炎柱・煉獄杏寿郎の「上司」としての魅力とは!?

 TVアニメ『鬼滅の刃 無限列車編』の放送が終わり、何度目かの「煉獄さんロス」で胸を痛めている方も多いのではないでしょうか?

 鬼殺隊は、産屋敷家の代々の当主を頂点に、最前線に立つ幹部クラスの「柱」、10段階の階級に分けられた一般の隊士たちによって構成されている組織です。柱たちは個性的な強者ぞろいで、一般隊士たちにとっては怖れ、尊敬する上司でもあります。

 完全な実力主義の組織において、代々炎柱を輩出しているのが煉獄家であり、煉獄杏寿郎も炎柱になるべく鍛錬を重ねてきました。幼くして母を亡くし、元炎柱の父が突然、刀を置き、稽古をつけてくれなくなっても、母との「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務です」という言葉を守って、炎柱に上りつめたのです。

 炎柱・煉獄杏寿郎は、原作マンガでも劇場版でもTVアニメでも、見れば見るほど、ほれぼれするような立派で素敵な「柱」です。個としての彼については、炎の化身のような個性的な風貌や独特な会話のスピード感に好き嫌いがあるかもしれませんが、鍛え抜かれた技と肉体、そこに宿る健やかな精神と揺るぎない信念、常に前向きで明るい性格など申し分ない人物と言えるでしょう。そして、「柱」としての煉獄さんは、統率力、指示のスピードや的確さ、圧倒的な強さだけでなく、優しさや思いやり、心の強さを見せました。彼の戦いぶりと生き様は、炭治郎たちに多大な影響を与え、彼らを大きく成長させたのです。

 この記事では、炎柱・煉獄杏寿郎の「素敵な上司らしさ」を感じられる5つのシーンをおさらいします。

●面倒見の良さ

 無限列車内で煉獄さんに「ヒノカミ神楽」について質問した炭治郎でしたが、「『ヒノカミ神楽』という言葉も初耳だ!」と、サクッと話を打ち切られてしまいます。そして唐突に「俺の継子になるといい 面倒を見てやろう!」と勧誘したかと思うと、炭治郎の返答も聞かないまま、呼吸の派生について話し始めるのでした。さらに話は、刀の色についてに飛び、「黒刀の剣士が柱になったのを見たことがない!」「さらにはどの系統を極めればいいのかもわからないと聞く!」と、黒刀を持つ炭治郎を悲しませたあげく、「俺のところで鍛えてあげよう もう安心だ!」と、継子の話に戻るという、煉獄さんならではのせっかちなスピード感で展開されています。

 若干、独特の巻き取り感もありますが、まだ迷い多き若者を導き、自分の手で一人前にしてやろうという、「俺についてこい!」的な体育会系上司の匂いを感じるシーンです。

 『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』によると、面倒見が良いのに継子がいない理由については、「稽古がつらすぎてみんな逃げたからです」とされており、継子になってからの大変さをうかがい知ることができます。

 ところで、炭治郎の当初の目的の「ヒノカミ神楽」についての質問ですが、ここで話は打ち切られたのではありませんでした。無限列車で昔の夢を見て、煉獄家に伝わる歴代の炎柱の手記のことを思いだし、それを読むといいと教えてくれています。部下の相談ごとをその場限りのものとせず、ずっと心に留めておいてくれ、なんらかの答えやアドバイスをくれようとする上司は、ありがたく、頼りになる存在と言えるでしょう。

●さすがの統率力! ピンチでも明るく、素早く、的確な指示

 下弦の壱・魘夢(えんむ)の血鬼術によって眠らされていた煉獄さんは、目覚めるや否やその状況に「よもやよもやだ」と驚き、「柱として不甲斐なし!! 穴があったら入りたい!!」と嘆きつつも、落ち込む様子はなく、笑顔ですら見せています。ピンチの状況でも明るいのは、もともとの性格もあるでしょうが、自分の腕への自信から生まれるものもあるのでしょう。

 そして炭治郎の前に現れた時には、すでに全体の状況を把握しており、各自の担当を具体的に指示し、炭治郎の疑問もクリアにして、あっという間に去ります。その明確な指示のおかげで炭治郎も自分のやるべきことに集中でき、結果的に魘夢を倒すことができたのです。

