もはや伝説の「ラッコ鍋」

 グルメマンガ以外でもよく描かれる「食事シーン」。仲間や家族との絆を深めたり、緊迫感あふれるサスペンスシーンになったりと、さまざまな形で描かれますが、作品によっては斜め上のとんでもない食事シーンも登場しました。

 例えば『ジョジョの奇妙な冒険』第4部で虹村億泰がトニオ・トラサルディーの店で料理を食べて、「ゥンまああ〜いっ」と叫んで怒涛の食レポを繰り出すエピソードは、かなり有名で他作品でもよくパロディの対象にされています。今回は他にもあるマンガの強烈食事シーンを振り返ります。

●『ゴールデンカムイ』のラッコ鍋

 2022年4月28日に堂々の完結を迎えた人気マンガ『ゴールデンカムイ』において、12巻に収録されている「ラッコ鍋」のエピソードはもはや「伝説」といえるでしょう。アイヌ文化に根差した独特なグルメが多数見られる同作のなかでも、いろんな意味で一番人気の料理ではないでしょうか。

 釧路での蝗害(こうがい、バッタの大量発生)で近場の小屋に逃げ込んだ、杉元、白石、谷垣、尾形たちは、蝗害をやり過ごす間に食事をしようと谷垣がアイヌの老人からもらったラッコの肉を鍋にしますが……。グツグツ煮えるその鍋の臭いを嗅いだ杉元たちは、どんどん様子がおかしくなっていきます。

 なんと、ラッコ肉はアイヌの言い伝えで「煮える臭いが欲情を刺激する」「ひとりでいては気絶するほどだから、食べる時は必ず男女同数で部屋にいなくてはいけない」と言われるほどの代物だったのです。谷垣も老人から肉をもらう際にインカラマッ(ラは小文字)と食べるように言われていたのですが、そんなものを野郎だけで囲んでしまったせいで小屋のなかはとんでもないことになります。

 白石が胸元を露出させた谷垣に「このマタギ…すけべ過ぎる!!」と欲情したり、後から入ってきたキロランケに褒められて照れる杉元を見てみんなが「カワイイ」とキュンキュンしたり、体調を崩した尾形が裸に剥かれて寝かせられたり……最終的には杉元の提案でみんなで延々と相撲をとり始める始末。時を同じくしてアシリパ(リは小文字)とインカラマッが、めちゃくちゃシリアスな話をしているギャップも笑えます。製作が発表されている実写映画で、果たしてこの場面が再現されるのか……気になるところです。

●『銀魂』の鍋を囲んでの頭脳(?)戦

 SF時代劇ギャグマンガ『銀魂』の記念すべき第百訓目のエピソード「鍋は人生の縮図である」。大晦日、万年金欠の万事屋の3人は奮発してスキヤキを囲みますが、めったに食べられない豪華メニューを前にみんな何とか多く肉を食べようと、鍋を仕切る「鍋将軍」になるべく謎の頭脳戦が勃発します。

 明らかに『DEATH NOTE』パロディのめちゃくちゃ長い心理戦モノローグと顔芸が繰り広げられますが、全然頭のいいことは言っておらず、意地汚い争いが繰り広げられました。一度バカのふりをして勝負を制したと思った神楽に対し、「実はこの肉は……」というどんでん返しがあってからの、お登勢とキャサリンも参戦してのさらなる争い……。一話完結のギャグ回のなかで、屈指の人気エピソードです。アニメではこの争いにさらに桂とエリザベスも参戦し、声優さんたちの熱演も相まってさらなる壮絶な戦いが繰り広げられました。

地上最強の親子喧嘩の幕引きとして範馬勇次郎による「エア味噌汁」が振舞われる『範馬刃牙』37巻(秋田書店)

