方向転換が大事!?

「週刊少年ジャンプ」では、これまで数多くのヒットマンガが連載されてきました。そんななかには、打ち切り寸前の不人気状態から、ある方向転換で「逆転」して大ヒットした作品や、アニメ化で一気に人気が伸びた作品もあったのです。

●『遊☆戯☆王』

 今ではアニメやカードゲームが世界的な人気を誇る『遊☆戯☆王』は、連載当初は1話完結式で悪人相手にゲームで勝負していく、ダークファンタジーマンガでした。しかし、9話と10話に「マジック&ウィザーズ」というカードゲームが登場したことが転機となります。

 その後、13話から20話にかけて描かれた「シャーディー編」がミステリーとオカルト要素が強すぎて、作者の高橋和希先生が「いきなり人気は急降下し、打ち切りの話も出る始末、ボク自身が心の迷宮に迷い込んでしまったような焦燥感だった」(『遊☆戯☆王』文庫版2巻のあとがきより)と語るほど迷走したそうです。そして、高橋先生は9〜10話で反響が凄かったカードゲームを、その後の「DEATH-T編」で復活させます。

 このカードゲームは、マジック&ウィザーズの元ネタといえる、トレーディングカードゲームの「マジック・ザ・ギャザリング」が人気になっていたこともあり、中盤以降はカードゲーム中心のストーリー展開となって人気を確立しました。

 そして、この方向転換が「遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム」というオリジナルカードゲームの発表へ繋がり、全世界規模の人気コンテンツへと成長を遂げました。アニメやゲームの人気はもちろんですが、このカードゲームが「世界で最も販売枚数の多いトレーディングカードゲーム」としてギネス認定(2009年)されるほどヒットしたことで、同作はジャンプ史上屈指の収益を上げた作品として認知されています。

 高橋先生は、残念ながら2022年7月に亡くなってしまいましたが、生み出したコンテンツは全世界でこれからも愛されていくでしょう。

●『キン肉マン』

 長年にわたって愛され、現在も「週刊プレイボーイ」にて新シリーズが連載中で、2023年3月に新作アニメシリーズの制作が発表された人気マンガ『キン肉マン』(著:ゆでたまご)も、当初の打ち切りの危機を乗り越えています。今では超人同士がダイナミックなバトルを繰り広げる格闘マンガのイメージが定着していますが、連載当初はテイストが異なりました。

 ウルトラマンのようなヒーローと怪獣が対決する構図をパロディとしたギャグマンガで、人気は徐々に落ちていきます。しかし、ゆでたまごの嶋田先生のインタビューによると、1979年8月のプロレス興行「馬場、猪木vsブッチャー、シン」を見て、第17話にてキン肉マンがテリーマンと組んでアブドーラ&猛虎星人と戦うエピソードを描いたところ、評判を呼んだそうです。

 そして、第28話にて始まった「第20回超人オリンピック編」から超人の数を増やして、格闘路線にストーリーを変更します。さらに、ジャンプ読者に「オリジナル超人」のアイデアを考えてもらい、採用された場合はキン肉マンに登場するという、読者参加型の「超募集」という画期的な方法も話題を呼びました。ここから、ロビンマスクやラーメンマン、ウォーズマンなどの人気キャラが生まれています。

 ゆでたまごの嶋田先生と中井先生がファンレターに返事を書いているのを見て、初代担当編集者である中野和雄さんのアイデアで、この「超人募集」が始まったそうです。

連載最後の1年の伸び率が異常?

●『鬼滅の刃』

TVアニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』キービジュアル (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 コミックスの累計発行部数が1億5000万部(2021年2月時点)を突破し、2020年の『劇場版「鬼滅の刃 無限列車編』は日本歴代興行収入第1位となる404.3億円を記録するなど、歴史的人気コンテンツとなった『鬼滅の刃』ですが、当初は大人気作といえるポジションではありませんでした。ジャンプでの掲載順位も後方が多くなり、当時は「このまま打ち切りにされてしまうのでは?」とネットでも話題になります。

 しかし、『鬼滅の刃』初代担当編集・片山達彦さんのインタビューによると、「『打ち切り寸前』だったことは一切ない」とのことです。後半の掲載順位が続いたこともありましたが、第7話でセンターカラーをもらえるほどには人気が出ており、特にメインとなる炭治郎と善逸、伊之助の3人のバランスが取れ出した時期から、人気が伸びていったと語っています。

 しかし、片山さんも上記のような「社会現象級」のヒットは予想していなかったそうで、やはり2019年4月にアニメ放送が開始されたことが大きな要因となったようです。炭治郎が「ヒノカミ神楽」を初めて繰り出す第19話など、クオリティの高さが話題となり、連載終了後もアニメの人気によって発行部数が増え続け、上記のような大ヒットとなりました。2020年5月に連載は終了しており、短期間で記録的な人気の伸び方を見せています。

 2023年5月現在はアニメ「刀鍛冶の里編」が放送中ですが、完結が近付くにつれ、ファンの間では「最終章はまた劇場版でやってくれるんじゃないか」「『無限列車編』の記録を塗り替えてほしい」と、再度の映画化への期待も高まっています。