生理(月経)の話しを家や学校、職場でできますか? 母親や姉妹、女友達とは話せても男性とはちょっと…そう答える女性は多いと思います。言えないから理解もしてもらえない。そんな悪循環におちいってはいませんか?

日本財団が行うアスリートと共に社会課題解決の輪を広げていくことを目的とした「HEROs〜Sportsmanship for the future〜」(以下HEROs)プロジェクト。今回は、一般社団法人「Woman’s ways」代表の潮田玲子氏(元バドミントン日本代表)とそのメンバーである中川真依氏(元飛び込み日本代表)、杉山愛氏(元テニス日本代表)、賛同アスリートである登坂絵莉氏(元レスリング日本代表)、アドバイザーとして日本体育大学児童スポーツ教育学部の須永美歌子教授らが、タブー視されがちな「生理の悩み」について語りあうべく「横浜女学院中学校高等学校」を訪れ、課題解決のためのトークセッションを行いました。

自分のカラダとむきあうきっかけづくりに

女性アスリートたちは生理について、どのような悩みを抱え現役活動を行っていたのでしょうか。潮田さんは「目標に向かってコンディション整えて邁進するアスリートでも、生理についての考えがおろそかだった」と振り返ります。

脳が女性ホルモンの分泌をうながすと卵巣のなかで卵子が育ち排卵されます。それに合わせるかのように子宮内膜が厚くなり、寝床のようなものをつくり受精卵を待ちます。そこで受精すれば子が誕生しますが、受精しなかった場合は子宮内膜が不要となるため剥がれて体外に排出されます。これが生理です。月に1回または2回※、5〜7日にわたっておこります。※25日周期の人は2回くる

生理は始まった日から25日〜31日に1回くると正常です。初めて生理になった後は不順な人も多いのですが、やがて周期が定まってきます。しかし、いつも少量の経血が出て2〜3日で終わる、逆にナプキンが1時間もたないほど出血する、レバー状のものが多すぎる、15歳になっても生理が来ない、生理が3ヶ月以上来ない、月経周期以外に出血があるなど気になる症状がある場合は、迷わず婦人科を訪れましょう。

オリンピック出場前に1年半無月経を経験した登坂さんは、オリンピックが終わり自宅に戻ったその日に始まったそう。「これはメンタルな部分が関係していると思った」と周期の乱れについて考えさせられたそうです。

一方、中川さんは「現役時代は2〜3回くることがあり月のほとんどが生理。それが悪いのか良いのかも分からなかった」と振り返り、「やはりストレスやプレッシャーが原因だったと思うが、婦人科に行けばよかったと後悔している。10代で行くのはハードルが高いかもしれないけれど、不安なことがあれば受診してほしい」と自らの経験を語ります。須永教授は「健康は人生のベース。将来を見据えて婦人科に行く選択をしてほしい。周囲の人の勧めや口コミなどで信頼できる婦人科をさがして」とアドバイス。また、学校でも積極的に評判の良い婦人科を紹介するシステムや心構えを持ってほしいと訴えました。

写真)ディスカッションタイムでは近くに座ったグループの生徒同士で話し合い、アクションシートを挙げ○×で答えた。

ホルモンの影響で感情や体調に波が起こる?

トークセッションの合間に設けられたグループディスカッションタイムに「月経周期が定まっていない生徒はアプリを利用して確認する」などの報告がされました。

月経周期とは、エストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンの分泌によっておこる排卵期・排卵・黄体・月経期という4つの巡りのことです。この女性ホルモンの分泌には波があり、筋肉やカラダの細胞、そして精神面に大きく影響するため、女性トップアスリートの90%がコンディションに影響を感じています。

杉山さんは「生理前はイライラして、始まればカラダが重くパフォーマンスが低下する。軽く感じるときも重く感じるときもあり、その時期に試合があたれば(仕方ない)と受け止めベストを尽くそうと思っていた。逆に生理が終わるとマインドが積極的になるので良い成績がでた」と月経周期にカラダのコンディションが左右されていたことを話し、自身がそれを把握することで克服していたと振り返ります。