格闘ディナーがどう見ても「下品」

●『らんま1/2』の「格闘ディナー」

 格闘ギャグマンガとして数々の衝撃バトルが描かれてきた『らんま1/2』のなかでも、強烈なエピソードとして有名なのが早乙女乱馬とピコレット・シャルダンによる「格闘ディナー」です。修行時代に空腹の早雲と玄馬はシャルダン家を訪れ、「格闘ディナー」で敗れた際に、代金の代わりに将来娘が生まれたら嫁に差し出すと約束をしていました。20年後、約束通り天道家の三姉妹の誰かを嫁にもらいにやってきたシャルダン家の家元・ピコレットに対し、その前にピコレットと戦って負けていた乱馬は女体化した状態であかねたちの身代わりとしてシャルダン家に修行に行くのですが……。

 作中の「格闘ディナー」とは、フランス料理のオードブルを周囲に食べる姿を見せず(見せるのは「下品」だから)にいかに早く完食するかを競う競技です。ピコレットはじめ競技を極めた者たちは異常に大きく開く口と長い舌を持っており、目にも止まらぬ速さで次々と料理を平らげます。手の動きは速くても口と胃袋は普通な乱馬は、間近に迫った決闘で負けたらピコレットの嫁になるというピンチのなか、太古の格闘ディナー達人集団「プチプーシュ(小さな口)」が編み出した必殺技「グルメ・デ・フォアグラ」の存在を知り習得、決闘に挑みます。

「グルメ・デ・フォアグラ」は、対戦相手をガチョウに見立てて、素早い手の動きで自分の料理を相手に食べさせるという技。そして、どんどん自分の料理を口に放り込んでくる乱馬に対し、ピコレットは皿を口にはめ込んでガードしたり、直接料理をすする「犬食い」をしたりと対抗します。戦うふたりや解説役の早雲たちが大真面目に反応するなか、技の応酬を見ているギャラリーの面々の「下品だよなあ」という冷静なツッコミがシュールです。

 観客にまで料理を食べさせるなど、いろいろやった挙句の決着のアホらしさ含め、『らんま1/2』のなかでも人気のエピソードとなりました。

●『範馬刃牙』勇次郎お手製の「エア味噌汁」

 人気格闘マンガ「刃牙」シリーズの3部『範馬刃牙』では、ついに主人公・刃牙と地上最強生物の父・範馬勇次郎の4年越しの直接対決が描かれました。国家が恐れる一方で、大勢のギャラリーが集まったこの「地上最強の親子喧嘩」は、高級ホテルでのディナー途中から始まり、最後はまさかの「エア夜食」で幕を閉じます。

 さまざまな強敵との戦いやイメージトレーニングの数々で時速270kmのダッシュまで身につけた刃牙でしたが、それでも勇次郎には敵わず、究極の殴り合いの果てに、全身の骨を折られ鼓膜も破られ地面に転がりました。そのまま立ち去ろうとした勇次郎でしたが……。倒れたままの刃牙は闘志だけを父にぶつけ、立ち止まらせます。そして、勇次郎は「もういい」と言って、その場で「エア味噌汁(具は豆腐とネギ)」を作り、刃牙に振舞いました。周りのギャラリーまで確かに切られる豆腐や鍋が見え、味噌汁の匂いまで感じてしまうほど、勇次郎の動きは完璧。そして親子はエアちゃぶ台を挟んで対話します。そして、刃牙はちゃぶ台をひっくり返し、「少ししょっぱい」味噌汁を作ってしまった父を救いました。

 そして、かつて勇次郎は地上最強の自分を「炊事場に立たせた」刃牙の「我が儘を通す力(強さの最小単位)」を認め、「地上最強を名乗れ」と言います。しかし、刃牙は耳が聞こえておらず、地面に倒された時点で負けていたと敗北を認め、ついに勝負終了となりました。範馬親子のやり取りが高度過ぎて、困惑した読者も多かった場面ですが、長年にわたる親子の因縁が一区切りし、歩み寄って互いの「最大」を差し出した伝説のシーンとして語り継がれています。殺し合いではない、「親子喧嘩」の決着として感動的です。

 2022年4月にはTBSの情報バラエティ番組「ラヴィット」で、お笑いコンビ・アルコ&ピースの平子祐希さんが独自の「完全再現『刃牙飯』ランキング」を発表、「エア味噌汁」は3位にランクインし、話題となりました。