そもそもジオン・ダイクンは「暗殺」されたのか?

 人気アニメ『機動戦士ガンダム』には、スペースコロニー国家「ジオン公国」が登場します。これは月の裏側にあるスペースコロニー群「サイド3」の議長であったジオン・ズム・ダイクン(以下ダイクン)の名前を取った国家です。

 ダイクンが議長であった「ムンゾ自治共和国」は、宇宙世紀0068年にダイクンが病死(暗殺説もあります)したことで、ダイクンの側近デギン・ソド・ザビが権力を掌握。デギンを「公王」とした「ジオン公国」に移行します。ジオン公国は地球連邦との対立路線を歩み、宇宙世紀0079年に始まったのが『機動戦士ガンダム』の「1年戦争」です。

 宇宙世紀0068年・サイド3「ムンゾ自治共和国」の議長であるダイクンは、演説の場で、倒れます。側近のデギンはダイクンの愛人(苗字が同じなので後妻かもしれません)アストライアに「議長は突然心臓の発作を起こされました。ダイクンの最も古き同志として、このデギン・ザビ、一族を挙げてお仕え申しあげます」と発言します。

 デギンの発言に対し、もうひとりの側近であるジンバ・ラルはアストライアに「ザビ家がダイクン暗殺の下手人。サスロ・ザビ辺りが毒を持ったのです」と主張します。

 しかし、筆者は、ダイクンは病死と推測します。冨野監督は「ダイクンはデギンに暗殺された」と小説『密会 アムロとララア』で書かれていますが、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を手掛けた安彦良和総監督は「(ダイクンが)暗殺されたという設定だと、ザビ家は政権を乗っ取った悪役だという勧善懲悪ものになってしまう。それはガンダム的じゃない」として、病死のように描いています。

 もし、ザビ家がダイクンを暗殺した当事者なら、ダイクンの遺児であるキャスバル、アルテイシアも計画的に確保、あるいは暗殺するはずです。しかし、あっさりと政敵・ラル家に確保されています。これは違和感があります。

 デギンがキャスバルたちを保護・後見する形にせよ、後々で暗殺するにせよ、ダイクン一家の確保は正当性担保に必要でしょう。ザビ家はサイド3のメディアと軍事力を握っており、サスロ・ザビは「ダイクンの死を連邦の暗殺と思わせる世論調査」を行っていますから、権力を奪うための計画的暗殺なら、ダイクン一家も「連邦の暗殺」として消せば、後顧の憂いはなかったでしょう。

 しかし、事実としてダイクン一家を乗せた車が群衆に取り囲まれているときに、現れたキシリア・ザビはランバ・ラルに力を貸して、脱出させています。キリシアは兄のサスロに「ランバ・ラルごときと(ダイクン一家の)三人を奪い合うのも大人げない」と発言し、叱責されていますが、ダイクンの死が暗殺ではないからこうなるのだと解釈できます。
 ダイクンは過労であったことが描かれており、筆者は「過労死」と考える次第です。

時代に翻弄されたジオン・ズム・ダイクンの子供たち、のちのシャア・アズナブルとセイラ・マスが描かれる『機動戦士ガンダム THE ORIJIN』第9巻(KADOKAWA)

もしダイクンが長生きしていたら…

 もし、ダイクンが長生きしたら、どうなったでしょうか。

 ダイクンは演説準備のなかで、アストライアに「この演説は自治権拡大ではなく、地球圏に住む者たちへの宣戦布告」「私は明日、ゴルゴダの刑場へ曳かれるんだ。そして十字架の上から、世界に告げるんだ。ガイアの怒りに触れた罪深い者たちはまもなく業火に焼かれ死滅する」と発言しています。

 安彦総監督が言及されている通り、『ORIGIN』でダイクンの解釈が変更されていますが、それまでは「ダイクンは平和主義者で、権力を奪ったザビ家が軍事独裁国家にした」という解釈が主流でした。『ORIGIN』ではダイクンは「宣戦布告」と感じています。映像作品が公式と解釈すべきでしょうから、ダイクンは平和主義者ではないのでしょう。

「宇宙世紀0058年にダイクンがサイド3を独立させた。0062年に国防隊が国軍に格上げされた」という設定もあります。一方『逆襲のシャア』でキャスバル(シャア)は「スペースノイドの自治権を地球に要求したときに、父ジオンはザビ家に暗殺された」との発言がありますが、ダイクンの死は0068年です。つまり0058年に独立宣言をしたものの、連邦に承認されず、より強いメッセージを0068年に発しようとしたのでしょう

 なおダイクン死去の直後に、タチがランバを「大尉」と呼んでおり「0062年に国防隊を国軍に昇格させた」ことは間違いないでしょう。つまり、ダイクンの「独立運動」も、平和主義ではなく、軍事的な裏付けを得たものです。キャスバルは『逆襲のシャア』で「父・ジオンの元に召されるであろう」と演説を終えていますが、その後の行動は小惑星アクシズを地球に落とす作戦です。ダイクンが平和主義者なら、父に反する作戦と止めたでしょう。

 一方、デギンは軍事力に抑制的で、反連邦の騒乱を煽る息子のギレンに「騒乱を沈めろ。コロニー国家が連邦に勝てるわけがない」と命じたほどです。デギンは国名を「ジオン」に改める人ですから、ダイクンに一定の敬意を持っていたとも考えられます。

 上記から考えると「先鋭的改革思想を打ち出そうとするダイクンを、現実主義で腹芸ができるデギンが抑え、それを政敵のジンバが『ダイクンの思想を妨げようとしている。デギンはダイクンの権力を狙っているのだ』と対立する」となりそうです。

 ただし、ザビ家は軍事力とメディアを握っており、ジンバが主導権を握るのは難しいでしょう。ダイクンに近づくのは、急進的改革思想が同じギレンだと思います。

 一方、ダイクンの息子であるキャスバルは、通っていた学校の校長に「明晰な頭脳、鋭い感性、類いまれな素質を持った人物」と評され、実際、シャア・アズナブルと呼ばれた後の時代ではパイロットとしても、指揮官としても、政治家としても成果を上げた優秀な人物ですし、『ORIGIN』のなかで、ガルマ・ザビに「自分の手で歴史の歯車を回してみたくないのか」と反乱を焚きつける性格です。ギレンがダイクンへの影響を強めるなら、成長したキャスバルは対抗上、デギン、ドズル、ガルマを影響下に置こうとするでしょう。

 ドズルとガルマは優秀な人物を素直に認める性格をしていますから、優秀なキャスバルが主君なら心酔したと考えられます。謀略好きなキャスバルですから、妹のアルテイシアを同世代のガルマと婚約させ、取り込むでしょう。美しい妹とその婚約者はプロパガンダで活躍したはずです。

 ただ、誰が指導者でも、30倍の国力を持つ連邦はジオンの独立を認める必要はなく、対立路線を進めば軍事衝突は避けられなかったでしょう。その戦争で、他のサイドへの攻撃や、コロニー落としが行われたかはわかりませんが、後々でアクシズを地球に落とそうとしたシャアの行動を見れば「ほぼ同じ」かもしれません。