文在寅氏が政権を担った2017年からの5年間で、国交回復後もっとも冷え込んだと言われる日韓関係。今年5月に就任した尹錫悦大統領は対日関係の改善に積極的と伝えられますが、道程は決して甘くはないようです。そんな「ここにきて漂い始めた不穏な空気」を取り上げているのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、尹大統領の日韓関係強化姿勢の妨げとなりうる2つの要素を解説しています。

韓国ユン政権は、どこまで日米と結束できるか

米中対立、台湾情勢、ウクライナ侵攻などにより、日本を取り巻く安全保障情勢は厳しさを増すばかりだ。8月はじめにペロシ米下院議長が訪問したことで、中国は台湾を包囲する形で軍事演習を行うなど緊張が高まっている。ウクライナに侵攻したロシアと日本の関係は悪化し、ロシアは極東地域で軍事活動をエスカレートさせている。4月14日にはロシア海軍が極東沖の日本海でウクライナ侵攻の時にも使用された巡航ミサイル「カリブル」の発射実験を行い、3月30日には北方領土の国後島で軍事訓練を実施するなどした。

そして、特に懸念されるのが中露の結束だ。最近でも、ロシア国防部は9月1日から7日にかけ、ロシア軍と中国軍が日本海とオホーツク海で共同軍事演習を実施したと発表した。両軍は海上通信・海上経済活動エリアの防衛や、沿岸地域の地上部隊の行動に協力する演習を行った。また、5月24日には中露両軍の爆撃機が日本海や東シナ海、西太平洋上空で長距離にわたって共同飛行したのが確認された。昨年10月には、ロシア海軍の駆逐艦と中国海軍の最新鋭ミサイル駆逐艦が日本海から津軽海峡を通過し、千葉県の犬吠埼沖、伊豆諸島沖、高知県の足摺岬、鹿児島県の大隅海峡を一緒になって航行したことが確認され、両軍は極東ウラジオストク沖の日本海で4日間にわたって合同軍事演習も実施した。

一方、北朝鮮は訪日したバイデン大統領が帰国した直後の5月25日、ピョンヤン郊外からICBM=大陸間弾道ミサイルや短距離弾道ミサイルなど合わせて3発を日本海に向けて発射した。北朝鮮は5月5日にも短距離弾道ミサイル8発を発射するなど軍事的に挑発し、ホワイトハウスは6月7日、北朝鮮が北東部・豊渓里の核実験場で核実験の準備を既に整えいつでもできる状況にあるとの見解も示した。北朝鮮が5月こういった挑発に出た背景には、対北朝鮮で日米との結束を重視するユン新政権が誕生したことがある。

日本は言わば中露北という3正面脅威に直面している状況だ。そうなれば米国だけでなく、韓国との安全保障上の協力は極めて重要になる。歴代の米政権は歴史や領土問題などでなかなか関係強化が進まない日韓関係に悩んできた。日韓とも米国にとっては軍事同盟国であり、両国には“揉めている場合じゃない!自分たちが置かれている安全保障環境を考えろ”という米国なりの本音がある。

そして、日本との会談を重視するユン大統領の誕生が、戦後最悪とまでいわれた日韓関係を改善させるトリガーになることが期待されている。岸田総理も日韓関係の改善は待ったなしとの姿勢を示した。6月下旬、岸田総理が日本の総理として初めてNATO首脳会合に参加した際、ユン大統領も同会合に参加し、日米やNATO、オーストラリアなどと安全保障上の結束を強化していく意向を示した。3正面脅威に直面する日本にとって、韓国大統領のこういった意向は極めて歓迎すべきものである。

低支持率と中国の牽制。見極めるべき韓国の対日姿勢

だが、ここにきて不穏な空気が漂っている。1つに支持率だ。ユン政権は発足してまだ4ヶ月しか経っていないが、既に支持率が大幅に低下している。8月12日に韓国ギャラップが明らかにした最新の支持率によると、ユン大統領の支持率は25%、不支持率は66%となり、就任時の支持率52%から大幅に低下していることが判明した。支持率低下の背景にはいくつかの要因があろうが、日本との結束強化によって支持率が低下しているということであれば、ユン大統領も対日路線の変更を余儀なくされる。これまでのように日本との関係強化という姿勢を打ち出せなくなる可能性もある。

もう1つが中国の存在だ。中国の王毅外相は5月16日、韓国の外相とオンライン会談を行い、(米国か中国か)陣営に分かれて対抗するべきではないと中国側の懸念を伝えた。王毅外相がこのように懸念を伝えた背景には、韓国のユン新政権が米国や日本との協力を重視し、日米韓の連携で中国に対抗してくる可能性があるためと思われる。今日、中国側はユン政権の動向を極めて念入りに注視している。韓国経済にとって中国は最大の貿易相手国であり、いくら安全保障上の同盟国が米国であっても、中国は切っても切れない関係にある。経済で中国というカードを失えば、それは韓国経済の停滞に繋がる。韓国は日本以上に米中対立の中で難しい立場にあるといえよう。

そして、8月にペロシ米下院議長が台湾の次に韓国を訪問した際、ユン大統領は休暇中という理由でペロシ氏と会わなかった。米下院議長とは米国ナンバー3ともいわれ、日本国内ではこの事実に多くの専門家が驚いた。岸田総理もペロシ米下院議長が訪日した際にはランチを共にしており、日本の政治家たちからも、「こういったご時世だがやはり韓国は信頼できない」、「台湾有事の際も韓国は頼れない」などの声が聞かれた。

韓国の大統領は1期5年であり、またユン政権の外交安全保障政策を評価することは時期尚早かも知れない。しかし、支持率低下、中国という問題によってユン政権の対日姿勢を慎重に見極める必要があろう。

image by: 尹錫悦 − Home | Facebook

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