中国の国家主席として初めて、G20首脳会議への出席を見送った習近平氏。同サミットを重視していたとされる習氏が欠席を選択した裏側には、どのような事情があるのでしょうか。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、これまでの報道を総合しその真相を推測。さらに習氏の現在の立場については、隠蔽と嘘による情報統制で国内をまとめるしか手立てがない状況にあるとの見立てを記しています。
※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2023年9月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
● 習氏が北戴河会議で激怒 G20欠席、発端は長老の諫言
中国の習近平主席は、今月9〜10日にインドの首都ニューデリーで開催されるG20首脳会議への出席を見送り、かわりに李強首相を派遣することを発表しました。ウクライナ戦争など世界で紛争が続く中で、習近平が国家主席就任以来初めて、異例の欠席を表明したことで、アメリカのバイデン大統領も「失望した」と発言するなど、大きな波紋を呼んでいます。
欠席の理由として、国境紛争を抱えるインドとの関係悪化が影響しているとの声がある一方で、冒頭の新聞記事のように、この夏に行われた北戴河会議で習近平が長老から叱責されたことが関係しているという観測も出ています。
北戴河会議とは、年に1度、真夏の時期に中国共産党幹部や党の長老たちが避暑地である北戴河に集まり、人事を含めて中国共産党にとって重要な決定を秘密裏に行う会議として知られています。とくに長老たちの意見が重視されてきたとも言われています。
ただし、昨年に元国家主席の江沢民が死去し、前国家主席の胡錦濤も昨年10月の共産党大会で「強制退場」させられた後に動静不明になっていることもあり、今年の北戴河会議には長老があまり集まらなかったとされていました。
ところが、中国の内情は、経済では恒大集団の経営危機をはじめとする不動産バブルの崩壊に直面し、ゼロコロナ政策の失策で若者の失業率は40%を超えるとされ、政権内では秦剛外交部長が突然の失脚、さらには軍部ではミサイル部隊の司令官が失脚するなど、あちこちで混乱が起こっています。
これに見かねた曽慶紅氏ら長老が、北戴河会議で習近平を厳しく叱責したと言われているのです。これに対して習近平は自身の側近らに「混乱の原因は、鄧小平、江沢民、胡錦濤の過去三代の責任であり、そのツケを自分が払わされている」と不満をぶつけたと言われています。
このように、長老から叱責された習近平が、国際会議に出席して、各国から経済に関する懸念をぶつけられることで、さらに習近平のメンツが潰れてしまうことを危惧して、出席をキャンセルしたという観測が出ているのです。
北戴河会議で習近平が責任追及されたという観測は、別のチャイナウォッチャーからも出されていました。その一方で、こうした観測は間違いだとする意見もあります。
● 「北戴河会議」で習近平が炎上? 李克強とのパワーバランスの行方
● 北戴河会議と習近平第三期
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とはいえ、ここ数週間の中国をめぐる動き、恒大集団の経営危機や外交部長の失脚などを見るにつけ、長老から何かしらの批判があったと考えるのは自然なことでしょう。台湾でも、この観測が大きく報じられています。
● 中國衰退動盪 日經:習近平在北戴河被元老斥責
しかも、習近平肝いりの「一帯一路」については、イタリアが「何のメリットもない」と脱退を検討していることを明らかにしており、G20で一帯一路への懸念が噴出することへの警戒もあったのではないかと思われます。
● 「一帯一路」からイタリアが離脱を検討 中国は外相会談や閣僚派遣で繰り返し引き留め
いずれにせよ、経済衰退や国内の権力争いで、習近平政権の国際的存在感が急速に低下しているのは確かでしょう。若年失業率の発表を中止したり、国内の不満を日本に向けさせるために、福島第一原発の処理水に関してデマを流して憎悪を煽るなど、隠蔽と嘘による情報統制で国内をまとめるしか手立てがなくなっているわけです。
もっとも、中国はかねてより虚言によって成り立ってきた国です。清末に中国で20年以上にわたり布教活動を行ったアメリカ人宣教師アーサー・スミスも、著書『中国人的性格』において、中国人の相互不信と誠実さ(信)の欠如について述べています。
現在の中国人も、誰も中国共産党のことは信じていません。「上に政策あれば、下に対策あり」という諺があるように、上からの政策の網をいかにかいくぐるかが、下々の手腕の見せ所であり、そもそも政権を信用していないのです。
ただ、西側先進国はこれまで、「中国が豊かになれば、約束を守る、民主的な近代国家になるはずだ」と考え、中国を国際的な市場経済の輪の中に入れてきました。ところが、中国は豊かになっても近代国家になるどころか、ますます傲慢になって、約束を守るどころか、自分で勝手にルールを決め、それを他国に押し付け、民主ではなく独裁へとどんどん傾いてしまったのです。
いまになってようやく西側諸国も、中国をいくら豊かにしたところで、約束を守る、国際的ルールを守る近代国家にはならないことに気づいたわけです。
習近平政権は、自らの権力を守るために、これからも国内外に嘘八百を並べ立てるはずです。福島第一原発の処理水へのデマもその一環です。そしてその嘘を追求されないために、国際会議への出席を見合わせていると見るべきでしょう。すべては、あくまで国内での権力維持のためなのです。
ところで、先週のメルマガで、中国からのいたずら電話に対して、中国共産党が中国人民にひた隠す事実を電話口でどんどん公表したらいいのではないかと書きましたが、東京都が、中国からのいたずら電話に対して、中国の原発が放出している処理水の現実などを自動音声で流す対応を始めたそうです。
● 東京都庁 中国「86」迷惑電話に自動音声で対応
【関連】中国人からの「迷惑電話」撃退法、効くのは「天安門事件の真実を教える」
素早い対応ですばらしいですね。ついでに、「天安門事件で多くの中国人民が虐殺された事実」などを吹き込めば、なおいいと思います。
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