仲間たちへの怒りは、仲良くなる通過点!?

『鬼滅の刃』の炭治郎は、心優しい少年です。家族や仲間に対してはもちろん、敵である鬼にすら優しさを見せる炭治郎でも、当然、怒ることはあります。非道な鬼に対して、妹の禰豆子を傷付ける者に対して、そして人を踏みつけにする者に対しても怒りの炎を燃え上がらせるのです。

 かつて、家族を殺され、妹を鬼にされた炭治郎に対して、水柱・冨岡義勇は、「怒れ 許せないという強く純粋な怒りは手足を動かすための揺るぎない原動力になる」と、あえて「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」に始まる厳しい言葉をぶつけました。その義勇の言葉があったからこそ、炭治郎は怒りの気持ちを力に変え、刀を手にして戦えるようになったのです。

 この記事では、普段は温厚な炭治郎が激怒した8つのシーンを厳選してご紹介します。

※この記事には、まだアニメ化されていないシーンについての記載があります。原作マンガを未読の方はご注意ください。

●炭治郎よりも怖い女の子の怒り

 後に親友となる善逸は、しょっぱなから炭治郎に激しく怒られています。

 本部の指令を受けて鼓屋敷へ向かう途中の炭治郎が見たのは、道の真ん中で女の子に無理やり結婚を迫る善逸でした。嫌がっている女の子と困っている善逸の伝令役のチュン太郎のため、炭治郎は善逸を叱りつけ、女の子から引き離します。

 この時点ですでに怒っていますが、善逸が炭治郎を見知った口をきくと、「お前みたいな奴は知人に存在しない 知らん!!」と、さらに怒りを強めました。その気持ちを推し量ると、「自分の知り合いに、そんなみっともなく、残念な行動を取る人はいない、馬鹿にするな!」といったところでしょうか……。

 でも、炭治郎の善逸への怒りはそこまででした。その後は、善逸がからんでいた女の子の怒りがさく裂。彼女は善逸に平手打ちの雨を降らせ、罵倒して去ってしまいます。そして炭治郎は、善逸を「別の生き物見るような目」で見下ろすのでした……。

●人を踏んではいけません!

 山育ちの野生児、伊之助はイノシシに育てられたため、登場当初は人間社会の常識はもちろん、他人への思いやりや心遣いといったものは、ほぼ持ち合わせていませんでした。そのため鼓屋敷では、転んだ少女を踏みつけていてもまったく気にしません。彼女の背中に足をのせたまま、鼓の鬼・響凱の血鬼術で部屋が回ったこと「面白いぜ 面白いぜェ!!」と喜んでいたのです。

 そんな伊之助に炭治郎の怒りが爆発します。「人を踏みつけにするな!!」と叫んで、伊之助をぶっ飛ばし、少女を保護します。響凱との戦いのシーンでも、炭治郎は原稿を足で踏まないようにしており、炭治郎のなかでは、「踏む」ことは、人の尊厳を侵すことと直結しているのではないかと考えられます。一方、伊之助は怒られた意味はもちろん、怒られたことすら分からないまま、炭治郎に戦いを挑んでくるのでした。

●くすぶり続ける怒り

 炭治郎と禰豆子の処遇をめぐって開かれた柱合会議では、ふたりの処刑を求める意見がほとんどでした。鬼化した母を自分の手で殺した過去を持つことから、柱たちのなかでもっとも鬼への憎悪の感情が強い風柱・不死川実弥が箱ごと禰豆子を刺して傷つけた時には、炭治郎は後ろ手に縛られたままにもかかわらず、「俺の妹を傷つける奴は柱だろうが何だろうが許さない!!」と、怒りにまかせて実弥めがけて突進し、頭突きをくらわせたのです。

 一方の実弥は、いくらお館様・産屋敷耀哉が鬼である禰豆子の存在を許しても、それを認めることはできませんでしたし、怒りを抑えることもできませんでした。ギリギリと音が鳴るほど歯を喰いしばり、「人間ならば生かしておいてもいいが鬼は駄目です 承知できない」と言うや、自分の腕を傷つけて流した血を禰豆子の入った箱に落としたのです。禰豆子が実弥を襲えば、そのまま頸を斬って倒すつもりでした。この時、禰豆子は、元水柱であり、炭治郎の育手でもある鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)が彼女にかけた「人は守り助けるもの 傷つけない 絶対に傷つけない」という暗示によって、血の誘惑にも打ち勝ちましたが、炭治郎の心の中にも、実弥の心の中にもお互い怒りはくすぶったままになったのです。

腹の底まで渦巻いた無惨への厭悪 著:吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第22 巻 (集英社)

鬼たちへの怒り 怒りを力に!!