 ピンチの時にこそ状況把握をしっかりし、メンバーのレベルに合わせて仕事を具体的に割振りし、的確な指示とアドバイスができるというのは、「できる上司」の基本と言えます。寝起きにそれをこなし、あの俺様キャラの伊之助にまでその統率力を「すごい」と感じさせる煉獄さんは、やはりとびきりに素敵な上司です。

●教え上手で褒め上手

 魘夢の頸を斬り、無限列車を止めることができた炭治郎でしたが、伊之助をかばい、魘夢の手下になっていた乗務員に刺された傷の痛みで動けずにいました。そこに来た煉獄さんは、全集中の常中ができていることを褒めたあと、腹部からの出血を止める方法を炭治郎に教えます。その教え方がとてもうまいのです。長くダラダラ説明するのではなく、「そこだ 止血 出血を止めろ」「集中」といった短い言葉でポイントだけを伝えるというのは勉強でも仕事でも、指導する際には非常に有効だと言われます。

 そして、指導どおりにできた時に笑顔で誉めることもマストです。成功体験の積み重ねが部下を成長させます。普段がキリリとした煉獄さんですから、笑顔のインパクトは絶大ですね。

 さて、名言の多さからファンの間では、「名言製造機」と呼ばれる煉獄さんですが、ここでも上司として、若者に力を与える名言が登場します。「呼吸を極めれば様々なことができるようになる 何でもできるわけではないが 昨日の自分より確実に強い自分になれる」

●けっしてブレない信念を体現する

 初対面で煉獄さんの強さを認識した猗窩座は、あろうことか不老不死で鍛錬し続けられる鬼にならないかと誘います。その言葉に煉獄さんは静かに「老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ」「老いるからこそ 死ぬからこそ 堪らなく愛おしく尊いのだ」と答えます。「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」という信念は、上弦の鬼を前にしてもけっしてブレません。

 そして、炭治郎を弱者と決めつけ、話の邪魔になるからといきなり殺そうとした猗窩座に対し、煉獄さんは、「強さというものは肉体に対してのみ使う言葉ではない」と、「この少年は弱くない 侮辱するな」と言い切るのです。さらに、死闘の最中にあっても、加勢しようという動きを見せる炭治郎を「動くな!! 傷が開いたら致命傷になるぞ!! 待機命令!!」と一喝。柱として、部下を見守る姿勢は変わりません。

 部下から好かれる上司とは、信念を持って自分を磨き続け、信念を体現している人です。煉獄さんはまさにこのタイプで、炭治郎ら部下に対する愛情があるのはもちろんのこと、組織や部下を育てることを考え、自身も常に向上心を忘れず、責務を全うしようとします。そのブレない信念や深い思いが伝わるからこそ、炭治郎や伊之助はもとより読者、視聴者も心をつかまれるのです。

●命がけで守ってくれる! 信じてくれる!

 煉獄さんは、自らの責務を全うし、命をかけて乗客全員と炭治郎ら若い隊士を守りました。嫌いな上司の例としてよく挙がる、「部下に責任を押し付けて逃げる上司」とは大違いです。仮に大きな失敗をしたとしても、煉獄さんが上司なら、失敗を責めず、その後の糧にできるよう、きっと前向きに指導してくれるでしょう。

 そして、煉獄さん自身も自分の意見が間違っていたと思った時には、それを認め、撤回しています。柱合裁判では禰豆子の処遇について、炭治郎と一緒に斬首すべきだと言っていましたが、無限列車で乗客を守るために戦う禰豆子の姿を見て、禰豆子を「信じる」と言い、彼女を鬼殺隊の一員として認めるのです。

 さらに、「己の弱さや不甲斐なさに どれだけ打ちのめされようと 心を燃やせ 歯を喰いしばって前を向け」と、部下たちが前を向いて生きていくための言葉を残します。その根底にあるのは、彼らを信じる心。絶対的な信頼は、人を強くし、成長させてくれます。煉獄さんは、最後にその成長の糧を部下たちに残してくれたのです……。

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「無限列車編」には、鬼を倒した煉獄さんを炭治郎、伊之助、善逸の3人が「兄貴」と呼びながら回るシーンがありました。夢の中の笑える1シーンですが、繰り返し見ていると、これが現実であれば……と思わずにはいられません。

※煉獄の「煉」は「火+東」が正しい表記
※禰豆子の「禰」は「ネ」+「爾」が正しい表記