みんなけっこう違反してない?

『機動戦士ガンダム』は、作りこまれた設定と、数多く発表された作品群がお互いを補完する、大河ドラマ的な重厚さを持つ作品です。一年戦争の緒戦で「全人口の半数が死に絶える」ほどの悲惨な戦いが展開された結果、地球連邦とジオン公国は宇宙世紀0079年1月31日に「南極条約」という戦時条約を結びます。

 主な内容は(1)「核兵器及び生物化学兵器の使用を禁止」、(2)「スペースコロニーや小惑星爆弾などの大質量兵器禁止」、(3)「中立地域(サイド6、ジオン公国の支配下にある月面都市グラナダを除く月面都市)の保護」、(4)「木星船団公社所属艦の保護」、(5)「捕虜の人道的扱いなど、待遇への取り決め」です。

 南極条約は「地球連邦とジオン公国の間で結ばれた戦時条約」なので、一年戦争が終結した0080年1月1日時点で失効しているはずですが、その後の作品でも「南極条約が存続している」としか思えない軍備が続けられており、宇宙世紀の基本設定と言える条約となっています。

 詳しく見ていきましょう。

(1)「核兵器及び生物化学兵器の使用を禁止」

 一年戦争の緒戦である「一週間戦争」や「ルウム戦役」で、ジオン軍(恐らくは両軍とも)は核兵器を使用しています。この項目がなければ、宇宙から地球連邦軍本部ジャブローに核ミサイルを放ったり、地球連邦がサイド3のスペースコロニーに核ミサイルを発射したりして、ジオン公国の消滅を狙うことができます。両軍にメリットがあるので合意できたのでしょう。

 なお、ジオン公国はマ・クベが水爆ミサイルを発射させたり、ユーリ・ケラーネがモビルスーツを蒸発させる爆弾を使用したりしていますが、明確に南極条約違反です。そして『機動戦士ガンダム0083』では、ジオン軍のデラーズ・フリートが奪取した、核砲弾を搭載したガンダム試作2号機の攻撃により、地球連邦は宇宙艦隊に大打撃を受けます。

 この作戦を指揮したデラーズは「地球連邦が南極条約に違反して核兵器搭載ガンダムを作った」と批判していますが、厳密に言えば「核兵器の開発」自体は禁止条項ではないので条約違反ではなく、使用したデラーズ側のみ南極条約違反と言えるでしょう(南極条約は一年戦争終結と共に失効しているはずですが、デラーズは「我々はジオン公国で、ジオン共和国を名乗る売国奴が結んだ停戦条約に縛られない」と主張しています)。

 なお、繁殖力の高い植物を繁殖させて地球環境を破壊する、ジオン公国の環境破壊兵器「アスタロス」は、生物化学兵器であり、条約違反と考えられますが、条約には違反しないとの解釈で、秘密裏に開発された兵器です。

 なお、ティターンズが「30バンチ事件」でスペースコロニーへの毒ガス攻撃を行っています。これは「南極条約」が失効しているので、生物兵器の使用が認められたのか、南極条約に準じる戦時国際法のようなものを無視して、使用したのかはわかりません。

 また、ソーラ・レイやソーラ・システムのような大規模破壊兵器は禁止されていないため、実戦に投入されています。

(2)「スペースコロニーや小惑星爆弾などの大質量兵器禁止」

 これがなければ、ジオン側は宇宙要塞アクシズのような、大出力エンジンを備えた小惑星を地球に落とせば、大損害を与えられるでしょうし、連邦も同じような隕石兵器でサイド3を破壊できますから、規制しなければさらに甚大な人的被害が出ていたでしょう。合意できるのはわかります。

(3)「中立地域(サイド6、ジオン公国の支配下にある月面都市グラナダを除く月面都市)の保護」

 この項目により、例えばサイド6は「中立コロニーなので、連邦とジオンの攻撃を受けない」とされています。

 ただ『機動戦士ガンダム0080』の中で、キリングは「サイド6は南極条約を批准していないので、核兵器で攻撃しても、条約違反ではない」と主張します。「中立であるサイド6の保護」が条約内容に入っている以上、サイド6が条約を批准しなくても、明確な南極条約違反であり、不可思議な認識です。