●狂気を感じるシルエット

 炭治郎が最初の任務で対峙した沼鬼は、3体に分かれ、地面や壁などに潜ることができる特殊な能力を持つ鬼です。女性は16歳を過ぎると味が落ちるという自説を主張して若い女性ばかりを襲い、喰らっていました。

 そして、炭治郎と禰豆子によって追い詰められてなお、「女共はな!! あれ以上生きていると醜く不味くなるんだよ だから喰ってやったんだ!! 俺たちに感謝しろ」と身勝手なことを言う沼鬼に炭治郎は怒り心頭に達します。

 この時の炭治郎の姿は、原作マンガとアニメでは異なっています。原作マンガの方は、黒いシルエットに丸い無機質な目だけが描かれ、いつもの優しい炭治郎とは違い、狂気すら感じさせるのです。炭治郎の心に大きな変化が生じた瞬間だと言えるでしょう。

●真の家族の絆

 下弦の伍・累は、彼が作った疑似家族とともに那田蜘蛛山に住んでいました。累にとって大切なのは、自分の思い描いたとおりになる「家族」であり、「家族の絆」への憧れが人一倍強かったようです。

 しかし、累が力や恐怖で疑似家族の鬼たちを力で支配しているのを知った炭治郎は、「強い絆で結ばれている者は信頼の匂いがする だけどお前たちからは 恐怖と憎しみと嫌悪の匂いしかしない」「お前の絆は偽物だ!!」と断言するのでした。

 炭治郎も累も、家族の絆をとても大切にしていますが、その根本は大きく違っています。あくまでも自分が中心であり、自分を大切にしてくれる家族を望む累とお互いを労り信頼し合う炭治郎。それでも恐怖の絆で家族は作れるという累に禰豆子を欲しいと言われ、炭治郎はついに怒りで「ふざけるのも大概にしろ!!」と声を荒げるのでした。累は気付けませんでしたが、家族のことを自分のこととして怒れるのも絆の深さゆえのことなのです。

●「にげるな 卑怯者!!」

 無限列車での下弦の壱・魘夢(えんむ)との戦いを制した後、突然、現れたのが上弦の参・猗窩座です。100年以上の時間を鍛錬と戦闘に費やし、「至高の領域」を目指している猗窩座は、炎柱・煉獄杏寿郎に致命傷を負わせますが、日の出が近いことに気付き、日光を避けるため逃亡します。

「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」という母の言葉を守り、無限列車の乗員乗客をひとりも死なせることなく守り切った杏寿郎の戦いぶりと生き様を目の当たりにした炭治郎は、逃げる猗窩座の背に向かって叫びます。「逃げるな 卑怯者!!」と。

 この時、炭治郎を突き動かしていたのは、怒りです。鬼と戦う場合、人間は圧倒的に不利なのは明白です。鬼は手足を失っても再生しますが、人間は手足を失えば二度と元には戻りませんし、大けがを負えば、死に至ることもあります。その上、鬼に合わせて、太陽の出ていない夜間に活動を強いられるのです。炭治郎の叫びは、負け惜しみかもしれませんが、圧倒的不利な状況であるにも関わらず杏寿郎が猗窩座からも、魘夢からも乗客を守りきったことを考えると、けっして嘘ではありません。この時の怒りと杏寿郎の言葉が、その後の炭治郎にとっての大きな支えとなりました。

●鬼をゾッとさせる、すさまじい怒り

 刀鍛冶の里を襲撃した上弦の肆・半天狗は、追い詰められるほどに強い分裂体を生み出す血鬼術を使う鬼です。自分は弱者であり、悪いのは全て自分以外だとする責任転嫁が激しく、人間だった頃も卑怯で卑劣で、虚言や盗みを繰り返していました。

 恋柱・甘露寺蜜璃とともに半天狗と戦うも、あと一歩というところでなかなか倒すことができません。自分の罪を決して認めず、逃げ続ける半天狗に炭治郎の怒りは頂点に達し、大けがをしながらも目をむいて、「逃がさないぞ… 地獄の果てまで逃げても 追いかけて頸を斬るからな…!!」と言い、鬼である半天狗をゾッとさせるのでした。

 最終的に半天狗を倒すには、禰豆子の命をも危険にさらすことになりましたが、それでも禰豆子に背中を押されて辛勝した炭治郎の卑怯で卑劣な鬼への怒りのすさまじさを感じるエピソードです。

●腹の底から渦巻く厭悪

 鬼の始祖・鬼舞辻無惨との最終決戦で、無惨と対峙した炭治郎は、「お前たちは生き残ったのだから それで充分だろう」「私に殺されることは大災に遭ったのと同じだと思え」「鬼狩りは異常者の集まりだからだ」など、無惨の勝手極まりない理屈を聞き「腹の底まで厭悪が渦をまいた」感覚を初めて味わいます。そして、「無惨 お前は存在してはいけない生き物だ」と、あらためて無惨を倒さなくてはいけないと心に違うのでした。

 家族を殺された怒り、禰豆子を鬼にされた怒り、そして仲間である鬼殺隊士たちを殺された怒り、そのすべてを力に変えて、これ以上、鬼のせいで悲しむ人が生まれないよう、炭治郎はすべての力を出し切って戦います。

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 怒りにも、さまざまな温度のものがあり、相手との関係性や思いの強さで怒りの種類が変わっていることが分かりますね。

※禰豆子の「禰」は「ネ」+「爾」が正しい表記
※煉獄の「煉」は「火+東」が正しい表記