閃光のなかに消えた「和平」

 42年前の1980年1月19日は『機動戦士ガンダム』の第42話「宇宙要塞ア・バオア・クー」が放送された日です。ア・バオア・クーとは、ふたつの小惑星を結合し、ジオン公国の本拠地であるサイド3を守る最重要拠点に配置された宇宙要塞で、名前の語源は1957年に発表された『幻獣辞典』に登場する「ア・バオ・ア・クゥー」という名の幻獣とされています。

「ア・バオ・ア・クゥー」は中国もしくはインドにあるとされるチトールの地に立つ「勝利の塔」を住処にしているため、杖のようにも見えるア・バオア・クーもその名にあやかって名付けられたのではないでしょうか。

 さて、宇宙要塞ソロモンを攻略し、ララァのエルメスを始めとするキシリア艦隊による攻撃もしのいだ地球連邦軍でしたが、そこにジオン公国公王のデギン・ソト・ザビが和平の提案に現れ、いったん侵攻を停止します。

 しかし、そこに撃ちこまれたのは、コロニーレーザーでした。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場したシーマ・ガラハウ中佐の故郷でもあるサイド3のスペースコロニー「マハル」を改造して作られた超巨大レーザー砲の直径は6.5km。

 ギレン・ザビの命令によって放たれた一撃は地球連邦軍の総司令官レビル将軍とデギン公王、そして地球連邦軍の第一大隊を飲み込み、閃光のなかへと消し飛ばしたのです。勝利のため、そして自身の権力掌握のためなら父親でも殺すギレンの非情さが生み出した光景は、直撃を免れたホワイトベース隊の面々を戦慄させるものでした。

 アムロはコロニーレーザーの光を「あれは憎しみの光だ」と語っていますが、自身をヒトラーの尻尾と揶揄されたギレンの、デギン公王に対する憎しみを感じ取っていたのでしょう。

 実は、地球連邦軍はソロモン攻略後に再編成を行なっており、生き残った艦隊とモビルスーツは3個大隊に分けられていました。コロニーレーザーによって消滅したのは第一大隊の一部で、総戦力の30%ほど。また移送中のソーラー・システムもこのとき失われたため、ア・バオア・クー攻略戦に使用されることはありませんでした。

 なお、このときギレンはデギン公王を確実に殺害するため意図的に照準をずらしており、最も効果的に使用した場合は総戦力の50%を破壊可能だったとされています。ギレンの個人的な野望が、ジオンをより確実な敗北へと導いたのは皮肉と言えるかもしれません。

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「ジオングの性能は100%出せます!」

 レビル将軍を失った地球連邦軍でしたが、ここで引き返すことは不可能でした。このときコロニーレーザーは試作段階で一度しか使えない状態でしたが、時間をかければ再度発射可能になる可能性があるためです。後退して再編成をしている間にコロニーレーザーが完全実働に入れば、ア・バオア・クーにたどり着くことすらままならなくなります。無理をしてでも前進するしかありませんでした。

 そして、ア・バオア・クーにたどり着いた連邦軍は総力を挙げて出撃します。対するギレンは、ア・バオア・クー要塞とドロス級大型空母「ドロス」「ドロア」と多数のモビルスーツと戦闘機を繰り出し迎え撃ちます。ギレンの戦術指揮は際立っており、連邦軍は投入した戦力を次々と失っていきました。さらにア・バオア・クーにキシリア・ザビと旗下の戦力も到着。これでジオンはさらに有利となる……はずでした。ギレンがキシリアに殺されるまでは。

 キシリアとともにア・バオア・クー入りしたシャアは、ガンダムとの戦いでダメージを被った専用ゲルググの代わりに、試作型モビルスーツ「ジオング」を受領します。このとき脚がついていないことを不審に思ったシャアに、技術者は「ジオングの性能は100%出せます!」と断言し、シャアも「信じよう」と手を振りながらコクピットへと搭乗しました。

 なお、このときの技術者はマンガ『機動戦士ガンダム C.D.A. 若き彗星の肖像』に登場し、「実は脚は重要だった」という趣旨の発言をしています。

 両軍入り乱れる激戦が続くなか、出撃したシャアはジオングでの初出撃でサラミスを次々と撃沈し、ニュータイプの萌芽を示します。そしてガンダムはハイパーバズーカとガンダムバズーカを携えた姿で現れ、もはや分かつことはできない因縁で結ばれたふたりの男の戦いが始まるのでした。