これはスポーツ選手にかかわらず関係あることで、会場では80%の生徒が「感じる」と挙手する一方で20%の生徒には影響がないことも分かりました。また、グループディスカッションにおいては「症状といっても痛くなるところも違うし、眠くなる人、イライラする人、暗くなる人と様々」や「自分ではイライラしているつもりはなくても、家族や友人に指摘されることがある」などの意見が発表され、個人差や自覚症状がない場合があることも分かりました。

これら症状の原因は、子宮内膜を剥がすために収縮運動を担うプロスタグランジンが分泌されるためで、これが過剰に出やすい人や子宮や内膜に何らか異常や疾患がある人は痛みをより感じます。また、生理前に調子が悪くなる例としてPMS(月経前症候群)があり、胸が張る、膨満感、水分量が増え体重が変わる。さらには、ネガティブになるなどの感情の変化がおきますが、不思議と月経がはじまる前に治ります。

中川さんはPMSをつよく感じるタイプで、特に北京オリンピックの決勝前にひどい腹痛に襲われた経験から、ロンドンオリンピックではピルを処方したそうです。ところがピルがカラダにあわず筋力が低下。「飛び込み競技は1tほどの水圧を感じるため首の捻挫や肉離れをおこした。ピルについて知識がもっとあればよかったと後悔しています。今はピルも10種類ちかくあるので自分にあうものを選ぶことが大切。ちゃんと理解して飲んで欲しい」と話しました。 

ピルには経口避妊薬だけでなく女性ホルモンの波を押さえる効果等があり、日本では婦人科で処方してもらえます。副作用がでる人もいるため、処方に関してはよく相談する必要があり、学生ならばオフシーズンに試し自分にあった薬を見つけると良いでしょう。

反対にピルを飲んで助かっていたという登坂さんは「レスリングは体重増減が困るので超低用量ピルを処方してもらっていました。試合と生理が重ならないよう、先生にしっかりと相談して自分にあっていた薬を処方してもらいました」と話し、個人差があるので気軽に飲まずに、病院で相談してほしいとアドバイスしました。

相手に生理のことを伝えるためには?

では、このような生理の辛さを周囲の人にどう伝えるのが良いでしょうか。杉山さんは妊娠時の悪阻(つわり)の症状が日によって違い、その違いをご主人と共有する方法として、体調の悪さを1〜10の数字で表しスケーリングして伝えたそうです。これは妊娠時だけではなく生理にも使える技です。

グループディスカッションに参加した男性教員は「男性指導者はセクハラになるんじゃないか?と心配になり、聞きたいけれど聞けないこともある。また精神不調や体調不良はさまざまな要因があるので生理とは限らない。常に気にかけてあげることが大切だと思った」と感想を話すと、「先生から声をかけてもらえることだけで大きい。自分がどうしたら心地よくすごせるのか、月経にかぎらず伝えるべき」といった意見が聞かれました。

今日から取り組めそうなことを、ぜひ実践して

講演に参加した生徒らからは「今回の講演会を聞いて男性教員の方にも生理のことを知ってもらえて良かった。これからは我慢せず相談できそう」や「生理のタイミングは脳から信号がくることとか、経血の量についても勉強になった。これからは異変に早く気がつけそう」また、「ピルのこととか他人と話さないし病院に行くのは抵抗あった。アスリートの方の話を聞いて自分のために我慢せずに行く」といった前向きな意見が聞かれました。

なかには「うちはオープンです。両親ともに「もうすぐ生理じゃない?」と、むしろ自分より父の方が知っていて「今日は生理だからイライラしているんだね」など気を使ってくれる」と打ち明けると、「うちは話せばそっとしておいてくれるけど、言わなくても気遣ってくれるのは羨ましい!」と、生徒同士もトークセッション前より、気がねなく話しができるようになったようでした。

講演後、潮田さんらは「生徒さん達の反応が思ったよりも大きくて嬉しかった。辛さや痛みを我慢せずに話して自分のカラダを大切にしてほしいし、オープンに話しあうことでより良い解決策や新しいニーズが生まれると思う」とインタビューに答え、例えば「月経カップ」や「吸収ショーツ」といった便利な生理用品も活用して、と話しました。