圧倒的筆致の『ジョジョ』を週刊連載で15年……

 漫画家に限らず「書く(描く)仕事」は基本、納期や締め切りに追われるものというイメージがあります。若かりし藤子・F・不二雄先生が自分のキャパシティを超えた量の仕事(連載8本)を引き受けてしまい、結果としてほとんど間に合わずに業界を一時期干されてしまったなどの話も有名です。

 ところが、そんな締め切りもなんのその、尋常じゃないスピードで原稿を仕上げてしまう先生もいるのです。この記事では、どう考えても真似できそうにない、天才的な執筆スピードを持つ先生たちを紹介します。

●『ジョジョ』の荒木飛呂彦先生は岸辺露伴より描くのが速い?

『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生の速筆ぶりは、ファンのあいだでは有名な話です。『ジョジョ』の巧緻なストーリー、細かな描写やセリフ回しなどは、相当な計画を練って描かねば成り立たないはずですが、荒木先生は同作を1987年の第1部連載開始から2004年第7部途中まで、休載を挟みながらも15年以上週刊連載していました。

 さて、その執筆スケジュールをまとめると、インタビュー時期によって若干答えが異なりますが、まずマンガの土台となるネーム(コマ割や構成)をわずか6時間で完成させ、その後、アシスタントさんたちと「ワイワイガヤガヤ」楽しく筆を入れ、原稿自体はなんと3日間で出来上がってしまうとのことです。

 徹夜はせず、それでいて週に2日は休みというスケジュール。ちなみに『ジョジョ』4部に登場する漫画家、岸辺露伴も超人的な執筆速度でしたが、それでも「原稿完成までに4日はかかる」と語っているので、作者がマンガを超えてしまっていることになります(とはいえ、露伴先生はアシスタントを雇っていませんが)。

 荒木先生は還暦を超えても、月刊誌「ウルトラジャンプ」にて、相変わらずの緻密な筆致で『ジョジョ』を描き続け、今年2022年には第9部の連載が始まります。

伝説的速筆で有名ななもり先生のレアなラフ画やネームがまとめられた「なもりラフ画集 ふわなもり」(一迅社)

ギネス記録を持つ昭和の大作家

●『ゆるゆり』作者は速筆エピソードの見本市 「4人いる」という噂も

『ゆるゆり』などの作品で知られる、なもり先生の速筆ぶりはたびたびSNSで話題になります。「コミック百合姫S」最終号では季刊とはいえ一挙に100ページ掲載したり、『ゆるゆり』のコミックス4巻限定版ではなんと1万回ものサインを直筆したり、そのサービス精神で多くのファンを驚かせました。

掲載誌が隔月の「コミック百合姫」に移籍してからも筆は加速し、掲載誌が2回刊行されるスパンにおいて、単行本を3冊刊行(うち1冊は完全描き下ろし)。これには担当者も、「なもりは4人いるだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない」と異例のコメントを寄せています。またニコニコ生放送では、実際にイラストを描く配信を敢行しました。生きる伝説として、今なおたぐいまれな速筆ぶりを誇っています。

●おそらく世界最速?天才・石ノ森章太郎の絶対に真似できぬ速筆伝説

『仮面ライダー』『サイボーグ009』など超ド級の傑作を世に送り出した偉人、石ノ森章太郎先生こそ、前人未到の速筆伝説の持ち主です。

「ひとりの著者が描いたコミックの出版作品数が世界で最も多い」というギネス記録を保持する石ノ森先生は、60歳で亡くなられるまでに770もの作品を世に送り出しており、2006年に刊行開始された『石ノ森章太郎 萬画大全集』は総ページ数12万8000ページに及びます。多忙を極めた時期には月600枚ほどの原稿を執筆しており、アシスタントの証言によれば机に座った瞬間からペンが止まることなく、どんどん原稿が上がっていったとのことです。さらにその間に育児もしていたというのですから、もはや常人では想像すら及ばぬ領域です。

 当然のことながら、いくら仕事が早くとも、質が伴わなければプロではありません。今回ご紹介した先生は扱っている題材こそ違いますが、それぞれのジャンルの第一人者であり、また先駆者でもあるプロ中のプロ。そして何より、描きながら新たな可能性(遊び方)も模索し続けている天才でもあるのです。