 サイド6は終戦協定の仲介もしていますが、どういった立場なのでしょうか。そもそも、独立を宣言したジオン(サイド3)以外の各サイドは「地球連邦の一部」ですから、連邦が条約を批准すれば、サイド6にも適用されるはずで、キリングの認識は成り立ちません。逆にサイド6が「連邦の一部ではない」という政治的立場を取ったなら、それは「連邦から一方的に独立した」サイド3と同じ「主権国家」となります。

「サイド6」が主権国家なら「スペースノイドの独立」が連邦に認められたことになります。主権国家であるサイド6が、南極条約に批准していないのに「サイド6を含む中立地帯は保護する」という条約内容になるのは、やはり不可思議なのです。

 シャアは「カムランのパトロール艇を傷つけたら国際問題になる」、コンスコンは「戦闘は領空外で行う」と認識していますし「領空内では軍艦の修理を含む一切の戦争行為が禁止され、違反時には大変な罰金が発生する」とのことですから、サイド6は事実上の主権国家なのでしょう。

 恐らく、地球連邦としては「サイド6の独立」は認めたくないので「中立地域」という扱いとし、サイド6自身が条約を批准しない方向性を働きかけたのだと思われます。一方、ジオン公国としては「スペースノイドの代表は自分」という選民意識から、サイド6独立や条約批准を望まなかったのでしょう。

 とはいえ『機動戦士ガンダム0080』では、ホワイトベース入港の一週間後に地球連邦軍が、サイド6のスペースコロニー内でジオン軍と交戦します。「中立地帯の保護」という条約違反に見えますが、恐らく次のように解釈したということなのでしょう。

「オデッサの戦いで連邦が勝利したので、戦争は連邦が勝つとサイド6は判断した。宇宙での大規模戦闘が予想されるので、自衛軍備を整えるために、リーア(サイド6)軍の増強という名目で、連邦軍への協力を依頼した。

 条約違反にならないよう、建前はリーア軍増強とし、秘密兵器アレックスのパイロットにすら、サイド6出身者のクリスを起用した(『0080』劇中で刑事が「連邦軍がコロニーに駐留する名目で、密かにモビルスーツ開発をしたから、サイド6はジオンに攻撃された」とクリスを追求し、クリスが黙秘する場面があります。刑事の認識や『0080』小説版「サイド6と連邦は安保条約を結んでいない」との記述を合わせると「サイド6出身者によるリーア自衛軍で、連邦軍ではない」が建前だったのでしょう)。

 ジオン側を刺激しないために、サイド6の連邦軍は最低限とされ、質で補うために、ジオンがまだ認識しない最新鋭艦「グレイファントム」や「ジムスナイパー2」のような最新鋭モビルスーツが配備された。

 だから、有名な連邦軍艦ホワイトベースがサイド6に入港した際に「もうすぐアレックスが届けられます」とは伝えず、条約を厳しく守らせた。

 サイド6が離反する動きに気づき、中立違反と判断したジオンはサイド6を攻撃、リーア軍+駐留した連邦軍と交戦した。条約違反と判断して腹を立てたキリングは『サイド6は条約を批准していないから、核攻撃していい』と超解釈した」

(4)「木星船団公社所属艦の保護」

 これは(3)とリンクしていると考えられます。連邦とジオンがそれぞれ木星にヘリウム3採取船を出しているなら、お互いの船団を通商破壊するはずです。恐らく、サイド6や月面都市が「木星船団公社」の運営主体であり、だからこそ中立を保証したのではないでしょうか。

 (5)は戦時国際法と変わらないので、省略します。このような「歴史解釈」も『機動戦士ガンダム』の楽しみ方。皆様はどう思われますか。