幅広いキャラを演じきる幅広い匠の技

 1月15日は2015年に亡くなった声優・俳優の大塚周夫(おおつか・ちかお)さんの御命日です。あらためてご冥福をお祈り申し上げます。そこで亡き大塚さんを偲んで、その代表作の数々を振り返ってみましょう。

 もともとは俳優として主に舞台で活躍、テレビ放送が始まった頃から本格的な活動を始めた大塚さん。そんな時、たまたま見た映画に出ていたリチャード・ウィドマークの芝居に感銘を受け、その芝居を研究した大塚さんは直接、テレビ局に出向いてウィドマークの吹き替えを談判したそうです。その熱意からウィドマーク役を手にし、以降は担当声優をものにしていました。

 こういった前歴をご紹介すると分かりますが、大塚さんは俳優としての活動も多く、数々のドラマにも出演しています。NHK大河ドラマにも13本出演していました。しかし、さまざまな事情から『踊る大捜査線 秋の犯罪撲滅スペシャル』(1998年)を最後に俳優活動をやめて、声優活動に専念するようになったそうです。

 そんな大塚さんがアニメ声優として参加した作品は、日本初の連続TVアニメ作品の『鉄腕アトム』(1963〜1966年)からでした。つまり大塚さんは、日本のTVアニメ黎明期から活躍したレジェンドと呼べる声優のひとりと言えます。

 大塚さんと言えば、得意分野のキャラにさまざまなパターンがあり、そのどれもがはまり役だと思わせる存在感でした。

 たとえば、絶対的な強さを持っているというラスボス存在として、『バビル2世』(1973年)のヨミ、『ガンバの冒険』(1975年)のノロイ、『ドラゴンボール』(1986〜1989年)の桃白白、『仮面の忍者 赤影』(1987年)の甲賀幻妖斎、『デジモンアドベンチャー』(1999年)のピエモン、アポカリモンなど、視聴者に半端ないほどの恐怖感を与える悪役を多く演じています。

 その真逆な存在の悪役として、『チキチキマシン猛レース』(1970年)のブラック魔王、『超人戦隊バラタック』(1977年)のゴルテウス司令官、『名探偵ホームズ』(1984年)のモリアーティ教授、『ソニックX』(2003年)のDr.エッグマンなど、途中までうまくいっても最後に主人公に負けるというコメディ色の強い悪ボスも演じていました。

 もちろん悪役だけでなく、『ルパン三世(第1作)』(1971年)の十三代目 石川五ェ門といった強面だけど頼りになる仲間も演じていますし、『燃えろアーサー 白馬の王子』(1980年)ではボスマンという味方側のコメディリリーフの少年を担当するなど、どんな役柄でもキチンとはまる実力の持ち主だったと思います。

 時代が平成になる頃くらいから、年齢に合わせた威厳のある初老の男性を演じることが増えました。『装甲騎兵ボトムズ ザ・ラストレッドショルダー』(1985年)のヨラン・ペールゼン、『美味しんぼ』(1988〜1992年)の海原雄山、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(1991〜1992年)のエイパー・シナプス『機動戦士ガンダム00』(2007〜2009年)のイオリア・シュヘンベルグなどです。

 一方、親しみやすいタイプの『忍たま乱太郎』(1993年〜)の山田先生(山田伝蔵)や、『釣りバカ日誌』(2002年)のスーさんこと鈴木一之助なども演じており、どんなキャラにも命を吹き込む匠の技の持ち主でした。

『ゲゲゲの鬼太郎(第1作)』ねずみ男役 画像は『妖怪ワンダーランド ねずみ男の冒険』(著:水木しげる/筑摩書房)

想いと努力が、ねずみ男を万人に知られるキャラに押し上げた

 そんな大塚さんの代表作であり、自身も気に入っていたキャラが『ゲゲゲの鬼太郎(第1作)』(1968年)のねずみ男だったそうです。

 キャラとしての知名度はもはや説明の必要がないほどで、状況によって敵でも味方にもなるという裏切者の代名詞のような存在。そのキャラを第2作まで演じていたのが大塚さんでした。

 大塚さんも初めて演じた時にはキャラ作りに苦労して、レギュラーだった鬼太郎役の野沢雅子さん、目玉おやじ役の田の中勇さんが同じ劇団だったことから、相談しながらキャラ作りしたそうです。ねずみ男がたまにオネエ言葉になるのは田の中さんからのアドバイスで、セリフの印象を和らげる効果がありました。以降、たびたび大塚さんの得意技のひとつとなったオネエ言葉は、このねずみ男がきっかけで誕生したと言っても過言ではありません。

 ねずみ男は、大塚さんが普段の音域でなくハイトーンで演じていましたが、それを維持するのは大変だったようで、収録の際にたびたび「熱い」と言って頭をさすっていたそうです。

 それだけの苦労があったことから、ねずみ男役には絶対の自信があったようで、第3作で降板した時はショックを受けたそうです。しかし、それを引きずることなく、後任のねずみ男役になった富山敬さんや高木渉さんにエールを送っていたそうです。

 そして、自身も4作目、5作目で新たに白山坊役として『ゲゲゲの鬼太郎』に参加しました。ちなみに、この白山坊は6作目で前述の高木さんが演じていますが、これはプロデューサーに直談判したというエピソードがありました。

 大塚さんもメインがオリジナルキャストとなった『墓場鬼太郎』(2008年)で久々にねずみ男役に復帰。この前年のNHK特番でもねずみ男の声を演じるなど、トータル本数ではもっともねずみ男を演じた声優になります。

 大変、芸の道には厳しく、独自の哲学のような生き方を良しとしていた大塚さんは移動に車を使わず、いつも電車で移動していました。その合間に電車に乗っている人たちを見て、自身の芸に生かしていたそうです。人間観察が趣味と言っていたそうですが、常にストイックに芸の道に精進したいたことがわかるエピソードでしょう。

 そして、亡くなった時は地下鉄車内だったそうで、最後の一瞬まで芸のために人間観察をしていたと考えると、その心意気に敬服するばかりです。享年85歳でした。

 もう二度と新しいお声は聞くことはできませんが、これまでに残してくれたキャラたちの声を聞くことは可能です。先日、1000回の記念放送だった『ONE PIECE』(1999年〜)のオープニングナレーションでは、大塚さんの演じたゴール・D・ロジャーがライブラリー出演を果たしました。ゲームでも以前に録音したものを再度使用した新作も多く世に出ています。

 こうやって大塚さんの残した声が新しく製作された作品に使用されることで、その魂は消えることはないでしょう。その機会は少ないかもしれませんが、これからもどこかで聞けることをいちファンとして願っています。