指摘するのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、大国同士の争いによって中国やロシア両国との関係が悪化する日本経済の行く末を案じています。

日本にとって難しくなるロシア中国ビジネス

2月のロシアによるウクライナ侵攻、8月のペロシ米下院議長の台湾訪問などによって、大国間対立はもう既に不可逆的なところまで来ている。日本は米国など欧米と完全に足並みを揃えており、米中露の大国間対立に巻き込まれている。

ロシアによるウクライナ侵攻により、これまで決して関係の悪くなかった日本とロシアの関係は急激に冷え込んだ。ウクライナ侵攻直後、岸田政権はロシアを強く非難し、ロシア外交官の国外追放、高級車や宝石など贅沢品の輸出停止などに踏み切り、プーチン政権も3月、ロシアが実効支配する北方領土へ進出する企業に対して20年間に渡って税金を優遇する措置を盛り込む法案に署名し、6月には北方領土周辺で漁業活動を行う日本漁船を拿捕しないことを約束した日露漁業協定(1998年に両国で締結)の履行を停止すると発表した。

このような報復合戦が激しくなるなか、ロシア外務省は7月、岸田政権がロシアを非難する声を上げ続けているとして強く非難し、米国や日本などはロシアと軍事衝突する危険な瀬戸際にあるとも警告した。

そして、「サハリン2」の問題が浮上した。プーチン大統領は6月末、石油天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」について、事業主体を新たにロシア政府が設立するロシア企業に変更し、その資産を新会社に無償で譲渡することを命じる大統領令に署名した。「サハリン2」には三井物産が12.5%、三菱商事が10%それぞれ出資してきたが、これによって両社は1か月以内に出資分に応じた株式の譲渡に同意するかどうかをロシア政府に通知する必要に迫られた。しかし、9月4日の期限が近づくなか、両社は引き続き「サハリン2」に出資する意向を明らかにし、ロシア政府に申請した。その後、ロシア政府はそれを承認した。

だが、日露関係の長期的冷え込みが予想される中では、今後もロシア政府が両社に対してさらなる圧力、政治的揺さぶりを掛けてくることが予想される。三井物産や三菱商事も本音では高い政治リスクがある状況においては出資継続を控えたかったはずだ。今後もロシアに出資継続するということには内外で強い批判もあり、両社とも大きなレピュテーションリスク(会社に関するネガティブな情報が世の中に広まり、信用やブランドが毀損することによって生じる損失リスク)を負うことになる。しかし、日本政府の要請やひっ迫する電力需要という日本の厳しい立場を考慮すれば、LNG全輸入量の9パーセントを占める「サハリン2」からの撤退は極めて大きなダメージとなる。三井物産と三菱商事とも断腸の思いで決断したに違いない。

ロシアだけじゃない。日本を襲う「チャイナ・リスク」の数々

一方、リスクは何もロシアだけではない。今日の大国間対立と日本の立ち位置は、日中関係が悪化するという潜在的リスクを内包している。今日の中国の対日姿勢は、圧力と関与を状況に応じて巧みに使い分けてくるもので、決して中国も日本との必要以上の関係悪化を望んでいるわけではない。しかし、中国は日米の切り離しを狙っており、日本が米国と関係を密にすることは良く思っていない。よって、米中対立が激化し、日本が米国と結束を固めるという構図が長期化すればするほど、日中関係が冷え込む可能性は高まる。

特に、昨今緊張が高まる台湾情勢は、日中関係の悪化を誘発するリスクになろう。今日、米中だけでなく中台の関係も不可逆的なところまで冷え込んでおり、仮に偶発的衝突によって一気に軍事的緊張が高まれば、安全保障上、日中は必ず対立軸になる。そうなれば、日本の対応に不満を持つ中国は、日本へ政治的揺さぶりを仕掛けるため何かしらの行動に出てくるだろう。

具体的には、日本に対する経済制裁が1つ考えられる。2010年9月、尖閣諸島沖で発生した中国漁船衝突事件の直後、中国側は日本への報復措置としてレアアースの輸出規制に踏み切った。また、2005年に当時の小泉首相が靖国神社を参拝した際、中国では反日感情が高まり各地で日本製品の不買運動が起こった。2012年には当時の民主党政権が尖閣諸島の国有化を宣言した際、中国では反日デモが各地に広がり、不買運動を超えてトヨタやパナソニックの店舗・工場が放火され、日系デパートやスーパーなどは破壊や略奪の被害に遭った。

また、中国では日本人の不当な拘束、逮捕が続いている。2021年1月には、スパイ容疑で拘束されていた日本人男性2人の懲役刑が確定したことが明らかになった。1人は2016年に拘束され懲役6年の判決を受け、もう1人は2015年に拘束され懲役12年の判決を受けたが、それに不服申し立てを行った2人は北京にある裁判所に控訴していたが棄却された。2019年には、北海道大学の中国近代史を専門とする教授が日本へ帰る直前に北京の空港で拘束され、広州市では拘束されていた大手商社の40代の日本人男性が現地の裁判所からスパイ容疑で懲役3年の実刑判決を言い渡され、湖南省長沙市では50代の日本人男性が国内法に違反したとして拘束されるケースがそれぞれ明らかとなった。今後も邦人が拘束されるケースが続く可能性が高い。

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以前と比べ、今後中国での日本企業の経済活動はやりにくくなることを十分念頭に入れる必要がある。政治リスクがあっても仕事を継続せざるを得ないというジレンマは、今後さらに日本企業にとって大きな悩みの種となろう。

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